僕は不幸だ。
記憶にある内で一番最初の不幸な記憶は両親を亡くした事だ。
ある平凡な村の平凡な両親から生まれた僕は2歳までは楽しく暮らしていた、様な気がする。
「小さい頃の事だからね。あまり覚えてないんだ。その後の人生が衝撃すぎてもう記憶の隅にも残ってないよ」
でも2歳を少し過ぎたある日両親が死んだと村長から伝えられた。
理由は良く分からない、村の外で事故にあったとか言っていたけど実際は只の育児放棄かも知れない。
それからは村長の家でお世話になることになった。
「って言ってもお世話するのは僕だったんだけどね」
この村は貧乏な村で碌に税も払えずその日を生き抜くので精一杯だったんだ。
だから村長も歳も歳だから僕が居候を始めてから2年もしないで病気に罹った。
そこからは早くて数日で亡くなったよ。
僕はその時まだ4歳だった。
だけど僕を養える様な人はこの村には居なかった。
「だから僕は奴隷商に売られた」
でも4歳の奴隷なんて中々買い手なんて付かなかった。
そこから2年間は奴隷商に引き回されて奴隷商の世話をした。
その2年は苦痛の毎日だった。
奴隷商は只の奴隷商だけでは無くて盗賊まがいの事も行っていた。
毎日毎日村を襲うか、奴隷を売るか、そんな奴の世話をずっとしてたんだ。
「神様を恨んだよ。なんで僕がこんな目にってね」
でも転機が来た。
その日は大雨が降り風で木々が薙ぎ倒される様な天候だった。
雨が止んだら襲撃する予定の村に向かっている時、狭い崖の1本道を上っていた。
雨のせいでぬかるんだ道にワーゲンは操作を失って崖の下に落ちたのさ。
「奇跡的にも下は川でね」
僕は即死を免れた。
そうして死にそうになりながらも辛うじて川に流されていた僕はその時天啓を与えられた。
天啓の名は幸運。
今までの人生を嘲笑うかの様な天啓に僕は初めて憤りを感じた。
「だから思ったんだ。絶対死んでたまるかってね」
そのおかげかそこで死なずに今日まで生きてこられた。
そこから意識を失って次に目を覚ましたらどこかの家屋だったんだ。
近くには知らないお爺さんが居てどうやら僕を介抱していてくれたらしい。
その人は寡黙な人で行動で語るような人だったんだ。
初めて喋ったと思えば「明日には出てけ」だし怖い人だと思ったよ。
でもそんなことは無かった。
次の日朝起きるとお爺さんは家には居なかった。
仕事にでも行ったのかと思ったけど家の外に出るとお爺さんは居た。
刀を振ってたんだ。
その光景が何というか綺麗でね、見惚れてしまった。
だから僕は「僕にも教えてくれ」って言ったんだ。
そしたら自分の振ってた刀を投げてやってみろって言うんだ。
「そしたらその刀が重くてね、持ち上がらないんだ。それを見てお爺さんが振れる様になったら教えてやるって言ってきたんだ。かっこいいでしょ。あ、刀って言うのはね。両刃じゃなくて…知ってるのかい?凄いね、シーフ君は博識だ。話を戻そうか」
それから数カ月ぐらい経った時に初めて振り方を教えてもらったんだ。
普段の無口な姿からは考えられないぐらい喋ったのが衝撃だったな。
ほぼ叱責だったけどね。
お爺さんは昔は剣島って言う島群に住んでてそこの流派を教えてもらった。
修行は厳しくて何回も挫けそうだったけどあの時の鮮烈な記憶を思い出して自分を奮い立たせたんだ。
ある日、もう拾われてから5年は経ってたかな。
僕が11歳の時お爺さんが床に臥せてね。
介護をするのは2回目だったしやるべき事は全部やったと思う。
それでも駄目だった。
最後の言葉は免許は皆伝するだけだった。
「流石寡黙なお爺さんだろ?僕はおじいちゃんって呼んでたけど最後まで名前は教えてくれなかったな」
でも免許皆伝したとはいえ剣島流にある奥義は身に着かなかった。
お爺さんも奥義は使えなかったし仕方ないのかも知れないけど奥義を見せる事が出来なかった事だけが心残りだったな。
それでお爺さんが死んでも僕はそこの家で12歳まで暮らしてたんだ。
そしたら第2の転機が来た。
剣島流:剣島と呼ばれる島群国家の流派。これは王国民からの呼び名で剣島の人はただ剣とだけ呼ぶ。
剣島:アルザース王国南東に位置する島群国家。独立国であるが名前は持たない。昔、王国から差別された者達が集まって出来た国家とも言われる。今は王国と国交がある。
無の太刀:剣島流奥義。所謂居合切り
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