女神のミスで散らばってしまった天啓を集める旅の途中。
シーフはある事に悩んでいた。
それは散らばった能力を探知できるこの力、場所が特定できてもその能力が一体どんな力を持つのか分からないと言う事である。
無言で強奪可能とは言えそんな事をするのは気が進まない。
出来れば会話で交渉で能力を返して貰いたいものだ。
だが相手が能力を使用しなかった場合シーフには交渉の余地が無い。
急に、「君のなんかの能力持ってるでしょ。それは僕のなんだ。返してくれ」
なんて言ったら皆怖がってしまうだろう。
せめて能力ぐらいは把握していないと話に信用性がないと言うものだ。
「なんて言って返して貰おうかな…」
そんなことを考えながらシーフは目的地を目指し町を歩く。
この町は中央の広場から十字に大きい道が敷かれている。
そこから道は沢山派生して伸びていて隣接するように建物が所狭しに並んでいる。
大通りには5階建て程度の小洒落た建物が並び奥に行くと民家が集まっている。
今が俺が向かっているのは正にその民家群だった。
入り組んだ道を数回か曲がると人だかりを見つけた。
一体何をしているのかと聞くとここは町の診療所だと言う。
なんでも腕利きの医者がいるとか。
すると中から同年代ぐらいの薄いピンクの髪がよく似合う女の子が出てきた。
「次の人まだ…ってみない顔ですね」
不思議そうな顔をしてこちらを見てくる。
「新顔がそんなに珍しいか?」
「ええ あまり住宅街まで知らない人が来る事ってないから。ここのみんなは大体顔見知りよ?」
腰まであるピンク色の髪をなびかせ少女は首をかしげる。
「まぁいいや ふらふらしてるなら暇でしょ。包帯買ってきてくれない?広場の近くに店があるから」
「いや いいけど…初対面の人にそんなこと頼むかよ。いい性格してるな」
すると少女は屈託のない笑顔で「でしょ」とだけ言い残し建物の奥へと戻って行った。
こうなると無視するわけにも行かないのでおつかいに向かう事にした。
何の問題もなく能力者を見つけることは出来た。
今、おつかいを頼んできた少女が能力者だ。
近づいてみて再度確信したが少女の能力についての詳細はこの探知では分からない様だ。
強奪については近づいてもよく分からなかった。
集まっていた人が言うには少女が医者らしいし回復系の能力だろうか。
だが回復能力持ちは珍しいと行商のおっさんも言っていた。
包帯も買わされている事から何か他の能力だろうか。
「ほら、400ザースよ」
そう言って旅前に両親から貰ったお金を手渡し商品を渡される。
「どうも」
この国ではお金の単位に国名のアルザースから取ったザースを採用している。
感覚としては円とあまり変わりないように思える。
だが正直この世界で暮らしてもう12年、昔の感覚も今では遠い記憶となってしまっている。
この町の景観を見ても世界を渡ってきた感動は感じない。
死んだ瞬間この場所に来ていたら今とは違う感覚に陥ることはあったのだろうか。
空は朱色に染まり道の端に立つ街灯がちらちらと点き始め夜が始まる中、来た道を戻りながらそんなことを考えていた。
街灯は魔道具です。地下脈を通る魔力を吸い取って灯りを灯しています。
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