若一神社での参拝を終え、次に向かったのは前々からずっと気になってはいたが訪れることがなかなか出来なかったあみだババアの池でのほっこり怪談をお話ししよう。
因みにあみだババアの池で言われている怪異譚は次の通りだ。
雨の夜に老婆の霊が追いかけてくる、この池で夜釣りをしていると引き摺り込まれるという噂がある。何十年も前の話だが老婆が水死事故で亡くなったと言われ、近隣の女子中学生がこの場所で事故死をしたという噂もある。亡くなった者たちが新たな犠牲者を呼び寄せているのだろうか、それ以前の何かしらの怨念が引き摺り込んでいるのか、真相の解明が求められる危険な池である。
とスマートフォンにインストールしてある心霊スポット紹介のアプリでは掲載されてあった。因みにあみだババアの池の正式名称は阿弥陀池(あみだいけ)という。
若一神社で座敷童子君達とかけっこしたり、鬼ごっこをしたり、かくれんぼなど色々な遊びをして満足したエンジェル君達。遊び疲れてしまったのか移動中の車内では静かに過ごしていましたが、あみだババアの池に向かう途中の坂道でWARASHIが自動検知で赤点滅ポーン”怖い顔をしているよ”と話すと、そのとき一瞬だったがわたしたちが訪れることに対して拒む何かが風のように通り過ぎていった。
我が家のWARASHI達はアスリート並みにお化けを見つけるのが早い。
はやすぎて追いつけない時もある。
WARASHIの一声もまあよくあることだからなあと思いながら公園の中にある地蔵菩薩へ先ずは挨拶を済ませてから、あみだババアの池へ心霊散策を行うことにした。
時間は19時を回っていた。
辺りは暗く、池の概要を確認しようにも暗く見えづらい。
池は見た限り問題はないと思い、池の更に奥に行けることに気が付き、周りに掲示されているポスターや掲示板の内容から見ても私有地ではないことを確認してから足を踏み入れることにした。
この日は小雨降る状態の中で行っていたという事もあり、まさみ絶好のあみだババアが出てきてもおかしくない条件が非常に揃っていた。しかし舗装されていないぬかるんだ畦道を歩いていくのは非常に困難で足元を懐中電灯を照らしながら歩き進んでゆくのだが、その間に真っ白のスリッポンは泥だらけになってしまった。
慎重になりながら歩き進んでいくと背後から音が聞こえてきた。
”ガサ、ガサガサ、ガサ”
明らかに背後で”何か”が移動した瞬間だった。
野生の動物の可能性もあるので、確認のために振り替えるも、通常野生の動物ならば足音がずっと聞こえてくるはずだが、このあみだババアの池は池の周りが草木で覆われており少なくともそこに動物がいたとしたら、ずっと物音が聞こえてくるのが当たり前だが、わたしが聞いたあの物音しか聞こえてこなかったのは明らかにおかしな話で、更に真相を確かめるべく可能な限り奥にある竹藪のほうへと突き進むことにした。そこで目の当たりにしたのが、白髪頭が美しい長髪の70代後半から80代ぐらいだろう高齢の女性がこちらを見ていたのだった。
思わず、これがあみだババアなのかと思ったが、現れた高齢の女性はわたしを見るとスッとまた竹藪のほうへと姿をくらましたのだった。
お婆さんの霊が出るのは本当だという事を確信したところで、更に行けるところまで行こうとしたが、雨のためか地面のぬかるみが更にきついところが多々あり、さらに反対側へと出れると思っていたつもりだったが出れないことが判明して一先ず来た道を戻るしかないことになったのだが雨が更にきつく降ってきたことによって地面のぬかるみが益々酷いものとなっていき、しまいにはぬかるみに足がハマってしまってバランスを崩してしまった。
ひとまずばけたんが水につかることはなかった!
