オンライン・メモリーズ

~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~
北条氏成
北条氏成

運命とは・・・

公開日時: 2021年10月15日(金) 00:01
文字数:3,047

 誰も居なくなった教室で帰り支度を整えた星はさながら進級前の終業式の日のようになっていた。体には持てる限りの荷物を掛けて家に帰る。


 しかし、荷物の多さにさすがに一人では一度で持っていける量ではない。帰り道を急いで帰って再び学校に戻ってきて残っている荷物を2回運ぶと、最後に残ったランドセルを背負ってすでに暗くなった帰り道をゆっくりとした足取りで一歩一歩踏みしめて歩く。


「……もう学校に行かなくていいんだ」


 そう呟いた星は悲しそうな顔でアスファルトを見ていた。


 今まで学校はとてもじゃないが楽しい場所ではなかったが、それでも通えなくなるのは悲しい。


 入学してから今まで通い続けた為、少なからず愛着があったのは間違いない。それが急に明日から来なくていいと言われたら、心にぽっかりと穴が空いたような気がしてどうにもやり場のない気持ちになってしまう……。


 ランドセルを背負ったままとぼとぼと帰っていた星がふと歩くのをやめて呟く。


「……本当に居場所がなくなっちゃった」


 大きなため息を漏らした星はがっくりと肩を落としてふと空を見上げると、空にはすでに星がキラキラと輝いていた。


 家に帰ると星は真っ暗な廊下を歩いてリビングまでいくと、ランドセルを地面に投げ出してソファーの上に身を投げる。

 学校から家までの往復を3回も行ったのだ。さすがに体力も精神的にも限界だったのだろう……ソファーに倒れた星はそのまま眠り込んでしまった。


 次に星が目を覚ましたのは夜12時を過ぎてからだった。起きてすぐ時計を見て時間を確認した星はテレビの電源を入れる。すると、星の『ON』の声に反応した機械が光り出して仮想モニターが空中に映像を映し出す。


 そこには星がゲーム内で最後に戦ったラーを倒した時の映像が映し出されていた。それは星が今日学校で男性教師から見せられた新聞の一面と同じものだった……。


『今回のVRMMORPGという次世代のゲームである【FREEDOM】の中で行われていた真実です。ゲーム開発をし、自分の娘を特別扱いしてゲーム内に複数のプレイヤーを閉じ込めた大空融。


 そのせいで多くのただゲームを楽しんでいた若者の多くが今も昏睡状態でいます。そんな中、彼と彼の家族は普通の生活を送っているのです! そんな事が許せるわけがない! 


 ゲーム運営陣も続々と拘束される中、最高責任者である遠藤豊氏がアメリカの研究機関で逮捕されたとの情報も入っております。


 しかし、主犯である大空融の行くへは未だに掴めておりません。もし、少しでも情報をお持ちの方は警察までご連絡下さい!』


 画面にでかでかと表示された自分の顔を見て、星はすぐにテレビの電源を落とした。


「――こんなことになってるなんて……」


 そう呟いた星はソファーの背凭れに凭れながら大きくため息を漏らした。その直後、星のお腹が鳴った。お腹を押さえた星は苦笑いを浮かべながら、徐に天井を見上げる。


 こんな状況でもお腹が空くことに呆れていたというのもあるが、それ以上にまるで現実味のない現実を受け入れられずに出た苦笑いだった。


 それもそうだろう。星の父親は本来ならば彼女が生まれる前に亡くなっているのだ。いくら探したところで見つかるはずがない――それどころか、星も指名手配犯のように顔を晒されている。


 ゲーム内では自分と同じく出られなくなったプレイヤーの為、仲間達の為に全力で戦ったはずだった。少なくとも星はそのつもりだったが、現実に戻ってきたら完全な悪人として報道されている。そのことが今の星には一番堪えていた……。


「……私は頑張って戦ったはずなのに……」


 ゲーム内での努力や苦悩を思い出して泣きそうになるのを必死に抑え込んで、星はソファーから立ち上がり服を着替え始めた。


 九條が残していったトランクの中から黒い男の子用のぶかぶかのズボンと、金の刺繍の入った黒いパーカーに袖を通して長い髪を服の中に隠して金の縁取りがしてあるキャップを深く被りその上からパーカーに付いたフードで頭全体を覆う。


