散らばった天啓を集める為に今日も旅をします。

ゆみ猫
ゆみ猫

ウェスト領

公開日時: 2020年9月7日(月) 19:00
文字数:2,474

「お主に付いていくと言っているんじゃ」


唐突なエナベルの発言にフリーズしたシーフに変わりヘルメスが会話を繋げる。


「僕たちの旅に付いて来るって事かい?一応目的地はもうそこなんだけどな。付いて来るって言っても数時間の旅になっちゃうよ?」


ヘルメスが暗に断りを入れるがエナベルは指を横に振り


「お主らに付いて行くとは言っておらんわ」


そう言ってシーフの方へと向き直る。


「お主に付いて行くと言っとるんじゃ。シーフ、お主にな。お主がこれから先の未来必ず越えなければいけない壁がある。それは儂にもある。そのいつか来る未来の為にお主に付いて行きたいという訳じゃ」


要領を得ないエナベルの話に納得がいかないながらもウェスト領までの同行をシーフは許可する。

除け者にされたヘルメスが珍しく拗ねているがそれを気に掛けず会話を続けようするとルネーと名乗る男がこちらに寄って来てお嬢様を頼むと言い残し去って行く。


「なんかあっさりしてるな。んでエナでいいんだっけ。エナは貴族なのか」


「んー違うのじゃ。でも今はその認識でよい。他になんか聞いてくことは無いのか?これから長い間世話になる予定じゃからな」


シーフはこれはもう確定事項と言わんばかりの圧に訂正する事は諦め溜息を吐く。

そんな会話をしている間にヘルメスはワーゲンの向きを直し出発の準備を済ませる。


「ほら二人とも予定より遅れてるんだ。本当は今日中にウェスト領に入る予定だったんだ。急ぐよ」


その言葉に2人は荷台に乗り込む。

先程の戦闘の様なイレギュラーは起こらず夕暮れにはウェスト領の関所の役割を果たす町に着く。

守衛にヘルメスがパーシヴァル家の紋章を見せるとすんなり中に入れて貰えた。

その光景に本当に効力があるのだとシーフは感心する。


町に入ると木像建築の建物が多く見られる。

火事になればひとたまりもないな等と無粋な事を考えているシーフの横でエナベルが荷台から顔を出し物珍しそうに町を眺めていた。


「そんな珍しいもんでも無いだろ。町に入ってからずっと、飽きないのか?」


シーフの言葉に顔を引っ込めてエナベルが反論する。


「そうじゃな。飽きぬなぁ。故郷以外は見た事無いからの。外を眺めるのはとても楽しいのじゃ」


思わぬ純粋な答えに内心たじろきながらも悪い表情をしシーフは少しの反撃をする。


「見た目通り中身までガキなんじゃねぇのか?そうだ、俺らより年上とか言ってよな。俺はともかくヘルメスは18歳とかだぞ」


「ならば儂の方が年上じゃな。儂は26歳じゃ」


見た目からは想像のつかない年齢にシーフは開いた口が塞がらなくなる。


「まぁ産まれてからは1年じゃからな。身体少しばかり可愛い大きさなのは致し方なしなのじゃ。分かったか小僧」


「はぁ?どういう事だよ。え?じゃ1歳じゃねぇか。ガキってレベルでも無いだろ」


その瞬間ワーゲンは止まり御者席からヘルメスから到着したと報告が掛かる。

到着したのはワーゲンの管理ができる宿で手続きにヘルメスが宿の中へと入っていく。

シーフはヘルメスに先程のエナベルとの会話をどうしても伝えたかったがどう伝えればいいか分からずその機会を逃してしまった。

数分でヘルメスはワーゲンに戻り宿に空きがあった事を伝える。


「わざわざ2部屋取らんでも儂は別に同じ部屋でもよかったんじゃがな」


「そうはいかないよ。エナベルちゃんも女の子だからね。でも何かあったら隣に居るから呼んでね」


「ちゃん付けは辞めるのじゃ。まぁよい今日はもう疲れた。寝るから朝はよろしく頼むのじゃ…」


エナベルは大きな欠伸をしながら自分に用意された部屋へと消えて行った。

それを見送った後シーフとヘルメスも自分らの部屋へと入る。

部屋に入って大きめのベットを見つけたシーフはそこに飛び込む。

それを見て呆れながらもさっきシーフが言いかけていた事が気になるヘルメスは話題にそれを出す。


「シーフ君、なんか言いたいことがあったんじゃないかい?僕が宿に入ろうとした時何か言いかけてたろ」


ベットに沈み込んでいたシーフは身体を起こし胡坐を搔いた状態で向き直る。

ヘルメスも近くの椅子に腰を掛け落ち着く。


「あれね。いやなんかさ、エナベルが26歳だけど産まれてからは1年だーとか言ってからどっちも良く分からねぇよなって言いたかったんだよ。どっからどう見ても10歳以下の黒髪ロリだよな」


「ろり…はよく分からないけど10歳以下なのは納得だな。黒髪もそうそう見ないよ。今の話が本当ならエナベルちゃんは25年間親のお腹に居たって事になるね」


「なら俺も珍しいのか?産まれてこの方黒髪人生だからな、違和感感じた事ねぇや。エナベルはどうせふざけてただけだろ。あの3人組のルネーとかいう奴も偽名使って怪しかったしな。何を隠してるんだかって感じよ、全くよ」


事も無げにそんな事を言うシーフにヘルメスは以外な食いつきを見せる。


「偽名だったのかい?そんな気配あったかな。何でそう思うんだい」


「自分の名前を自分から言う時に言い淀む事なんてあるかよ。後自分の名前ほど口に馴染む言葉なんてないのになんか浮いてたんだよな。だから恐らくあいつらは名前が知られちゃいけない感じの人たちなんだろうぜ」


そう得意気に話すシーフにヘルメスは頷きながら会話を続ける。


「シーフ君って意外に切れ者だね。碌にワーゲンも操縦出来ないし方向音痴だし大して強くないけど頭は良いのか。誰でも秀でたものはあるんだね」


そう言うヘルメスはコップを持ちながら楽しそうな顔をしている。

シーフはハッと気づきそのコップを取り上げる。


「お前、何か毒舌だと思ったら酔っぱらってんのかよ。もう寝ろ。酒くせぇし」


「あはは、そうさせてもらおうかな。今日は少し疲れたしね…」


ヘルメスはシーフの横へと倒れ込みそのまま寝てしまう。

夜とは言えどまだ時間は遅くない。

夕飯も食べず2人は寝てしまったがシーフは普通に腹が減った為階下の食堂へと足を運ぶ。


ウェスト領でよく採れる野菜の料理を楽しみ他の卓の話を盗み聞きをし楽しんだ後今日は有意義だったと上の階へと戻り今日1日の疲れを癒すべくベットへと潜り込んだのだった。








「あいつずっと話聞いてるよな」

「離れた卓に行きましょうか…」

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