デザインズ・ベイビー

遺伝子操作を受けデザインズ・ベイビーとして誕生した少年の物語。
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第十一章「故郷(ふるさと)」

公開日時: 2020年10月19日(月) 17:00
文字数:1,311

あともう少しだというのに。


手が届く距離だというのに、ここで、力つきるわけにはいかない。


都は血を吐きだした。ペットボトルの水で、口をすすぎ口元の血を洗い流していく。


幼い頃の記憶を頼りに、研究所の近くまで来ることができた。


研究所は視界に入っている。


たどり着くと研究員たちが一斉にでてきた。


本来、研究所内で生活ができるようになっている。そのため、研究員たちが外にでることはない。外に機密情報が漏れないようにするための措置でもあった。


都はこの光景に違和感しかなかった。


隆が自ら命を絶つような気がして――。


なぜか、そんな予感がしていた。


それならば、とめなければいけない。


都はその流れに逆らって、研究所内に入った。


「お前、どこへ?」


都のフラフラな身体を見て、数人の研究員が声をかけてきた。


「その瞳と髪色を覚えている。 原田都か?」


生きていたのか?


事情を知らない研究員たちには、死んでいるものだと思われていたらしい。亡霊でも見ているような視線を送ってくる。


周囲がざわついた。


「どうして、研究所に?」


復讐のために。


「教授を殺しにきたのか?」


都は無視をして壁に手をついて、通り過ぎていく。


「――待て」


一人の研究員が都の身体を支えて、ゆっくりと歩く。


懐かしい匂い。


小さい頃から、親友が好んで使用していた石けんの香り。その香りは、今でも同じだった。


間違いない。


間違えるわけがなかった。


懐かしさがこみ上げてくる。


「――湊兄さん」


変装をしているのも、他の研究員たちの視線をそらすためだろう。湊兄さんと呼ばれた青年は、カツラとカラーコンタクトととる。


「ごめん。ごめんな。都」


約束を破ってしまって。


守ってやれなくて。


何もしてやれなくて、ごめんと湊は都を抱きしめた。都は迷ったが抱きしめ返す。


「今、こうして抱きしめてくれている。それだけで、十分だよ」


いい思い出になった。


最高のプレゼントになった。


だから、泣かないで。


涙を拭いて。


笑っていて。


言葉を発するのもつらいだろう都に、勇気づけられていた。


「いい表情をするようになったな」

「家族が笑うことを思いださせてくれた」

「ここまで、大切に育ててくれたことに、感謝しないといけないな」

「温かい人たちだったよ」


そんな、柔らかい表情の都を湊は初めて見た。


「うん。お前を見ているとわかるよ。でも、死ぬのが怖くないのか?」

「これが、僕の運命だとしたら、受け入れるしかないよ」

「運命か……その運命、僕が半分引き受ける」


二人で分担するなら、気持ちも楽になれるだろう。


「嬉しいけど、断る」

「――なぜ?」

「湊兄さんには、湊兄さんの運命がある。その時に、全力でぶつかってほしい」

「今度会えることがあれば、僕に守らせてくれ」

「まさか、最後に湊兄さんに会えるとは思ってもいなかった」

「山口とある人に背中を押されてね」

「あいつもお節介な」

「ここが、所長の部屋だ」


分厚い扉の前で、湊と都は立ちどまる。


「ありがとう。じゃあ、またね」

「――またね」


さようならでもなくバイバイでもなく。


湊と都が選んだ言葉は、「またね」という言葉だった。


その方が、また会えるような気がして。


希望があり、前に進めるような気がしていた。


二人は自然と笑みを浮かべていた。

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