一番最初に目を覚ましたのはシーフだった。
隣のベットで寝ているヘルメスを起こさない様にそっとベットから降り隣の部屋のエナベルの様子を確認しに行く。
コンコン
「開けますよー」
扉を開き中をこそっと覗くとエナベルは腹を出して寝ていた。
あれが20何歳の女で堪るか
どっからどう見ても5歳児だろ
扉をそっと閉め一階で2人を待つ事にする。
大体どの宿も一階は食堂スペースとなっており2階以上が客室だ。
ここの宿も例外無くその通りでカウンター席に座り注文をする。
「すみませーん」
店員が見えないので奥の方へ聞こえる様に大声で呼び出す。
すると奥から筋骨隆々な、そう言葉にするなら肝っ玉母さんと言ったところだろうか。
そんな半袖半ズボンにエプロンを掛けた女の人が出て来た。
あぁこの人か
「注文かい?いい男じゃないかい。サービスするよ」
出会い頭に気前がいいそんな事を言ってくれた。
少しばかり気持ちが良くなったところで後ろから水を差す声が聞こえてくる。
「いひ、シーフがいい男…いひひひ…あはははは、腹が、腹が痛いのじゃ…」
後ろを向くと腹を抱えて大笑いするエナベルの姿が在った。
ひとしきり笑いきるとシーフの隣のカウンター席に座りホットミルクを注文する。
「おい、俺だってまだ注文してないぞ。えーと取り敢えず同じもので」
「あいよ。それとお嬢ちゃんあんまりお兄ちゃんは笑っちゃいけないよ」
豪胆な笑顔でエナベルを諭し裏へと戻って行った。
「それにしても傑作なのじゃ。シーフが良い男…」
「お前にだけは言われたくないな」
そういがみ合ってると直ぐにホットミルクはやって来た。
「まだやってんのかい。程々にな。で他に何か食うかい?うちじゃ新鮮な水竜何かがおすすめだよ」
聞きなれない単語にはてなを浮かべシーフは聞き返す。
「水竜?」
「あぁ、あたしが毎朝、漁に出て取って来てるんだ。だから新鮮だ」
りゅうという言葉に2人は先日討伐した龍の事を思い出し顔を見合わせる。
「あの龍種を狩ってるのか…それは何というか流石だな」
「ん?そうか。ここら辺の仕事っつたら水竜狩りが主なもんだ」
「いや、凄いのじゃ。あの龍種を討伐出来る人なんてそうそう居ないのじゃ」
羨望の眼差しを向けるエナベルに女店主は何かを察しハッとする。
「なるほどな。水竜は龍種じゃない。龍の劣等種が竜だ。ま、字が違うって事よ。流石に龍種は狩れないね。この天啓があっても」
そう、俺が聞きたかったのはその天啓の話だ
そもそも俺が来たルートを戻り王都に行かず少し遠回りをしてこのシーシュまで来たのには
理由がある
正にその理由がこれだ
出来れば悪党だと奪いやすくていいと思ったがそうはいかないらしい
天啓は良い人に行く呪いでもついてんのかよ
「天啓ですか?」
「あぁ若い頃から狩りはしてたんだがな。ある日怪我をしちまって寝たきりになったんだ。でもな、ある日剛力の天啓を授かった。そのおかげで今も狩りが出来てるんだ」
そうかやはり天啓は望んだ人に適したものが与えられている気がする
つまりあれはでたらめに天啓をまき散らした訳じゃないという事か
早計か
だがこの人からも俺は天啓を奪う事は出来ないだろうな
「幸運だったのじゃな」
しみじみと頷くエナベルを見てババアかと突っ込みたくなるがぐっと押し込め我慢する。
余計な事を言うとエナベルはめんどくさい、それ真理
「まぁでももう寝たきりに戻っても良いと思えるぐらい十分この天啓には助けられたんだ」
そう言って貰えると貸している冥利につきると言うものだ。
「まぁ精々使い潰してやればいいんじゃないか?折角拾ったもんならさ」
女主人は目を開き驚いた後優しい顔に戻り答える。
「そんなもんかね。ならそうしようか。あぁあたしはズィナミってんだ。何かあったら頼ってくれ。何でも力になるよ」
こりゃそのまんまだと思いながら内心笑い、シーフはその気前の良さを気に入っておすすめの水竜を頼みエナベルと2人で堪能したのだった。
ヘルメスが起きてきたのはひとしきり食った後で「起こしてよ~」と情けない声を上げながらやって来た。
剛力:筋力の増強。筋繊維の強化。
持つ人によっては最強になれるレベルの天啓です。
ヘルメスが持ってたらいつかの龍さんは1秒で首チョンです。
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