バニティーの首に刀を添えヘルメスは言う。
「僕の勝ちだ。どうやら君たちは国のお尋ね者らしいね。このままウェスト領まで連れて行かせてもらうよ」
ヘルメスはそう言ってシーフの方へ目を向けバニティーから目を離した瞬間、スカルによって彼女を取り返されてしまう。
逃げる2人を追い駆けようとするも不可視の壁によってそれを阻まれてしまう。
「悪いねぇ。僕たちはここで死ぬ訳にはいかないんだ。今回は引き分けって事にしとこうか。次会う事があれば必ず本気で殺してあげるよ」
そう白い仮面の奥で笑いながら茂みの中へと逃げていくのを壁の中から見る事しか出来ないヘルメスであった。
茂みを眺め潜思するのも僅かヘルメスはシーフ達の所へ駆け寄り安否を確認する。
2人に大事が無いことが分かるとふぅと息を吐き傍に腰を落とす。
「シーフ君のおかげで助かったよ。隻眼と分かってなければあそこまで追い詰める事は出来なかった。でも凄いね、よくそんな事を見抜けたよ。少なくとも僕には感じられなかった」
ヘルメスは純粋な疑問をシーフに投げかける。
「やっぱり達人なんだろうな。戦闘中は一切俺も分からなかった。でも戦闘前のスカルの様子で気づいたんだ。あいつはバニティーの右側に立って補助している様に見えたんだ。だから気付いた。半信半疑だったけどな。お前に伝えた時バニティーの一瞬強張った。それで確信したかな」
シーフの話を聞きなるほどとヘルメスは首を動かす。
「てかお前やっぱりすごい強いんだな。正直負けるんじゃねーかってヒヤヒヤしたぜ」
「いや、そうじゃないんだ。スカルの方は分からないけどバニティーは本調子ならきっとあの何倍も強いい。追い返す事が出来たのは運だよ。最初からバニティーは疲弊していた様だったしね。それはこの子に聞けば分かるんじゃないかな」
そう言ってさっきから無口のままの少女に視線を向ける。
視線を向けられた少女は立ち上がり二人を冷たい目で見下ろす。
「儂はおぬしらと同年代じゃぞ。ガキ扱いしおって。全く失礼な奴じゃ」
腕を組みムスッとした顔をしたまま見下ろす少女にシーフは尋ねる。
「はぁ?どっからどう見てもガキじゃねーか。その癖喋り方はババアみてぇだし。てゆーかそもそもなんであいつらに追われてたんだよ。白い仮面の方は指名手配犯だぞ」
少女が口を開き喋ろうとした瞬間、辺りを囲っていた不可視の壁は崩れ去りシーフはヘルメスに何事かと聞こうと視線を向けるとヘルメスが見つめる先に黒の甲冑を着た3人組が姿を現したのだった。
「おい、ガキ。あれも追手か?」
少女は首を横に振り否定する。
「シーフ君。彼は違うと思う。僕も誰かは分からないけど」
そう言って怪しい3人組へと向き直りヘルメスが声を掛ける。
「貴方たちはさっき、僕が戦っている時から木の陰で見てましたよね。さっきの仲間ですか?」
3人の中で一番豪華な甲冑を着た男が兜を外しながら前に出る。
見た目は40代ぐらいで立派な髭を蓄えている事以外は特に変な事も無くどこにでも居そうな普通のおじさんだった。
「こちらに敵対の意志はない。私は…ルネーだ。そちらのお嬢様を守る為に駆け付けたのだが我々が付いた時には戦闘に。ヘルメス殿かな。貴方の活躍によりお嬢様は救われた。感謝を」
仰々しく礼をする3人に対しやめてくれとヘルメスが窘める。
3人の素性が知れる前にシーフが感じたヘルメスの殺気の様な感覚も和らぎシーフも心を落ち着かせる。
「それで申し訳無いのだがお嬢様に内密に伝えたいことが。こちらに来ていただいてもよろしいですかな」
その言葉に少女は3人の方へと向かう。
シーフはヘルメスに対し小声で大丈夫なのかと聞くが
「あぁ彼は大丈夫だよ」
と余りに気にしていない様だった。
「それにしてもあの結界的な透明の壁は何だったんだよ。お前でも壊せなかったんだろ。魔法か?」
するとヘルメスは首を傾げ考える。
「んー何だったんだろうね。空間系の魔法だったのか。そういう天啓持ちだったのかもね」
「そういう天啓って、自由なもんだな天啓も」
「あぁ天啓も良く分からないものから自分の特技が天啓になっている事もある。未だに解明されていない世界3大問題さ」
前世の様な価値観がこの世にもある事に内心小気味良く思う。
「3個は何があるんだよ」
「知らないのかい?痛っ…何も蹴らなくてもいいじゃないかい。えーっと世界3大問題だね。一つはさっきも言った天啓。それで後は終焉それと消えた魔族だよ」
「なんだそれ。都市伝説並みの……びっくりした。急に出て来るなよ」
そうシーフの脇からひょこっと出て来た少女に対し驚きを口にする。
「儂な。お主らについていく事に決めたのじゃ。よろしくな。儂はエナベル=シャイターンじゃ。エナと呼ぶがよいぞ」
少女はにっこりと笑いそう告げたのであった。
ヘルメスは剣島でも通じる剣技を持っています。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!