「全く昨日は僕が来たと思ったら部屋に戻りだすしシーフ君はエナベルちゃんの部屋で寝ちゃうし何なんだい?」
昨日の事をぶり返しぐちぐちと詰め寄って来る。
朝っぱらからご苦労な事だと思いながらも気持ちばかりの反論をする。
「お前が遅く起きたせいだろ?男の嫉妬は見苦しいぞ?」
気持ちばかりの反論のつもりが思ったよりも効いたようでヘルメスは少し落ち込んでしまった。
「あーあ。やっちゃったのじゃ」
半分はお前のせいだろ
機嫌を損ねたヘルメスの為にシーフは外を観光しようと誘い皆で宿を出る。
「もう少し宿でゴロゴロしてても良かったんじゃがな」
ツインテールをフリフリさせて先頭を行くエナベルがボソッと漏らす。
「そう言ってライト大侯爵の屋敷で3週間も堕落した生活をしてたんじゃないか。駄目だよ、全く…」
「外行こうとは言ったけどなんもねーな」
シーフは見渡す限り漁港と市場しか無いシーシュの町を見て溜息をつく。
「シーフ君が寄ろうって言ったんだからね?!何かしたい事があったんじゃないのかい?」
詰め寄るヘルメスをうざったそうに手で追い払い用事は済んだと伝える。
「お前が寝てる間にな」
「そんな寝てたかな僕…?でもだからって今はもう出発できないよ。ここからリンガラまで行くならカソドスの森を抜けなきゃならないんだ。あそこは日が落ちている時間しか通る事が出来ない。行くなら今日の夜からかな」
「どうしてじゃ」
「あの森は日中は濃い霧がかかるんだ。だから迷ってしまう。そうならない様に夜の霧がかからない時間を使って通るんだよ」
納得がいった様でエナベルはそれ以上の質問はせず町の観光に戻って行った。
夜まで市場に入り獲れたての魚や水竜を見たり宿に戻ってトランプをしたりして時間を潰した。
日は陰りもう直ぐ太陽から月に明かりが変わろうとする時間シーフ達一行はリンガラを目指し歩みを進めた。
シーシュの町から延びる街道を道なりに進んでいくと例のカソドスの森が見えてくる。
名前を示す看板等は無く道を進むと直ぐ木々に囲まれ森へと入ってしまった。
鬱蒼とした森に対して似つかわしくない街道をワーゲンは進む。
数十分経った頃だろうか。
前方から眩しい光が見えヘルメスはワーゲンを停車させる。
「いやぁ、すみませんね。最近何かと物騒でしょ?なので検問をしているんですよ。客車の方を調べさせて貰いますよ」
衛兵の格好をした男はワーゲンの前から回り込みシーフ達の方へと歩みを進める。
「シーフ君」
ヘルメスが御者席から客車へと声を掛ける。
それに呼応する様にしてシーフは客車の窓から飛び出て素早い動きで衛兵の後ろに回り込み短刀を首に当てる。
「おい!こんなんで騙せると思ってんのか!」
シーフは光源の方に居る多数の仲間達に対し大声で呼び掛ける。
「なんなのじゃ」
戸惑うエナベルに対しヘルメスはもう少し危機感を持って欲しいと心の中で願う。
「何の事だ。俺は只検問を…」
「三文芝居は辞めろ」
「そうですよー。あんまり恥を掻かせないで下さい。貴方がこれで良いというから従ってあげたのに、このざまですか?」
光の中から1人の女がゆっくり歩いて来る。
口調は穏やかながら言葉の節々に棘を感じその佇まいからも威圧感を感じる。
最近シーフも敵の力量を図る事ができ始めている。
そのシーフは判断によると
「こりゃ、バニティーよりやばいかもな」
「僕もそれには同感だよ」
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