オンライン・メモリーズ

~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~
北条氏成
北条氏成

アジトへの潜入3

公開日時: 2020年12月17日(木) 00:00
文字数:5,814

星を探して、城内をあてもなく走っていたエリエ達の前に、上へと通じる階段が現れた。

逃げ回りながらだが、すでにこの階に星はいないであろうと誰もが感じ取っていた。


後ろからは数多くの兵士達が追いかけて来ている。


その緊迫する雰囲気の中、エリエが階段を指差して叫ぶ。


「見て! あそこから上に上がれる!」

「このまま走っていても、らちが明かないわ~。とりあえず、上の階に上がりましょ~」


サラザのその声に従う様に皆躊躇なく、上の階へと続く螺旋状の階段を一気に駆け上がっていく。


だが、後ろからは多くの敵が追いかけてきている以上は、上に行けば行くほど退路がなくなる為、不利になるのがセオリーだ。


しかし、だからと言ってこのまま何もこの階に留まっていても、星を発見できる確率が上がるわけでもない。


今が何階に居るのかは分からないものの。だが、上空から急降下してレイニールが飛び込んだわけなのだから、だいぶ上の階だったはずだ。


そこから推測して、まずは上を探索するのがいいだろう。最悪は、敵を上の階に惹き付けて、レイニールに乗ってもう一度下の階の壁を破壊してもらってもいい。また、上空に逃げるという選択肢も取れる。


通常ならばデメリットしかないが、こちらにレイニールという空中退避手段がある以上は、上階に上がることはむしろメリットしかない。

フリーダムのゲームシステム上、飛行系固有スキルの所持者は極めて低く。星を捕らえているとすれば、地上から攻めにくく守りやすい最上階辺りに監禁しているはず。


その時、一番最後尾を息を切らせながら必死に付いて来ていたカルビが突如歩みを止める。


「はぁ……はぁ……あたいはここに残るわ……」


その場に立ち止まり、肩で息をしながら苦しそうな声を上げるカルビ。


唐突にそう告げたカルビにサラザが声を叫ぶ。


「何言ってるのよ~! こんな場所で1人で残ったって勝機はないわ。あきらめないで~!!」

「……サラザ。ごめんなさい」


カルビはそう小さく微笑みを浮かべると、天に身を任せ両手を広げて後ろに倒れるようにして階段を落ちていった。


徐々に遠くなるカルビの姿に、オカマイスターのメンバーが瞳に涙を浮かべて声を大にして叫ぶ。


「「「カルビー!!」」」


階段の幅一杯に手を広げて落ちていく。


その突然の行動に追いかけてきた敵は断末魔の叫び声を上げて、次々と転がるカルビに巻き込まれていった。


カルビは相撲取りなみの体格を誇る巨漢だ――それが階段の上から転がり落ちてくれば、その殺傷能力は計り知れない。

将棋倒しの様に……ドミノ倒しの様に、一気に崩れ落ちていく敵と徐々に小さくなっていくカルビを見つめながらガーベラが叫ぶ。


「――カルビ……あの、馬鹿野郎!!」


右手を握り締め拳を階段の壁に突き立てたガーベラのその瞳は涙で潤んでいる。

皆その場に立ち止まり、勇敢に身を投げていったカルビのことをいつまでも見つめていた。


追手もなくなり、静まり返った階段に突如サラザの声が響く。


「行くわよ! カルビの作った時間を無駄にはできないわ~」

「そうザマス! 早く人質を取り返してカルビを助けに戻るザマス!」

「……そうだ。私達オカマイスターは!」

『離れていても心は一つ!!』


オカマ達3人は拳を突き出すと互いの拳を重ね、最後に打ち付け合って互いの絆を確かめ合うように声を合わせて叫んだ。


その光景は、エリエとレイニールにとって何と表現すればいいのか分からない異質なものだった……。


勝手に決意を新たにしたオカマイスター達と共に、エリエとレイニールは再び階段を駆け上がっていく。すると、先程とは違って少し広い場所に出た。


だが、そこには3つの頭を持った犬の様な獅子の様な生き物が、何とも言えない威圧感と存在感を放ちながら階段の出口から飛び出してきたエリエ達を睨んでいる。その頭の大きさは大人を軽く丸呑みにできそうなほど大きく、体は象ほどはあるだろう……。


神話に出てくる3つの頭を持つ猛獣はよだれを垂らしながら、その大きな黄色い6つの瞳を部屋の入り口付近で立ち尽くしているエリエ達に向けて全身から凄まじい殺気を放っていた。


「なっ、なんて大きさなの……」


エリエがその大きな幻獣を見上げ掻き消えそうな声で呟く。その時、幻獣の頭からひょっこりと何者かが顔を覗かせる。


それは肩くらいの黒髪に黄色いカチューシャを付けた中学生に入るか入らないかくらいのまだ幼さが残る少女だった。


少女は大きなあくびをしながら、何かを紙袋に入った物を口の中に放り込むともごもごさせている。

そして口の中の物をごくんと飲み込んだ少女が、突如現れたエリエ達に向かって尋ねた。


「ねぇー。あなたは新人さん? それとも侵入者さん?」


誰もがその質問に答えることなく無言でいると、少女がつまらなそうに呟く。


「あっそ。そういう態度なんだ……まあ、どっちみち。ここを通る者は、このエリザベスに食べられることになるよ?」


無邪気ににっこりと微笑みを浮かべた少女は、ポケットから取り出した紙袋の中の物を摘んで口の中に放り込む。


――グオオオオオオオオオオオオッ!!


少女の声に答えるように、3つの頭の幻獣が咆哮を上げる。


それと同時に空気が振動し、エリエ達に突風が吹き付けた。

全身を貫く様な咆哮に恐怖し、皆冷や汗を流すだけで動くことさえできない。まるで、捕食者の前に放り出された小動物の様だ――。


持っていた紙袋を放り投げ、少女は身を低くしてケルベロスの毛にしがみつくと、鋭い瞳でエリエ達を見据えて完全に戦闘態勢に入った。


どうやら、彼女の綺麗なオレンジ色の瞳は、侵入者であるエリエ達を獲物として捉えたらしい。その直後、エリエが武器を収め両手を振ると慌てて声を上げた。


「ちょっと待って! あなたお菓子が好きなの? なら、ここを通してくれれば、お詫びにお菓子をあげるよ?」

「…………」


少女はしばらく考える素振りを見せたが、ぶんぶんと首を振って慌てて言葉を返す。


「そんな手には乗らないし! あたしはここを守ってれば、3食お菓子付きのお昼寝し放題の生活ができるんだし! それに、あなたを通したらあたしが怒られるじゃない!」


その様子を見て、エリエが企み顔で満面の笑みを浮かべた。


この時、一瞬でも敵の口車に乗りそうになった彼女を手駒に取れると、確信にも似た何かをエリエは感じ取っていた。


(何この子……めちゃくちゃちょろそうじゃない。これは、この子から星の居場所を聞き出すしかないよね~)


エリエはそんなことを考えながら、それを悟られぬように満面の笑みを浮かべると、アイテムからバスケットを取り出して少女に見えるように突き出す。


少女は首を傾げながら、こちらの様子を窺っている。


「ふふ~ん。これが何か分かる?」

「なになに?」


エリエがにっこりと微笑んでそう少女に尋ねると、興味津々な様子で幻獣の頭から身を乗り出す。

思惑通り彼女の視線はすでに、エリエの取り出したバスケットに釘付けだ。


次の瞬間「じゃ~ん」と、得意気にその蓋を開けて少女に中身を見せた。


そこにはマドレーヌが山のように入っていた。


少女はそれを見てよだれを垂らすと、そのバスケットの中身に夢中になっている。


「さて、ここに入ったマドレーヌ……食べたくない?」

「食べたい!」

「なら、食べていいよ~。ほら、おいでおいで~」


エリエは不敵な笑みを浮かべながら、しなやかな手首の動きで少女を手招きする。だが、そんなことを気にする様子もなく。


少女は幻獣の頭から滑り降りると、警戒しながらも。ゆっくり、ちょっとずつバスケットの中のマドレーヌに向かってくる。その様子は木の実を目の前に、臆病ながらも寄って来るリスの様だ――。


エリエは彼女を満面の笑みで手招きを続けると、少女の警戒は薄れたのか、その足は徐々に速まる。


バスケットの前まで来た少女は、疑うように眉をひそめながらエリエに尋ねる。


「あっ……毒とか入れてない?」

「もちろん! ほら――――うん! 美味しい♪」


エリエはバスケットの中のマドレーヌを自分の口に頬張って見せた。


毒が入っていないことを確認した少女は生唾を呑み込む。

エリエのその幸せそうな顔を見て、少女も堪らずマドレーヌに手を伸ばしそれを自分の口へと運ぶ。


「ほんほに、こえすほくほいひいし~」


幸せそうな笑顔を見せ、次々と食べ進めていく少女を尻目に、エリエが何やらサラザに目で合図を送る。


サラザは無言のまま親指を立てると、少女の背後に回り込んでその強靭な腕でがっしりと少女の体を捕まえる。


「わっ! なっ、なにするの!? あぁ~、あたしのマドレーヌが~」

「ごめんなさいね~。私達はあなたに聞きたいことがあるのよ~」


地面をころころ転がる食べかけのマドレーヌを見て、少女が涙目になりながら必死に手を伸ばす。

名残惜しそうに地面に横たわる食べかけのマドレーヌを見て、がっくりと項垂れた。


っと次の瞬間。やっと自分が掴まれていることに気が付いて大きな声で叫んだ。


「ひどい! 騙した~。鬼! 悪魔! 私のマドレーヌ~!! んんっ!?」

「ちょっと! 大声出さない! あなたの仲間に見つかるでしょ!?」


エリエは慌てて大声で叫んでいた少女の口を塞いだ。

その後、その少女の体を縄で拘束すると、勝ち誇ったような瞳で緊縛され地面に転がる少女を見下ろす。


少女は瞳に涙を溜めながら恨めしそうに、エリエのことを睨み付けている。


この光景だけ見ると、どっちが悪役なのか分からなくなるが、この際仕方がないだろう。


「さて、それじゃー聞くけど。この前誘拐した女の子はどこに居るの?」

「うっ……ぐすっ……あたし。そんなの知らないし……」

「本当に知らない?」

「知らない!!」


即答してそっぽを向く少女に、エリエは困り果てた様子でため息を漏らす。


縛られながら泣きべそをかいている少女に、今度はサラザが尋ねる。


「なら、こっちに小学4年生くらいの女の子が来なかった~?」

「――知らないし……もし知ってても、キモイからおじさんには教えないし……」

「おじ……へぇ~」


その言葉の直後、ブチッ!っという音が聞こえたかと思うと、サラザはにっこりと微笑み、両手で少女の頬を引っ張った。


少女の頬は柔らかく、まるでつきたてのお餅の様に良く伸びる。


「いっ、いはいし! はらひて~!!」


サラザは少女の頬から手を放すと、少女が涙ながらに訴える。


「うぅ……女の子なんてしらないし……こんなのありえないし……ぐすっ……てかあたし。まだ、なにもしてないし……」


その直後、少女の瞳から我慢していた大粒の涙を一気に流れ出し。


「最初からやりなおしてほしいし~」


っと大声で叫ぶと、少女はわんわん泣き始めた。


エリエはその様子を見ていて眉をひそめながら、サラザ達に告げる。


「――この子、本当に星の事を知らないみたいだし。なんか、凄い泣いてて、見てて可哀想になってきたんだけど……」

「確かに……サラザ。ちょっと強くやり過ぎたんじゃない?」


エリエとガーベラがそう言ってサラザの方を向く。


サラザは両手を振って否定する。


「はぁ~。なら仕方ない……」


エリエはため息を漏らすと、サラザに耳打ちする。


