蝋が消えるその日まで

雨宮 ゆうさく
雨宮 ゆうさく

望み

公開日時: 2023年4月30日(日) 21:39
更新日時: 2023年6月10日(土) 11:07
文字数:5,919

この物語はフィクションです。

実在する人物、団体とは関係ありません。

「兄ちゃん達は親子かい?親子で旅なんていいねぇ!」


ミナトと合流し、街を出た俺らはつぎの街、セレブレーナ国に行く事にした。

そこは北方では珍しい商業国家。商業文化の盛んな南方ですらこの国に出向いて商いを行う程の商業国なのだ。そしてセレブレーナ国の食文化は、目を貼るものがある。色んな国からの食材が流れてくるからか、食文化も盛んで色んな国の料理が安く、美味しく食べられるいい国である。

現に俺らを乗せている子の商人も、恐らくは南方の人なのだろう。南方は気温が高く、日差しも強いため、南方の人は褐色肌が多い。そしてその白と金で作られた服を見れば、ひと目でわかる。


「そうだな。…なぁ商人。かなりの大荷物っぽいが、一体何を積んでいるんだ?」


「トレートルと呼んでくれ。それは武器防具とオリーブさ。ウチ、トレー商会は武器防具を中心に取り扱っているからね。オリーブはうちの国の特産品さ。」


オリーブが特産品ということは彼、トレートルという男はサラン国出身の人だろう。

サラン国は南方にある国で夜景は綺麗で飯も美味い。人々は陽気で明るく、観光客や旅人には入国料やその他税を安くしたりとかなり優しい国なのだ。あそこは確かオリーブが有名だったはずだ。


「兄ちゃんたちもセレブレーナに行くんだろ?良かったらトレー商会に来てくれよ!サービスするぜぇ?」


「そりゃ嬉しいこった!」


それからしばらく馬車を走らせ、セレブレーナ国までもう少しところで、


「……ねぇ、あれ。」


ミナトが口を開いた。ミナトは自分が見ていた方向に指を指し、その方向を見ていると、馬車の周りに盗賊が群がっていた。周りにいる騎士が相手をしているが、かなり押されている。馬車の装飾を見る限り、貴族の人なのだろうか。


「ミナトはどうしたい?」


そう彼女に聞いてみる。あれ、では分からない。助けてあげて欲しい、きっとミナトはそう思っている。しかし、それは俺に頼るということ。おそらく彼女は人に恐れて生きてきた。初めて会った時の、あの怯えたような謝罪である程度はわかった。

ここで、彼女は自分の気持ちを伝えることを、俺はして欲しかった。


「え、…えと……た、助けたい…!」


「よし…トレートルといったか?済まないがここでおろしてもらえるか?」


ミナトから聞きたかった言葉をきけ、嬉しさと同時に降りる旨を商人につたえる。


「え!?セレブレーナは目の前だぜ!?ってあぁ、そういうことかい。悪いことは言わない。やめときな。あいつは多分ここらじゃ有名な賊だぞ?それに、これで俺にも目ェ付けられちゃ溜まったもんじょないよ。、」


「……忠告、ありがとな。大丈夫、迷惑はかけない。行くぞミナト。」


「聞いてねぇなこりゃ。……まぁいい。死ぬなよ。嬢ちゃんのためにもムリはすんな。」


やめとけ、そういうのが普通だ。商人は商品の運搬中に盗賊に襲われることもある。商人が盗賊に襲われないようにするために必要なことは認知されないことだ。故に下手に手助けをして盗賊に認知されたら、次は自分が襲われるのだ。

