「――湊」
隆が都を抱えて外にでると、湊が待っていた。
こんな汚い手に、都を抱かせたくない。
湊は隆から都の身体を奪った。
湊が冷たくなった都の頬をなでる。
まるで、宝物を扱うように優しく。
遺骨は海にまくと決めていた。
ただ、静かに見送りたかった。
都を乗せた車が小さくなっていく。
この研究所は元々、奈美の祖父母が経営していたらしい。祖父母の頃は、難病の子供を助けるための薬を、開発していたと聞いている。祖父母が山奥ではなく、都心から近い場所に研究所を建てたのは少しでも患者を救いたいといったあらわれからか。
研究を引き継いだ奈美と隆が、今の遺伝子操作研究所へと形を変えた。
隆のやり方に反発した湊が、祖父母の研究を引き継いだ。
そして、その役割を終えようとしている。
歴史に幕をおろそうとしている。湊は持っていたスイッチを押した。
爆風を起こしながら、研究所が壊れていく。続いて湊の研究所も爆破する。
「湊――お前」
隆は湊の頬を思いっきり叩いた。
「やはり、都の前では演技をしていましたね?」
「邪魔者を消すためだ。何が悪い?」
「教授。私はあなたを許さない」
実の息子を邪魔者扱いするなど信じられなかった。
隆は都の命をどうでもいいと思っている。
そのことがよくわかった。
「私を倒せるのなら、やってみろ。その時を楽しみにしている」
湊は振り返ることなく、歩きだした。
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