 全体的に大きいサイズの服とズボンに身を包んだ星はヤンキーに憧れる小学生の男の子にしか見えない。


 金の刺繍が入ったパーカーは女の子特有の小さく細い指先までしっかりと覆い隠してくれるだけではなく腰の下まですっぽりと隠し、歩き難いぶかぶかのズボンもか細い足のラインを何倍にも大きく見せてくれる。キャップとパーカーに付いたフードは星の顔を隠すには十分過ぎるくらいだ。


 全体的に金と黒で目立つ為、星の好みではないが、こんな状況下では贅沢を言ってはいられないだろう。


 自分の格好を確認した星は家を出て近くのコンビニへと向かった。コンビニに着くと、コンビニの駐車場でタバコを吸っている大学生くらいの男性二人組の金髪の方が星の方をじっと見てくる。


 それを視線を逸らしてやり過ごすと、足早にコンビニの中に入る。ほっと胸を撫で下ろした星は、お弁当と明日の朝に食べる用にパンを買ってコンビニを出る。


 直後。先程までタバコを吸っていた金髪の男が徐に立ち上がり星の行く手を遮るように立った。


「おい! ちょっと待てよ!」


 金髪の男は星を見下ろしながら不機嫌そうに眉をひそめる。


「お前小坊だろ? 生意気なんだよな。小学生のくせによぉ~」

「――すみません。遅くなると親が心配するので……」


 そう言って星は目の前に立つ金髪の男の横をすたすたと歩いて抜けた。


 驚いた表情のまま、足早にその場を去る星を見ながら立ち尽くす彼等を一度はやり過ごしたと思ったものの、しばらくして彼等が後を付けてきていることに気が付く。


 まあ、大人と子供の歩幅の違いではすぐに追いついてきてしまうのも無理はない。気が付かないふりをして早歩きしている星の手を追ってきた金髪の男ががっしりと掴む。


「待てよお前!」


 がっしりと腕を掴まれ強引に止めらた星は俯き加減にその場に立ち止まる。


「年上に対しての態度がなってないんじゃねぇーのか? 最近の小坊は礼儀作法も知らねぇーのかよ」

「…………」


 無言で返した星に金髪の男はイライラしながら強引に腕を引っ張って自分の方へと引き寄せる。


「ガキが調子に乗ってんじゃねぇーぞ!」

「きゃっ!!」


 咄嗟に出た悲鳴を聞いた金髪の男はニヤリと不気味な笑みを浮かべると、星の掴んでいた腕から手を放した。


「なんだよ。女なら女だって最初から言えよ。女だって知ってたら手荒なことはしなかったのにさ」

「……それじゃ失礼します」


 不気味にニヤニヤと笑っている金髪の男に軽く頭を下げてその場から離れようとした星の行く手を再び遮った金髪の男が星の顔を覗き込んで言った。


「ばか。誰も許してやるとは言ってねぇーだろ? 女なら女で責任の取り方が変わってくるってだけなんだよなぁ~」

「……責任?」


 訝しげに眉をひそめた星の顎に指を付けて顔を上げさせ、顔を覗き込んだ金髪の男が笑みを浮かべる。


「へぇー、可愛い顔してんじゃん。難しい事は何もない。ただちょっとお兄さん達に付き合ってくれればいいだけさ。なぁに、お前はベッドで寝てるだけでいい。なぁ、簡単だろ?」

「お前。こんなガキにまで手を出すのかよ。きめぇ~、さすがに引くわ~」

「馬鹿! おめぇーだって興味あんだろ? ガキでも女は女なんだからよ。一回は使ってみてぇーだろうが!」


 男達がなにを話しているのか分からず首を傾げていると、金髪の男が星の被っているキャップとフードを外そうとする。


 その手を強引に退けようとするが、力が強くて星の必死の抵抗も虚しくフードとキャップを頭から引き剥がされてしまう。

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