しかも、相手は手馴れ。襲われるのは確実。

しかし、ミナトのせっかくの想いを捨てることは出来なかった。ミナトが初めて俺に、自分の口で頼み事をしたんだ。それが俺は嬉しかったのだ。


馬車を止まり、俺はミナトの手を引き降りた。

下ろした瞬間、馬車は猛スピードでセレブレーナへと走り出す。盗賊に認知されないようにするためだろう。


俺はミナトを連れて堂々と盗賊の方へと近づいて行った。盗賊は俺らの足音にすら気づかず、俺らは盗賊の親玉であろう人物の真後ろまでにたどり着いた


「……15秒だ。武器を捨てて直ちに去れ。」


短剣を取りだし、首元に突き立てそう言う。

ミナトの前で殺生はなるべくはしたくない。

それが人となればもっとである。


「!?…な、なんだコイツは!?」


「ボス!?てめぇ!」


「いいのか…あと10秒だぞ?」


親玉の手下なのだろうかボスを助けようと俺の方へと近寄ってくるが、近寄る度に、俺は親玉の首に刃を押し付けた。首からは少量の血が流れている。


「クソっ…おめぇら…一旦武器をおけ、退散するぞ。」


親玉も抵抗しているようだがどうやら動けないようだ。やむを得ず親玉がそう指示すると、盗賊全員が武器を捨て、両手を上げた。


「よし…それじゃあな。」


親玉はチッとわかりやすい舌打ちをすると部下を引連れて去ってしまった。

吟遊詩人は意外と戦力が必要だ。自然を生きるには、これぐらいの力が必要なのだ。


「ご、ごめんなさい……私、なんにも出来なく…て。」


ミナトは、後ろの方で震えながら俺にしがみついていただけ。まぁ子供ならそれが普通なのだが、彼女は自分が何もしていないことに責任を感じてしまっているのだろうか。


「いや、あの盗賊にミナト1人で立ち向かう方が無謀だ。俺に頼るのは賢明な判断だ。あと、こういう時は、ありがとうっていうんだ。」


俺はしゃがみ、ミナトと同じ目線になって頭を撫でた。


「…うん……ありが…とう…!」


「…あ、…ミナトにもやって欲しいことがある。このポーションを倒れている騎士たちに飲ませてあげて欲しいんだ。人が少し多いかな。お願いするよ。」


そういい俺はバックから下級ポーションを取り出し、何個かをミナトに渡した。騎士たちは戦いに疲弊しきっているが、重傷者はいない。下級ポーションでも飲めば全回復するだろう。

ミナトにもやることを与えれば、負い目を感じることもないだろうと思い、ミナトにそう指示したのだ。


「わ、わかった!」


ミナトは渡されたポーションをせっせかと運び、すぐさま馬車によりかかり、倒れた騎士にポーションを飲ませた。


「…………うぅ…はっ!…盗賊…は?」


「あ、え、えと…な、治ってよかったぁ」


下級ポーションは飲ませてから数秒間、効果が出るまでに時間がかかる。故にミナトは最初、治らないのかもと不安がっていたが、全回復した騎士を見ては良かったぁと胸を撫で下ろし、不器用な綺麗さを持つ笑顔をその身に宿らせた。


「あ、ありがとうございます!盗賊は…どうなったのですか?」


子供であるミナトにも丁寧な口調で話す騎士。

直ぐに立ち上がり背筋を整えてはミナトにそう質問した。


「え、えっと……に、一さんが…追い払ったよ…。」


「な、なんと!?」


そういい驚いている合間にも、俺とミナトは次々と騎士たちにポーションを飲ませていく。


「ありがとうございました!」


「え、えっと……えへへ。」


騎士たちの感謝の言葉に照れ臭くなったミナトは頬を少し赤くしながら小さく笑った。

その姿は俺含め、全騎士が和んでいた。

やはり笑った時が1番可愛いな。

そう思っているとガチャりと後ろの扉から誰かがでてきた。パッと見は…ミナトと同じ年くらいだろうか。髪は綺麗な水色で上品なドレスを見に纏っているが節々から感じられる幼さには不思議な安心感を与える。


