いつものように星の隣りに座ってきたつかさが本を開いた星に笑顔で尋ねた。
「ねーねー。なら、星はどうなったら友達なの?」
「……それは」
つかさの質問に思わず口籠ってしまう星。
つかさにとっては些細な質問だったのだろうが、星にとってはそうでもない。友達の定義は理解していても、星にはその作り方が分からなかった……ゲームの世界では子供が少なく星は自然と目を引く特別な存在だった。だからこそ、エミルや他の仲間達と親しくなれたと言っても過言ではない。
だが、現実世界では星はどこにでもいる子供の1人でしかない。しかも、星はその中でも明るく外交的な存在ではなく、暗く内向的な存在していることすら忘れられるような影が薄い存在だ。それなのに友達とはどこからなのかなど分かるわけもなかった。
っと、星の脳裏に昨日エミルとした約束が蘇る……友達を家に連れてきなさい……と。
「……家に行ったら友達です」
それを聞いたつかさは目を輝かせる。
「なら、僕の家に遊びにおいでよ! ああでも、うちは兄ちゃん達がいるからうるさいかも知れない。だから、本を読みたい星は嫌がるかも……兄ちゃん達も女の子が家に来るの慣れてないからちょっかいかけてきそうだし。なら近くの公園で――でもそれじゃ家に遊びにきたわけじゃないから星と友達になれなくて……」
つかさは困った様子で髪を両手で掻きむしり必死に良い方がないかと探していた。
そんな時、星はふとつかさに提案する。
「……な、なら。家に遊びにきますか?」
「えっ?」
星の目とつかさの目が合って時間が止まったように顔を見合わせている2人。
10秒以上見つめ合っていたが、星が赤面させて自分の口を押さえて慌てて俯いた。無意識のうちに口から出た『家に遊びにきますか?』という言葉は、おそらく困っていたつかさを見兼ねて星は自然と口にしてしまったのだろう。
だが、つかさはその星の言葉を聞き逃さなかった。顔を赤く染めて俯く星につかさは前のめりになって星に聞いてきた。
「星の家に行っていいの!? 本当に!?」
そのつかさの輝かせた瞳の圧に負けた星は、大きなため息を吐くとつかさの顔を見ながら改めて言った。
「……私の家に遊びにきますか?」
つかさの顔を見ていた星だったが、最後まで言い終えた辺りで恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めて視線を逸らす。
嬉しそうに「行く!」と元気な返事を返したつかさは嬉しそうに言う。
「星の家に行くの楽しみだなぁー。早く放課後にならないかなぁー」
気持ちを抑えきれないと言った様子でそわそわ体を動かしている。
「とりあえず。私のお姉様に聞いてみないと分からないので、犬神さんも学校が終わったら一度家に帰って家の人に遊びに行ってもいいか聞いてみて下さい」
「うん! お母さんに聞いてみるよ! あっ、星の写真撮っていい? 男の子の家に行くんじゃないって証拠が欲しくて……」
つかさのその言葉に首を傾げたものの、星は「いいですよ」と返事をした。
写真を撮り終えると「これでバッチリだよ。ありがとう」と言って腕に付けた端末を操作して、慣れた手付きでメールを送っている。
星は遊びに行くのに写真を送るなんて不思議な家だなと思いながらも、一般の常識は上流階級の人には通用しないのだろうと思い直し納得した。
放課後になると図書館に向かう途中の星を呼び止め、つかさが嬉しそうに笑って。
「それじゃまた後でね!」
そう言って駆け足で校門の方に向かって行った。
星はそんなつかさの背中を見送っていると、背中からエミルが声を掛けてきた。
振り返った星にエミルが微笑みながら尋ねた。
「なんか星、いい顔してるわね。どうだった? お友達を家に誘えた?」
「はい。誘えました」
星のその言葉を聞いたエミルは安心した様子で息を吐いた。
その彼女の様子から星が友達を誘えたかが心配で、今日一日なにも手に付かなかったのだろう。それは笑って隠してはいるものの、エミルの疲れた表情を見ていれば分かる。
エミルは星の肩に優しく手を乗せて言った。
「お友達は?」
「家の人に遊びに行っていいか聞く為に一度帰りました。後で学校で待ち合わせするって……」
「分かったわ。なら、私達も一度帰って後でまた学校に友達をきましょう」
星はそう言ったエミルに首を横に振った。
「エミルさんは先に帰ってて下さい。私は友達を待ってます。まだ本も見てたいですし」
「……そう。なら、私は先に帰って用意してるわね。後で小林に迎えに来てもらうから、星は友達と図書館で待っててね」
「はい」
エミルは頷く星に手を振ると一度家に帰る為にカバンを持って図書館から出て行った。
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