デザインズ・ベイビー

遺伝子操作を受けデザインズ・ベイビーとして誕生した少年の物語。
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第六章「暗闇」1

公開日時: 2020年10月12日(月) 17:00
文字数:1,275

遺伝子研究の実験せいで、多くの人が犠牲になった。


近づかないで……人殺し。


返して……私の家族を返してよ。


研究に利用され、残された家族の悲痛な叫び。


都に向けられる殺気。


絡みついてくる闇。


ぶつけられる負の感情。


絶望の声。


伸びてくる血まみれの手。


夢見が悪いせいで、汗ではりついたジャージが気持ち悪かった。


再び、眠りにつけるはずがなく頭からシャワーを浴びる。落ちる水滴をそのままに、椅子に座る。


横から伸びてきた手が、濡れた髪の毛にふれた。寝ていると思っていた美和の手だった。


美和は優しく都の髪の毛をふく。


「起きていたのか?」


美和は都の隣に座る。


「勉強をしていたのよ」


机に置いてあるマグカップから、甘い香りがする。


ココアを用意してくれたのだろう。作ってくれた美和には申し訳ないが、口をつける気分にはならない。


身体が飲食を受け付けなかった。


「泣かないのね」


ここにいるのは美和だけである。


だから、好きなだけ泣いて、弱音を吐いてほしかった。弱さを見せてほしかった。


美和には都の心が助けてと、いっているような気がしていた。


気持ちを露わにすることも大切だと都に伝える。


だから、本心を曝けだしてほしい。


「僕は泣くほど子供ではない」


私もあなたも。


「まだ子供だわ」


少しは素直になってほしかった。


「甘やかされるつもりはない」

「甘やかされることも必要だわ」


そうでしょう?


「感情なんて、忘れたままだ」


あの研究所においてきたままだった。


泣くことなんてとうの昔に、忘れてしまっていた。


涙なんてかれてしまっていた。


「ねぇ、夢はないの?」

「夢なんてないさ」


時間が残っていない都に、夢などなかった。


「作ればいいじゃない」


美和はまっすぐ都を見つめる。


「簡単そうに言うな」


都は表情を変えることなく、美和を見つめ返した。


「いくらでも取り戻せるわ」

「理想論なんて嫌いだ。それだけで、どうにもならないこともある」

「どうにもならないことって何よ? やりたいことをやればいいじゃない」

「美和は気楽でいいよね」


守られている美和は都とは、違い明るい未来が待っている。


好きなことを仕事にして、結婚もできる。


子供もできる。


愛した者と一緒になれる幸せ。


都にはそれが叶わない。


都と美和ではおかれている立場が違う。


「もっと、私たちを頼りにしていいのよ?」

「美和に僕の何がわかる?」


苦しみを知らないくせに。


奪われるつらさがわからないくせに。


「見てられないのよ。家族だもの。一緒に乗り越えていけばいいわ」

「――偉そうに」

「私は都が思っているよりも、しつこいわよ」


本心を聞くまで諦めないからね。


覚悟しておいてちょうだい。


都に宣戦布告をして、美和は部屋に戻る。


ちょうど、夜が明けようとしていた。


よるあさ


月と太陽。


対局する二つの役割。


空の支配者が変わる――交代する瞬間だった。


あと、何回夜明けを見ることができるのだろうか?


眺めることができるのだろうか?


でも、時間は残酷で、『今』を――現在を、刻み続ける。


針は進み続ける。


誰もとめる権利はない。


時間なんて、一生とまっていればいいのに。


動かなければいいのに。


都は夜明けの空に視線をむけた。

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