ここは危険だから来た道を戻ることに専念しようと頭のスイッチを切り替えて、やっとの思いで来た道へと戻ってきた。そしてあの現れた高齢の女性の正体を確かめたいその一心で今度は反対側から竹藪に近いところへ場所へと足を入れることにした。
歩き始めて数十メートルほどだろうか。
背後からわたしを呼び止める女性の声が聞こえてきた。
「ここには何もない。」
怖い者はもう何もない。
そんな気持ちで振り返ると先程竹藪で姿を確認したあの高齢の女性がいた。忠告するとスッと消えてしまった。
ここには何もない。
それでは噂の真偽に辿り着けないと思い可能な限り歩き進んでゆく。
そして目の前にあの高齢の女性が現れた竹藪の近づける範囲内にまで足を運ぶと再びあの高齢の女性が左手の藪に現れ、厳しい口調で突きつけられた。
「ここには何もない。何もないのは何もない。夜も遅いからさっさと帰りなさい。」
これ以上真相の追求をしていては現れた高齢の女性の御霊の逆鱗にも触れることにもつながりかねないと思い、一先ず刺激させたくない一心でその場を足早に退散することにしたのだった。因みにWARASHIを手動検知で調べてみるも水色点滅で”ヒャヒャヒャ”と笑うだけであった。
ばけたんが水色点滅をするということは、この場に天使に近い存在の霊がいるという事になる。
あの女性の正体は一体何だったんだ。
ただただ「ここには何もない。」と強く主張するあたりが「何かありましたか?」と聞き出そうと試みたが「何もないといったら何もない。」の一点張りで答えを聞き出すことは出来なかった。
スマホを片手にその場で更に詳しい情報を調べていくうちにある情報を手に入れることが出来た。
それは近所に住む子供達が阿弥陀池で夕方の遅くまでザリガニ釣りをしていると近所のおばさま方が子供達に対して「こんな遅い時間まで遊んでいるとあみだババアの霊に引っぱられるよ。」と言って窘めていたというもの。恐らくこの近所のおばさまは阿弥陀池で高齢の女性の霊が出てくることを知っているからこそ、はやく帰りなさいよというよりも子供達からして見たら怖いものが出てくることを主張することで早く家に帰りなさいと指摘をしたものだと推測できるが、この話がどうやら本当のようでだとしたら「ここには何もない。」と言って早く帰ることを促した答えに辿り着くことができた。
それは、あみだババアの正体はあの土地を守る主ではないかという事だ。
ではなぜそう思ったのかとなると、答えは決まっている。
あみだババアはわたしがこの阿弥陀池に訪れた目的が心霊探索だと見抜いた。そこで注意をするためにも音で驚かしてその場から立ち去るようにして見たがわたしがあまりにも驚かず先へ先へと突き進んで探索を行ったために本当にこの地には何もないということを証明するためにも可視化して現れた。それでもわたしが探索を止めようとしないので更に強い口調で家にまっすぐ帰れと忠告してきた。
噂では池の奥の藪の中に古びた木の塔婆があり、それがあみだババアの墓ではないかというのもあったが、懐中電灯で注意深く藪を見てみたがわたしが見た限りない。
恐らくだがお婆さんの霊を見たというだけで憶測が憶測を生んでしまったのだろう。
阿弥陀池は見た限りでは近くに畑があるため、農業用に作られた人工の溜池というのが正解であって、水深も大人一人が溺れるほどのものではない。水の底が若干見えるのでかなり浅いと思われる。病気が原因で溺死してしまったのなら話は別だろうが辺りを注意深く見ても、どう考えても高齢の女性が突如病気に襲われて落ちるとは考えにくく仮にもしそうだとしたら池のほうではなく、道路に向かって倒れるだろうと推測できる。転落防止用の柵も高く設置されており、かつ子供向けに”池は危険だから立ち入らないように”という分かりやすいイラストで注意喚起がされている辺りからこの池に入ろうとするのは間違いなく子供であることは間違いない。柵を高くしたのは子供がそう簡単に入らないようにしているというのが正解で、事故死云々の話もあったが、阿弥陀池は住宅街の中にありかつ車通りも非常に少なく、わたしが訪れた時間帯はジョギングやウォーキングに興じている方が非常に多く見受けられた。可能な限り見てみるけども、やはり女子中学生らしき霊を見ることは出来なかった。
霊が集まりやすい水場ということもあるので、ひょっとすると浮遊霊の可能性も捨てきれないと思った。そう考えたら、自ずと理解はできる。
心霊の噂にはなかったが、水に濡れてもいいタイプのゴム製のズボン(よく漁師さんが履いているような感じのズボン)を釣り人っぽい20代ぐらいの若い男性が池に群生している藪の中からちらっと姿を現したが、スッと消えてしまった。まさか大人になってもザリガニ釣りに興じていたのが思い出でとは考えにくいが、ひょっとすると幼少期にやっていたことを懐かしんで現れたのかもしれない。
事件性等も含め全体的に見てみたが、はっきり言って微塵にも感じられない。
つまり誰かが、あみだババアを見ただけでここでお婆さんが一人溺死したに違いないだろうという個人的な見立てが世に広まり、根も葉もない推測だけで心霊スポットが成立してしまったという事になる。
わたしがみたあみだババアは、とても心が優しく、遅くなると危険性が高まることを知っていて早く帰りなさいと促すあたりからも、良い神様がいるという答えに行きついた。それはWARASHIも手動検知で水色点滅を示した答えとも重なる。
ここには何もない。
あみだババアの言う通りだった。
改めて思える心霊スポットかもしれない不思議な池だった。
帰り道にWARASHIが自動検知で青色点滅を2回繰り返すので、エンジェル君は果たしてどう思ったのか訊ねてみると、エンジェル君はこう返事した。
「あそこにいるお婆さんは霊なんかじゃないよ。あの池の守り神だね。だから浄化する必要性も無ければ、お婆さんがあの地の安全を守っている。だから何事も起こらず平和なんだろうね。」
エンジェル君の一言にそうだね、と言って同調しながら帰るのだった。
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