それを聞いたサラザは、大きなため息をつくと少女を肩に担いだ。


突然担ぎ上げられた少女は驚き、両足首を縛られた足をできる限り動かし、まるでエビの様に仰け反る。


「いや~! 放してほしいし!」

「ごめんなさいね~。とりあえず。あなたをこのままここに残すわけにはいかないのよ~」

「えっ!? そんなのあたしに関係ないし! 放して~。降ろしてよ~」


少女は必死に足をバタつかせるが、非戦闘状況の城の中では、サラザには……いや、もしそうじゃなかったとしても、筋肉隆々のサラザに抗う術はない。


何故なら、サラザと少女には圧倒的な違いがある。それがヒューマンとボディービルダーという決して揺らぐことのない種族の違いだ――。


「さて、この階には用事もないし。次に行きましょ~」

「そうね。時間もないし」

「じゃが、本当にこの娘も連れて行くのか?」


そう首を傾げて尋ねるレイニールに、話していたエリエとサラザが頷くと、次の階の階段へと向かって歩き出した。


サラザの肩に担がれながら少女は泣き叫ぶと、それを見てどうすればいいか分からず、その場におすわりしている幻獣ケルベロスに向かって叫ぶ。


「やだやだ。こんなのありえな~い! エリザベス! エリザベス~!!」


泣きながら必死に呼びかける主に、頭が3つの幻獣は「グルルル」と喉を鳴らすことしかできなかった。

抵抗虚しく連れていかれる少女は、最後まで頭が3つの幻獣の名前を叫びながら階段へと消えていった。


エリエ達は薄暗い階段を上がっていく。その最中、サラザの脇に抱かれながら静かに泣き続けている少女に、イライラしていたエリエが声を荒らげた。


「あ~もう! ほら、泣かない! なんか私達が悪者みたいじゃない!」

「だ、だって……ぐすっ……だってぇ~」


また大声で泣き出す少女に、エリエは困り果ててため息を漏らす。


少女は泣きながら言葉を続けた。


「……どうして、あたしが……こ、こんな目に合わないと……いけないの? 本当は……エリザベスの背中で、颯爽と……颯爽と戦うはずだったのにぃ~」


少女は途切れ途切れにそう言って、また激しく泣き始めた。


だが、実際。もしも少女がケルベロスを動かしてエリエ達に襲い掛かっていたら、敵の拠点内で武器の使えないエリエ達は間違いなく全滅していただろう。


正直、少女がマドレーヌに誘き出されてくれるバカで助かったと言わざるを得ない。


号泣している少女に、エリエが呆れながら言葉を返す。


「どうしてって……あなたがマドレーヌに釣られたからでしょ? それにこうでもしないと、あのケルベロスに襲われてたし。この城の中を案内してもらないと、私達が迷っちゃうでしょ?」

「知らない知らない! そんなの知らない! あたしにはそんなの関係ない!」


少女は足をばたつかせながら叫んだ。


全力で拒否している少女に、エリエが諭すように言った。


「だって、あなただってこの組織に居たら、犯罪者になっちゃうんだよ? 三食お菓子付きの生活がしたいだけなら、ここじゃなくてもいいでしょ?」

「――うぅ……犯罪者になるのは嫌だし……」

「でしょ? なら星を助けたら私達と一緒に行こ。ねっ?」

「……お昼寝も付けてほしいし」


少女は泣き止み、膨れっ面をしてぼそっと呟く。


エリエは呆れながらも優しく微笑んで「後でお菓子作って上げるからね」と少女の頭を撫でた。

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