診療所に戻ると外は完全に日が落ちていた。
あれだけ外に集まっていた人達は居なくなっており静けさだけが取り残されていた。
「戻ったぞー」
「あーありがとう。そこの机の上に置いておいて」
「全く人使いが荒いよね」
そう言って散らかった机に包帯を置く。
「あはは 自己紹介がまだだったわね。私はケイアよ。この診療所で毎日診察をしてるの」
「よろしくケイア。俺はシーフだ」
さっきまで外においてあり老人たちの溜まり場となっていたベンチに腰を掛ける。
「シーフは旅をしてるって言ってたよね。泊る所は決めたの?」
「あ、そういえば忘れてた。おつかいなんて行かせるから」
シーフは嫌味たっぷりな目をケイアへと向ける。
「だからお礼にうち泊まっていきなよ。上の階は居住スペースになってるから」
「そんな子供が勝手に決めていいのかよ」
「いいの 今は一人で暮らしているから」
これは後から分かった事だがケイアには家族がいないらしい。
2年前12歳の時両親を事故で亡くし残された診療所で毎日一人で仕事をする毎日。
当初は何をどうすれば分からずただ無我夢中に両親の仕事を継ぎ生活をしてきたが最近は気持ちの整理も徐々に付いてきてこの仕事も楽しく思えるようになったと言う。
幸いケイアには回復の魔法が使え診療所に来る人は以前より増えたそうだ
それでも14歳の少女が一人で働いて暮らしているなどやるせない気持ちになった。
夕食の味が思い出せないのもきっとそのせいだろう。
その日からシーフはケイアの仕事を手伝うようになった。
「ねー包帯取って」
「はいはい、どうぞ」
昨日買ってきた包帯を渡す。
「兄ちゃん すっかり尻に敷かれてんな」
冒険者のおやじに笑われる。
「うるさいな。それよりケイア、なんでヒールが使えるのに包帯も使ってんだ」
「どんだけ有能なヒールでも骨折は軽く固定しなきゃいけないの。完全に治癒するまでには時間差があるんだから。」
「なるほどね。そりゃ知らなかった」
ポーションより上位の回復魔法でも一瞬で完治は難しいとなると中々危険な行動は出来ないと考えさせられる。
「そうだ、結局ケイアの天啓ってなんなんだ?回復魔法って天啓無しじゃ使えないんだろ」
「天聖よ。5歳の時に司祭様に鑑定してもらったわ。回復魔法は全て天聖を持ってないと使えないのは常識でしょ?」
無垢な笑顔で絶妙に嫌なところを突いてくる。
俺が常識が無い訳じゃなく村に常識が無かったと弁明したいがそんなことしても意味が無いので引き下がる。
そんなこんなで仕事をこなし1日が終わる。
△▼△▼
日が過ぎていくのは早く今日でここに来てからはや2週間が経った。
診療所の仕事を手伝う代わりに毎日ここで寝泊まりさせてもらっている。
手伝いと言ってもやれる事はほぼなく雑用をメインにやっている。
そして天啓回収の件だがどう切り出せば良いか分からず進展はない。
急にその天啓は元々俺のだと言ってみよう。
ただの変人にしか思われない。
何も告げず強奪することも可能だ。
だがこの能力に頼り2年間頑張ってきた少女の天啓を奪うなど鬼畜な事がどうして出来ようか。
少なくとも俺には出来ない。
そんなこんなで2週間も手を捲ねていたのだ。
だが答えは正直もう出ていると言っても過言ではないだろう。
俺はケイアから天啓を奪う事は出来ない。
実際天啓は散っていった光の玉を見る限りまだまだ沢山ある。
探知である程度は数の見当もついている。
わざわざこの天啓にこだわることも無いだろう。
▼▽▼
ドンドン!
───何の音だ。
「ちょっと起きてるの?」
部屋の外から大きな声が聞こえてくる。
寝ぼけ眼を擦りながら身体を起こすを部屋の前にケイアが仁王立ちしていた。
「え、まだ寝てるの」
「おはよ」
シーフの目はまだ開いていない。
「今日は出かけるって言ったじゃない」
「あれ、今日だっけ。診療は?」
「休みにしたのよ せっかく旅の途中なのに仕事手伝わせちゃって観光の一つもできてないでしょ?だからせめて今日ぐらいは一日観光しようって言ったじゃない」
「あーごめん。そうだったね。すぐ準備するよ」
部屋からケイアが出ていくのを見届け支度を始めた。
支度を済ませたシーフは1階へ降り待っていたケイアを連れて街に繰り出した。
この町はリンガラと言う名前でこれと言った産業は無いらしい。
それでも町は活気に溢れ人々の笑顔で満ちていた。
きっと領主が敏腕なのだろう。
「この町はいっつもこんな感じなの?なんか活気があるってゆうか。町って大体こんなものなのかね」
「んーここ数年からかしら…でも私バタバタしていたから詳しくはわからないわ」
「まぁそうだよな」
そんな会話しながら歩いていると今日の目的地に着いた。
「結構しっかりした店なんだな…」
「シーフがちゃんとした服が買いたいから店に連れて行ってくれって言ったんじゃない。だからリンガラでも有名な店に連れてきてあげたんでしょ」
「そうなんだけどさ」
想定以上の佇まいに苦笑いしか出ないシーフだったがここで帰るわけにも行かず観念して店の中へ消えて行ったのだった。
結果としては店員さんも親切だったし値段もそこそこでいい店だったとだけここに書いておこう。
その後は日が落ちるまで町を観光した。
日が落ちてからはリンガラでケイアが一番好きだという海鮮料理の出る店へ連れて行って貰った。
「まさか生魚が食べられるとはなぁ」
皿の上の料理を眺めながら感想を言う。
「凄いでしょ。リンガラでもこの店だけなのよ。内地だと中々流通しないのよね」
「そうだよな。どうやってここまで腐らさせず運んでるだろうな」
「確か専属の運び屋さんがいるらしいのよ。なんでも二つの属性の加護を持っていて温度魔法が使える人らしいのよね。どうやって雇ったんだか」
この世界には属性の加護というものがあり4つの属性が存在する。
火・水・土・風の加護に分かれ加護を持つ者はそれに準じた魔法が使える。
ただ全人類が加護を持ってる訳ではなく無加護の者もいる。
昔、人魔西南戦争があった頃は無加護の者が迫害されていたらしいが今はそんなことも無く一つの個性として認められている。
一人一つの加護しか持てない訳では無いが複数の加護を持つとなると相当の確率となる為人材として優秀なことが多い。
「2つも加護を持ってるのか。俺は一つも持ってないから羨ましいな」
「そうだったのね。今の時代に生まれてよかったわね」
ケイアはそんなことを言いながらケラケラと笑っていた。
シーフはそんなケイアを横目に黙々と新鮮な生魚を食べるのだった。
名前:kaia
職業:医師
天啓:天聖
魔法:回復
剣技:無し
力:40
速度:57
魔力:670
知力:90
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