「いーやーだー」
「嫌なのじゃー」
「昨日までは行く気満々だったじゃないか」
シーフとエナベルは屋敷のベットの上で駄々を捏ねる。
この数週間で人として堕落しきっていると感じていたヘルメスだったがここまで来ると幼児退行してるのではないかと疑いたくなる。
全く主人公は誰なんだと天からの声が聞こえてきそうになるがシーフは変わらず駄々を捏ねる。
「あれは行く気満々じゃない。ただ王都に戻るなら下を通ってその道なりでリンガラにも立ち寄りたいって言っただけだ。何も昨日の今日で出発は無いだろ」
「そうなのじゃ。横暴なのじゃ」
ヘルメスは2人の幼児を諭すように説得する。
「君達も今回の報酬は貰って無いだろ。王都に行ってフォータさんから貰わないとだろ?全くいつからそんなに仲良くなったんだよ…」
「別にライト大侯爵からも十分貰ったし」
「のじゃ」
いいからといつかの様に無理やり引き摺って2人を外に出す。
ライトには既に挨拶を済ませており使用人達にも引き摺る道すがら挨拶をし別れを告げた。
屋敷前に止められたワーゲンに無理矢理押し込み強制的に出発させる。
「あ~愛しの屋敷が…住み慣れた我が家が…」
「何言ってるんだい。気持ち切り替えていくよ」
「最後まであの執事は見なかったのじゃ」
エナベルは屋敷に来た当初に出迎えてくれた執事の対応が気に入って居るらしくこの数週間事あるごとにその話題を口にしていた。
「確かにそうだね。3週間も居たのに一回もあれっきりだったね。病気でもしたのかな」
「さあの」
相変わらずヘルメスには素っ気ない様子で内心ヘルメスは凹んでいた。
△▼△▼△▼△▼
次の目的地のサウス領シーシュに着く頃にはシーフ一行の疲労はピークを迎えていた。
「忘れてたわけじゃないけど内心油断してたのは認めよう」
「僕もそれには同意するよ…」
「儂こんなの始めてなのじゃ…」
目的地シーシュに着くまでに彼らは幾度も盗賊に襲われた。
ウェストからシーシュまでは一つとして村や町は無い。
その為1カ月掛かる距離を持ってきた備蓄か現地調達で賄うしかない。
そんな過酷な状況の中、盗賊はどこにでも発生するGのごとく襲い掛かって来た。
ヘルメスが居る分全て返り討ちになる事はなるが精神的な疲労はただならぬものがある。
一度経験したシーフとヘルメスでさえ辟易する数の盗賊だ、エナベルはもっと厳しい旅となった。
この旅で唯一良かった点はヘルメスに対するエナベルの態度が少し温和になった事ぐらいのものだろう。
「もう限界なのじゃ。ふかふかのベットで心ゆくまで寝たいのじゃ」
「僕もそれには同意だよ…取り合えず宿を探して今日は寝よう。もう夕暮れ時だしね」
町に入る前に軽い検問があるがそこは難なくパーシヴァル家の紋章で身分を証明しすんなり入る。
守衛におすすめの宿を聞き一行は一目散にそこを目指した。
部屋を2つ取り明日、朝一階で集合とだけ決め3人は久々のベットに心を安らげた。
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