「――都」
優しいその声を忘れるわけがなかった。光の粒子が集まり、奈美の姿になる。
「かあ……さん」
高熱で夢を見ているのだろうか?
「都。無理してないかな?」
心が悲鳴をあげて、苦しくなっていないかと奈美は尋ねる。
「無理をしないと美和と和江さんは守れない」
「あなたは一人じゃないわ。新しい家族がいるじゃない。素直になりなさい」
「今更、素直になんてなれない」
「私が生きていれば、都にこんな思いをさせなくてすんだ。ごめんなさい」
肉体があれば、抱きしめられる。
人殺しという罪を、背負わなくてもよかった。
手を血で汚さなくてもすんだ。
悔しいわ。
「母さんが謝る必要はない」
「研究所に戻るつもりなの?」
ここにいれば安心だろう。
「僕があの人の暴走をとめる」
それが、都の役目――役割ならば、逃げることはできないだろう。
その役割を果たす他ないだろう。
次世代の子供たちの命を守るためだった。
「その気持ちに変わりはないのね?」
「決めたことだ」
「――頑固なのね」
「それでも、この気持ちに変わりはない」
「都の気持ちは受け取った。あなたの意思は私が守るわ」
母としてこれぐらいはさせてとほしいと願いをこめる。
やがて、奈美に姿が徐々に薄くなっていく。
光の粒子が弾けるようにして、消えていった。
母は傍にいる。
共に戦っている。
僕に勇気をくれてありがとう。
母さん。
都は自室で目が覚めた。
看病中に眠ってしまったのだろう。
美和がベッドの横で、眠っていた。
都は美和を起こさないように、布団をかける。
少し風にあたろう。
都は窓を開けて外にでた。
熱がある身体には風が、気持ちよかった。
もう、迷わない。
都の瞳には決意の光が宿っていた。
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