「このたびは、私たちをたすけていただき、ありがとうございました。私はアートレス・フォン・セレブレーナともうします。」


綺麗な言葉遣いをし、俺とミナトにその見事なスカートを軽く持ち、頭を下げる。

綺麗な青髪青目

しかし、言葉から感じられる幼さ。感謝は本心だとしても、この話した文は、恐らく作っているだろう。子供なのにしっかりしてるなぁと少し感心する。ミナトと同じくらいだろうか?後ろには恐らくさっき自己紹介をしたアートレスという子と同じ歳であろう少女1人と、若い女騎士がひとりいた。恐らく、目の前にいる騎士が全員やられた際、この子達を遠くに逃げ出すため、または彼女らが逃げる時間を稼ぐための囮の騎士だろう。

それ故か、警戒心は現存で、現にもう1人の子を抱き抱え、身を呈して護っており、今と尚、柄を握り、今にも鞘から刃が飛び出してきそうである。


「こりゃどうも。俺はにのまえ。ほら、挨拶しな。」


「あ、…え、………ミナト……です。」


知らないが、なんだかとても偉そうな人に怯え、俺の後ろに隠れてしまったミナト。俺が名乗るよう言うとオドオドしたような様子でミナトと、小さな声で自分の名前を発した。


しかし、このアーレスト、なんだか様子に違和感がある。容態が悪いという訳では無いが、なんか…こう…もどかしさを感じる。

何か言いたいことでもあるのだろうか……?

そう思うとアーレストは馬車の方へと戻り女騎士と何か話している。女騎士は何やら反対してそうな声しているが、アーレストという少女に押し負けてしまったようだ。


「あ、あの!その、ミナトさんと言ったかしら!

助けて頂いたお礼うちの城に招待するわ…!」


何を言いたいのかはある程度わかった。恐らく、ミナトと仲良くなりたいのだろう。なんでかは分からないが、これはミナトにとってもいいである。なんてったってミナトに友達は居ない。それは見ればわかる。人と話すことですら手一杯なのだ。友好関係を築くのは大変だろう。そんなミナトと仲良くしてくれるのは本当にありがたい。


「…あ、…に、一さんも………」


「え、えぇ!其方の方も是非お父様に会わせたいわ!」


ほぅ?まさか貴族の方と会うとは…。

ん?確か彼女の名前は、アーレスト・フォン・セレブレーナ…セレブレーナ……王女だ…。

マジか…王女様だったか…。げっとした表情とともに少しため息を着いてしまった。これは想像以上にめんどくさい相手を助けてしまった。


「もしかして貴様!お嬢様の誘いを断るというのか!」


女騎士も想像通りの面倒くささ。


「やめて。この人たちは恩人よ?彼がいなかったら、今頃私たちどうなってたかわからないんだから。」


「左様でございますか…ではさっさと乗れ。」


かなり厳しい性格なようだ、まぁ。この女騎士の鎧の胸に着いているいかにも上官がつけてそうな飾りをしているバッジ見れば分かるが、恐らくこの騎士の中で1番位が高いのだろう。だからこの子達の側近で守り、上にいるからこそ、厳しい性格になるべくしてなったのだろう。


隠して俺らは王族の馬車に乗せられ、セレブレーナ国までの残り道を過ごすことになった。


「改めて自己紹介するわ。私はアーレスト・フォン・セレブレーナ。わかると思うけど、セレブレーナ国の第一王女よ。」


「あぁ、俺は一。こいつはミナト。そっちの嬢さんと騎士様は?」


「私はハーヴェスト・フォン・リーク。リーク家の長女にして、王族側近騎士団の騎士団長を務めている、」


「わ、…私は……ジュヘナ・フォン・セレブレート。…セレブレート家の次女で、私たちは隣国のバーリシュ王国からの帰還中でした。その時に、あの盗賊たちに襲われまして、」


