3人がアルザースの塔の着く頃には日は陰り東門から除く水平線には太陽が見えていた。
果たして太陽と呼んでいいか分からないがそう見えたのだからそれで良いだろう。
塔に着くと入り口には衛兵が居た。
ヤングが衛兵に顔を見せると衛兵は敬礼をし手間取らずに入場をする事が出来た。
「にしてもエレベーターがあるとはなぁ。便利すぎるだろ、この世界」
シーフは今居る12畳程度の箱の中から感想を漏らす。
「えれべーたーではありませんが凄いでしょう。魔晶をたくさん使って出来ている魔道具ですからね」
「30人まで上に乗せる事が出来るぞ」
数秒で屋上に着く。
そこにはこれと言ったものは無く2台の望遠鏡が置いてあるだけであった。
辺りはもう暗く王都の光がよく見えた。
「…綺麗だな。世界3大夜景とかあったら入りそうだ。それにしても屋上にはなんも無いんだな。望遠鏡も2台しかないし」
「そうですね。下の階には色々な軍事施設が内蔵されているんですけどね。屋上は監視だけが目的ですから。監視も主に遠視の天啓を持つ者で行いますからね」
「望遠鏡は予備だな」
「そうか。それじゃあ望遠鏡は観光のダシにしてるのか?」
予備だけで余らせるには少しもったいないだろう。
きっと観光の目玉にしてお金を稼いでいるに違いない。
「いや、違いますね」
違うらしい。
「観光の方はここまでは入れませんよ。ここは関係者以外立ち入り禁止と言うやつですね。なので観光の方は下の展望台か飯屋に」
「そうなのかよ。じゃあ運がよかったんだな。で、下には飯屋があるんだって?ならもういい時間だし食いに行こうぜ」
シーフの提案に2人は賛同し再びエレベーターの様な箱に乗る。
階下にある居酒屋の様な飯屋に着くと店員が出迎えてくれる。
席に着き一通り注文をする。
「なんかいいなこういう雰囲気の店も。落ち着くっていうかさ」
「そうですかね?王都にはこんな店溢れ返っていますよ?」
「ここはその中でもいい店だけどな」
確かにリンガラにある店よりは静かだが100歩譲っても上品な店とは言えないだろう。
暴れている客が居ないもののあちらこちらで大騒ぎをしている。
「あ そうださっきの続き。望遠鏡って結局何のためにあるんだ?遠視の天啓持ちがいるなら使う事なんてないだろ」
「今はそうですね。でも昔はそう都合よく遠視持ちが居なかったんじゃないでしょうかね。あの望遠鏡は昔から付いていますし」
料理も届いたところでシーフの話から話題は流れ現在帝国と行っている戦争の話になる。
2年前からネロ王の王命から始まった戦争。
開戦当初は侵略戦争だった為、帝国内領地で戦闘が行われていたが敵の思わぬ反撃により今では王国領地内の防衛戦争となってしまったという。
それもこれも敵将の隠されていた実力によるものが原因である。
王国も帝国内に間者を忍ばせる事には忍ばせていたらしいがそれでも敵将の実力は分からなかったらしい。
「ですから今も戦線は厳しい状況なんですよ。なので義勇兵を募集していたりするんですが見た事ありませんかね」
「あー多分あるわ。中央広場でなんかやってたな。確か3日後に東門の外の駐屯地に集まってくれとか言ってたな」
シーフは2人を待っている時に見ていた光景を思い出す。
「それですね。定期的に人を集めてルネートル領に送っているんですよ。王都からは3カ月ぐらいの距離ですから素人さんには大変でしょうけど」
3カ月と言うとリンガラから王都までぐらいの距離だろう。
シーフも慣れはしたが王都まで来るのに大分体力を奪われた。
あれを戦闘前にしなければいけないのは素人にとっては地獄だと思う。
「そりゃ大変だ。にしても義勇兵を募集しなきゃやばいぐらいなのに国民は呑気なもんだな。全然状況が分かってないだろ」
「1年ちょっと前は緊張感もあったんですがね」
「もうずっと防衛戦だからな」
1年以上も戦況が変わらなければ次第に気も緩むというものかと思うがそもそもシーフはリンガラに来るまでは戦争の事なんて知らなかったぐらいで興味も無いので話を切り上げ食事を楽しむ。
一通り食べ満足した一行を店を出て解散する。
シーフは今日一日案内のお礼をし宿を目指す。
明日は王都に来た目的を果たす日。
つまり天啓保持者に接触する日だ。
観光で緩んだ気持ちを新たにし帰路につくのだった。
次回 天啓保持者2人目!
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