観光の次の日シーフは朝食を食べ宿を引き払うと開店の準備に大忙しな人々が溢れ返る大通りを闊歩する。
目的地は西門周辺と宿から少し距離があるので途中でワーゲンを拾い向かう。
そして今日の目的、それは天啓保持者と接触を図る事だ。
王都にやってきてから3日目本来の目的を果たす為に行動を起こす。
初日からずっと西門に居る事は探知で分かっている。
果たして男なのか女なのか子供なのか大人なのかは何も分からない。
それでもやる事は決まっている。
2時間程度で西門に着き御者に代金を払い客車を降りる。
そこから少し歩くとテントが所狭しと並ぶ広場に出た。
近くに居た若い兄ちゃんにここはどこかと聞くとここが休憩所だという事が分かる。
休憩所と言ってもただの休憩所では無く行商人専用のらしい。
となると例の天啓保持者も行商人なのだろうか。
シーフは広場の隅まで歩いていくとそこにあるワーゲンの手入れをしている男に話しかける。
「もう出発するのか?そんなに急いで」
男はその声に振り返り眉目秀麗な顔をこちら見せる。
「はい。商品も積み終わって…って子供じゃないか。どうしたんだい?」
「チッ イケメンかよ。大外れだぜ」
シーフの舌打ちに男は驚き
「急に来て何だよ…びっくりしたなぁ。それと僕の名前はヘルメスだよ。呼ぶならヘルメスと呼んでくれ」
「じゃあヘルメス。もう出発するんだろ?乗せてってくれよ」
ヘルメスは又又驚き
「付いて来るのかい?えーっと君は?」
「シーフ。只の旅人さ」
そう言って髪をかき上げる。
「…え」
困惑し頬を掻くヘルメスにシーフは蹴りを入れる。
「困ってんじゃねぇよ。お前の真似しただけだ」
「僕はそんな事してないと思うんだけどな…」
すかさずシーフはヘルメスに蹴りを再び入れる。
何故こんなにもムカつくのかシーフは自分でも分からないがムカつくものはしょうがない。
きっと前世でイケメンに嫌な事でもされたのだろう。
そう正当化し脳内会議を終える。
「まぁいいよ。後ろも空いてそうだし乗せてもらうわ」
そう言うとシーフは荷物が疎らに置かれた荷台の中央で横になり落ち着いてしまった。
「いいのかい?僕はウェスト領まで行く予定だよ?」
聞いた事ない地名にシーフは深く考えず二つ返事で同行を決め寝返りを打つ。
ヘルメスもその有無も言わさぬ態度に説得を諦め途中で止めていた手入れの続きを進める。
ヘルメスが準備をしてる間シーフは荷台で寝てしまい出発したことに気づかずその日起きたのは夜になってからだった。
ワーゲン:人や物を運ぶ為の乗り物。人の送迎には客車、物の運搬には荷台を付けピレットが牽いて行く。
ピレット:馬の3倍はある巨体で重い客車などを牽く。力が強い分スピードはそこまで速くない。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!