デザインズ・ベイビー

遺伝子操作を受けデザインズ・ベイビーとして誕生した少年の物語。
退会したユーザー ?
退会したユーザー

「親心~湊編~」

公開日時: 2020年10月16日(金) 17:00
文字数:1,331

「――ん」

「ありがとう」


湊は同僚からコーヒーを渡された。


 疲れた身体に、コーヒーの甘さがちょうどよかった。


コーヒーのカップを、ゴミ箱に投げ捨てる。


次の瞬間――湊の身体が、ふらついた。


机に手をおいて身体を支える。


「何をした?」


油断していたか。


「悪いけど、睡眠薬を入れさせてもらったよ」

「余計なことを」

「バカが。こうしないと、お前休まないだろう? 見ているこっちもつらい」


同僚の愛のある毒舌を、聞きながら湊は意識を失った。


「――湊」


湊は名前を呼ばれてふり返った。


そこには、奈美が立っていた。


「かあ……さん」

「あなたのそんな表情が、見られるとは思っていなかったわ」


驚いた湊の表情を見て奈美は笑う。


その笑顔もどこか寂しそうだった。


陰があった。


「母さん。僕は都を守れなかった」


湊は無力さを実感するしかなかった。


「大丈夫。あなたの思いは、都に届いているわ」

「随分、わかったような言い方をするね」


奈美と同じ薄紫色の瞳が細められる。


「私はあなたの母親を。あなたたちが考えていることぐらいわかるわ」

「まさか、都はここにくるつもりなのか?」


都は帰るという選択肢を選んだらしい。


「無茶をするわよね」


あなたも都も。


私は見ていられないわ。


「無理をしないとやっていけないからね」


最後までやれることはしとかないと、落ち着かないと。


「都のことをフォローしてくれるかしら?」

「僕にできることがあれば、やるつもりさ」


それが、都の道を切り開くことになるのなら。


「こうしてでして、でてきたのは理由があるからだろう? それに、隠し事は嫌いだ」


早く話してしまえば楽になると、湊は奈美に迫った。


「あら。鋭いのね。湊」

「何を隠している?」

「都とあなたは兄弟よ」

「僕と都が?」

「都はあなたに懐いていたわ」

「確かに、都は僕に懐いていたけど」


兄弟だとは予想もしていなかった。


「都にとって湊は生きる希望だった。湊がいたから、湊は今まで生きてこられたのよ」

「僕が都の生きる希望ね」


手本になれているのかと疑問に思う。


「言わなかったのは、二人の負担を減らすという意味もあるのよ」

「都が兄弟だと知ってしまったら、今の家族のみならず僕まで助けようとするだろうね」


都のことである。


全部、一人で抱えこんでしまうだろう。


ならば、兄として見えないところから手を貸すしかないだろう。


「都に伝えるつもり?」

「かわいそうだけど、伝えるつもりはない」


このまま、秘密にしておいた方がいいかもしれない。


胸の中にとどめておいた方がいいだろう。


「でも、あなたたちは引き寄せられるように、仲良くなっていた。知らなくても、血は争えないのかもしれないわ」

「僕は利用されていたわけか」

「ごめんなさい。湊を利用するつもりはなかった」


湊ならきっと、受け入れてくれると思っていた。


「そんな事情があったなんて初耳だな」

「誰にも言わなかったからね」

「――母さん」

「ああ。時間だわ」


奈美の幻影が崩れていく。


「また、どこかで会えるよね?」

「ええ。会えるわ。都をお願いね」


私に代わってあの子を見届けてほしい。


「その約束は必ず守るさ」


闇にとけるようにして、奈美は姿を消す。


それと、同時に湊は夢から覚めた。


言われなくても兄として、必要最低限の仕事はするさ。


湊は満月を見ながら心に誓った。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート