デザインズ・ベイビー

遺伝子操作を受けデザインズ・ベイビーとして誕生した少年の物語。
退会したユーザー ?
退会したユーザー

第七章「同胞」

公開日時: 2020年10月14日(水) 17:00
文字数:1,800


「都君? 原田都君でしょう?」


都は他学校帰る途中――他校の女子生徒に、声をかけられた。他の生徒たちが様子を見にくる。


その視線がうっとうしい。


女子生徒の腕をつかみ、裏路地に引きずりこむ。


「――誰?」


どうして、その名前を知っている?


「私は山口鈴」

「――山口?」


その名前に都は聞き覚えがなかった。


僕を殺しにきたのか?


都は鈴の細い首筋に、ナイフを突きつけた。細い首筋に、赤い線が入る。早くも、今つけた傷は修復されつつある。


おそらく、セカンド・タイプだろう。


不思議なのは、鈴から殺気を感じないことだった。


最初から戦うつもりなどなかったのだろう。


都はナイフをしまった。


父の命令でもない。


追手ですらない。


ならば、危険を顧みず、なぜ、自分の目の前に現れたのだろうか?


鈴の意図がわからない。


「こうしないと、会ってくれないでしょう?」


数少ない同胞を見たかっただけだと鈴は言った。


話してみたかっただけだと。


ずっと、会ってみたかったのだと。


鈴は殺されてしまうかもしれない恐怖よりも、興味を優先させたらしい。


「捨てられた気分はどうかしら?」

「いいわけないだろう」

「私も同じよ」

「なるほど。本当に自分の意思で、会いに来たみたいだな」

「当たり前よ。あなたには、時間がないことは、わかっているわ。教授に会いにいくつもりでしょう? 今の家族はどうするつもり?」

「――守るさ」


命にかえても、何があっても、守ってみせる。


そのために、何人の追手の研究員たちを殺してきたことか。


排除してきたことか。


すでに、手は血で染まっている。


心もドロドロとした暗い感情に支配されている。


「雑談をしにきたわけじゃないだろう?」


早く本題に入れと都は瞳を細める。


「もし、私が教授を今の地位から、ひきずりおろすと言ったら、どうする?」


クーデターを考えていたら?


殺すと言ったらあなたはどうする?


「それは、君次第だ。僕が決めることじゃない」


君の人生なら好きにすればいい。


「まさか、一人でいくつもりなの?」


危険すぎると鈴が呟く。


「全て僕が終わらせる」


鈴が見たのは覚悟を決めた都の瞳だった。


「わかったわ」


あなたが決めたことなら、私は手をださない。


都の意思を尊重したかった。


「けど、これだけはさせて」

「何を考えている?」


「遠くからになるかもしれないけれど、私にあなたの家族を守らせて」


自己満足かもしれない。


余計なお世話かもしれない。


鈴がそんなことを考えていたなんて、都は思ってもいなかった。


「僕の家族を、頼む。それと、この手紙を渡してほしい」


美和と和江に気がつかれないように、書いた手紙だった。


「どっちの家族かしら?」


今の家族の方なのか?


現在の家族の方なのか?


「今の家族の方かな。それと、こっちは、渡せたらでいい。湊兄さんに渡してほしい」


渡すのはいつでもいい。


「意外と人使いが荒いのね」

「僕に会いにきた行動力を、買っただけだよ」


さぁ、いって。


都は鈴の背中を押した。


「でてきなよ」


都は鈴がいなくなったのを確認してから、都は声をかけた。隆が放った追手たちだろう。


都は鈴と話している時から、殺気を感じていた。



次の瞬間――ナイフの雨が降ってきた。都は鎖でナイフを弾き飛ばしていく。


鎖がジャランと音を立てて、男たちをなぎ倒していった。数分もたたないうちに、男たちの山ができていく。


男たちのうめき声が、響き渡る。


これで、しばらくは追手がこないだろう。


隆に対する都なりの牽制だった。


どっちにしろ、早くここから逃げなければ隆側の清掃班が到着してしまうだろう。


隆の部下に会うことだけは、避けたかった。


鎖についている血をふりはらう。


鎖を武器箱に片付けた。


遠くで雷が鳴っている。


ポツリ、ポツリと雨が降り始める。


この雨が心の傷も。


消えない心の痛みも、洗い流してくれればいい。


取り除いてくれればいい。


都は心臓が波うつのを感じた。


嫌な心臓の跳ね方だった。


さっきから、感じた違和感はこれか。


心臓も犯されている。


雨に降られながら、ゆらりと立ちあがる。傘をさす気分にはならなかった。


現在の状況を、亡き母が見たらどう思うだろうか?


しっかりしなさいと、怒るだろうか?


それとも、仕方がないわねと、支えてくれるだろうか?


「母さん。僕がいくべき場所はどこなのだろう?」


大切な人にまで嘘をついてまで、あの家にいてもいいのだろうか?


今の進むべき道は正しいのだろうか?


あっているのだろうか?


都の気持ちそのままに、雨は降り続いた。






読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート