その日はいつかの様な大雨だった。
家から近くの川、僕が流されてきた川の様子を見に行ったんだ。
どのくらい氾濫してるか調べないとうかうか寝てられないからね。
そうしたら一人の少年が岸に流れ着いていた。
直ぐにその少年を担いで家に戻り介抱したよ。
3日目の朝に目を覚ましんだけど内心はひやひやしてたさ。
もう起きて来ないんじゃないかってね。
起きた彼に事情を聴くと僕と同じように崖の道から転落してきたらしい。
彼の体調も落ち着いて発見した日から1週間ぐらい経ったかな。
彼がお礼をしたいって言いだしたんだ。
「もう分かったかな?彼がエリッシュ=パーシヴァル。パーシヴァル家のご子息だったんだよ」
エリッシュの父フォータさんは近くの村で捜索隊を組んでいてね、僕たちは直ぐに発見されたよ。
その時の恩、お礼で僕はパーシヴァル家の食客になったんだ。
「え?いやいや只の平民が食客になんてそうそうなれないさ。でも僕には刀があった。王国では剣島流は認知されていても扱える人なんてほぼいないらしくてね。エリッシュの指南役兼食客になれたわけさ」
パーシヴァル家では4年間もお世話になったかな。
エリッシュともフォータさんとも仲良くしてもらえた。
とてもいい生活が出来たよ、まさに天啓のおかげだね。
エリッシュは筋がよかった。
僕と会う前から王国流は扱えたし本来刀の為の剣島流も剣で再現して見せた。
彼は恐ろしいほどの才能の持ち主だったよ。
僕も今なら勝てなくなっているかもしれないね。
僕は只の旅商人、それに比べ彼は近衛騎士団で活躍しているはずさ。
まぁだから4年間はとても有意義に過ごさせてもらった。
でもいつまでも食客というのも失礼だしね、エリッシュが近衛騎士団に入団した時に自立したんだ。
ワーゲンは貰ったけどね。
だから僕のワーゲンにはパーシヴァル家の紋章が入っていて仕事も贔屓してくれているってわけさ。
「分かったかい?」
流石にここまでの内容を話すのは疲れたらしくヘルメスは手を上にあげ伸びをし大きく息を吐く。
辺りは完全に暗くなっており焚き木の火がちらちらとまぶしく見える。
「なんて言うか壮絶な人生だな。てかだからあんなに強いのかよ。おかしいと思ったんだよ。只の旅商人が盗賊たちを一網打尽にしたりウルスを倒したり、この世界はそんなもんかと思ってたけどお前が異常だよな」
4カ月の旅の記憶を思い出し合点がいく。
シーフは話が終わると襲われた睡魔に身を委ねテントへとハイハイで向かっていく。
ヘルメスはそんな姿を眺めながら呆れた顔を浮かべ自分も後を追う。
「で、結局後どんぐらい掛かるんだ?」
「順調に行けば1カ月も掛からないよ。もうウェスト領には着きそうなんだ。後は森を抜ければ1本道さ」
「順調にいけばね」
シーフはテントの中の寝袋に身体を埋め会話を切り上げる。
寝袋の中でシーフは今日の話を思い出す。
「幸運の天啓与えられた」
ヘルメスの天啓は幸運で決定的だろう。
ヘルメスが6歳の時つまり12年前、シーフが生まれる直前散っていった天啓が彼には在る。
実のところ今日までシーフは旅の目的を忘れていた。
盗賊からの10数回に亘る襲撃など初めての体験に衝撃を受けていたせいと言えばそうなのだが旅の目的を忘れるなど話にならない。
そう自分を戒めた。
だがヘルメスの話を聞いたシーフには今自分の事を話す気は起きなかった。
エリッシュ=パーシヴァル:パーシヴァル家長男。剣の才能を持ち次期団長とも言われる。
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