「なぁ そろそろ変われよ。ヘルメス」
荷台より少し高い御者席から振り返りシーフが声を掛ける。
今このピレットの手綱を引いているのはシーフだ。
「まだ数時間しか経ってないじゃないか。暇だから御者席に座りたいって言ったのはシーフ君だろ」
困り顔のヘルメスは後ろからそんな小言を漏らす。
「そりゃそうだろ。4カ月も掛かるなんて知らなかったからな!ずっと後ろに居るなんて出来るかよ。こんな掛かるなら付いて来なかったぜ…後どんだけ掛かるんだか」
シーフはガックリ肩を落とし嘆く。
「僕だって最初に言っただろ。ウェスト領まで行くって忠告はしたのに勝手に付いてきたのはシーフ君だからね。しかも本来だったらこんな時間の掛かる道のりじゃ無かったんだよ。全く、盗賊に襲われるわ、シーフ君に任せたら道を間違えて迷うわ、夜営をしてたらシーフ君がウルスに襲われて巣まで持ち帰られるわって殆どシーフ君のせいじゃないか!」
言われっぱなしのシーフがそのまま黙ってる訳も無く口で反撃を開始する。
「違うね。大体お前は途中の補給に寄った村々で長居しすぎなんだよ。すぐに要らん仕事引き受けちゃってさ。てゆーかなんで盗賊に12回も襲われるんだよ!王都まで来た時なんて1回も無かったぞ」
「頼まれたら仕方ないだろ…盗賊はきっとこの荷台の紋章のせいだろうね。パーシヴァル家のものだから金目のものが積まれてるって勘違いしたんだろ。笑っちゃうよね、高価なものなんて載せてないのにね」
ヘラヘラと話し掛けるヘルメスにシーフはワーゲンを停め御者席から降り荷台の彼へと本気の蹴りを入れる。
「痛っいなぁ。僕なんかした?」
「笑えるかってんだよ。なんだそのパーシヴァル家ってのはそのせいで全然進まないんじゃねーかよ」
「シーフ君、パーシヴァル家を知らないのかい…?」
正真正銘の田舎村からやってきたシーフにはもちろん貴族や領主の名前なんて知らない。
それでも一種のプライドかヘルメスに対する正体不明のイラつきからか何かは不明だがシーフは
「知ってるさ。偉い奴だろ?」
と自信満々に答える。
そんなシーフの様子にヘルメスはやれやれといった表情で答える。
「パーシヴァル家って言うのは現近衛騎士団長が当主を務める家だよ。代々優秀な近衛騎士を輩出する事で有名なね」
ヘルメスは得意げな顔でそう話す。
「で、なんでそんな偉い家の紋章が付いてる荷台を連れてきてるんだよ。盗んだのか?」
「そんなことする訳ないじゃないか…僕はねパーシヴァル家にお世話になってたことがあるんだよ。だから今回の仕事もフォータさんからだしね」
「お世話になったのか…」
シーフはしみじみ頷く。
「シーフ君なんか意味が違う気がするけど?!」
大袈裟に反応するヘルメスにシーフはじろりと目を向けて
「じゃあ如何にも一般市民ですみたいな奴がどうやったらお偉いさんと仲良くなれるんだよ」
「それはねぇ、話すと長くなるからもう夜営の準備を始めよっか」
その言葉を皮切りに二人は黙々と夜営の準備を始め落ち着いた頃には丁度日も傾き一日が終わろうとしていた。
フォータ=パーシヴァル:近衛騎士団、現団長。一族の歴史の中でも相当の実力者。紋章にはアレーニがレリーフされている。
アレーニ:体長12mはある魔物。巨大な鳥の魔物。風の魔法を使う場合もある。ウルスの天敵。
ウルス:体長5mはある魔物。巨大な爪を持ちあらゆるものを引き裂く。獲物を仕留めると巣穴に持ち帰る習性がある。ほぼ熊
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