大聖堂から王城までは目視で確認できるほど近く数分で目的地に着く。
遠くから見ても存在感を放っていたが近くで見るとその大きさと豪華さに圧倒される。
3人が王城前広場に着くともう既に観民式が始まっており王城のバルコニーの様な所から男女4人が顔を出し手を振っていた。
「あそこにいらっしゃるのが王女様と王子様ですね」
ヤングは目線を送りその位置を示す。
そこには遠目からでも分かる美男美女が並んでいた。
「一番左の女の子可愛いな。なんだか惹かれる」
ベージュ色の髪を纏めてドレスを着たグレイス王女を見て口から想いがこぼれる。
「可愛いなんて…恐れ多いですよ。全くシーフさんは怖いもの知らずですね。でもグレイス第二王女が表に出てくる事はほぼ無いですからね。かなり珍しいですね」
「病弱であるはずだな」
王城前広場の民衆も第二王女が居る事が余程珍しいのか口々に話題に上がっている。
ただその声は批判的なものでは無く久しぶりに顔を見ることが出来た事の喜びによるものだろう。
「右からルドルフ第一王子、カルミネ第二王子、ゼノビア第一王女、そしてシーフさんが気になっているグレイス第二王女ですね。4人揃う事は中々無いですよ。いい時に王都に来ましたね」
「これもあの事件があったせいかもな」
少し雰囲気が暗くなってしまう。
どうすることもできないので王城の方を向くとグレイス王女と目が合う。
この距離で目が合う筈も無いので勘違いだとは思うがどうもそのことが気になってしまう。
本気で一目惚れでもしたのだろうか。
「今、グレイス王女と目が合った気がする」
すると二人は笑い出し
「ちょっとどうしたんですか。シーフさんでも恋とかするんですね」
「意外だな」
「いや そんなんじゃないんだけどなぁ」
なんとなく視線を感じた気がしたが気のせいだったのだろうか。
だがこれ以上熱弁してしまうとアイドルと目が合ったと言い張るファンの様になってしまうと考え諦める。
「観民式はまだ続きますが今回は出店も少ないですし次行きますかね?」
「そうだな」
きっとシーフに聞いていたであろう質問にハルが答える。
「まぁいいけどさ。次って他に何があるんだ?」
「実は王都って観光名所って少ないんで次が最後なんですがね」
「となるとアルザースの塔だな」
「アルザースの塔?随分と安直な名前だな…とう、塔って言うとあれか。あの東門の近くの一際大きな塔の事か」
シーフは王都にやってきた時、正反対の正門からも見えていた空高く聳え立っていた塔を思い出す。
実際この世界での人工的な建造物の中で最も高さがあるのはアルザースの塔である。
人工的で無ければ例外はあるもののそれは考えなくて良いだろう。
つまりこの世界で一番の建造技術をもっているのがアルザースという事の証明なのである。
「そうですね。その塔の事ですね。軍事施設なのですが一般開放もしているんですよ」
「別名監視塔だな」
アルザースの塔とはエスフロー帝国との戦闘の最前線、ルネートル戦線を見張る為の監視塔である。
建設には100年程掛かっていて建設中には転落事故など死傷事故も起きている。
今では軍事施設として使われているが戦争が始まったのは2年前、建設当初はこの様な使われ方をするなんて誰が思っただろうか。
100年前建設に携わった人はこの惨状を見てどのような感情を抱くのだろう。
シーフはそんな感傷に浸りながらもアルザースの塔を目指すのだった。
王族の血を引くものはベージュ色の髪をしています。例外もありますが。
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