馬車にしては少し大きな間。ふっかふかなソファは、馬車に乗った時の悩みであるケツの痛みなんか心配する必要すらない程であった。

そんな高級馬車の中、再度俺らは自己紹介と、彼女らは襲われる前の経緯を教えてくれた。


セレブレート家。確か父方が宰相だったな。

基本国家との関わりが深かった一族は、家名が王族のものと似た家名になる歴史が一般的であり、セレブレーナに近ければ近い程、その地位は高く、王族にも信頼される。セレブレート家はセレブレーナとかなり近く、恐らく、貴族の中では、王族を除き1番であろう。


「成程、説明してくれてありがとう。でだが、俺は君の父と会い、どうすればいい?」


「そんなに固くならなくていいわ。私はただ感謝を伝えたいだけだから!ねぇねぇそれよりミナトさん!貴方どこから来たの?好きな物は!?どうして旅をしてるの!?」


アーレストはそう言うと急に前屈みになり、目を輝かせた状態でミナトの方をむく。

なんだかとてもミナトのことを気になっている様子。パッと見、ミナトとアーレストは同じ年に見えるが、同年代の子は少なかったのだろうか?

よく見れば、ジュヘナという子はこのアーレストよりも少し、年上のようにも見えた。

学校とかならまだしも、小さな頃から家庭教師が付き、あまり外にも出られないような貴族には、同じ年と会うには難しいことなのかもしれない。


「まぁまぁ。ミナトは少し人見知りな所もあるから。ゆっくり話そう。」


そういい急かすように言うアーレストを少し沈める。歳の近い子に出会い、気分が高揚するのは分かるが、ミナトはまだ人とはあまり話せない。今も尚、俺の後ろに隠れんばかりに引っ付いているのだから。


「わ、私は……えと、一さんと、一緒に旅してます。す、好きな物は……えと、は、ハンバーグ…です?」


質問の回答にはあまりなっていない。しかし、ミナトにしては大上出来だろう。


「ハンバーグ!そうだわ!うちのコックに腕のいいのがいるの!貴方にご馳走してあげる!」


流石は王女様。かなりのコミュ力である。

ミナトも緊張が少しほぐれてきたのか、少しワクワクした様子でアーレストの方を見ている。

なんだか微笑ましいな。


賊に襲われたところからセレブレーナまでそこまで距離は無いため、予想より早くついた。

馬車はそのまま国内に入り、そのまま一直線に、国の真ん中にある王城の前まで走っていった。

そのまま俺らは下ろされ、アーレストの後ろを着いていき、そして王の謁見の間、その扉へ辿り着いた。さすが大国なだけあって城内も扉も豪勢である。


謁見の間に入り、広い部屋から玉座に向けての一直線に引かれている紅いカーペットの上を歩き、その場に跪いた。


「お父様。この方達は、私を盗賊から護ってくれた命の恩人さんですわ!」


「…うむ。そうか…我が名はアルガナイト・フォン・セレブレーナ。この度は娘が世話になった。助けてくれてありがとう。」


王は、そう言うと立ち上がり、俺らの目の前に行っては深く、深くお辞儀をした。

王はその威厳さを保つために頭を下げない。その王が頭を下げているのだから大騒ぎだ。周りの兵士たちも戸惑いざわついた。


「頭を下げないでください。」


「いや、これは国王としてではなく、一家の父として感謝をしているのじゃ、盗賊の件に関しては既にそこの騎士から通達が入った。そこからの時間、儂は気が気でなかったのじゃ。儂も助けに参ろう思ったが、その前に其方が助けてくれたのじゃ。ありがとう。」


正直俺も困惑している。普通父として感謝するにしても『大義であった』とかそこら辺だろう。

もしかして、他になにか俺に用があるのだろうか?


「……うむ。その様子だと、気付かれているようじゃな…ふぉっほっほ…。」


そう国王はにっこり笑った。やっぱり何かあったのか。


「まぁ……ここで話すのもなんじゃ。ちと2人で話そうじゃないか。安心せい、其方の連れ子はしっかりと儂の子が見てくれるじゃろう。」


そういい、国王は唖然とする俺を誘導しては、少し狭めの部屋につれだし、ミナトは、アーレストに連れられてどこかへ行ってしまった。


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