エミルの手を握って、満足そうな笑みを浮かべているメルディウス。
そのやり取りをエミルの後ろで様子を窺っていた星は赤い鎧を着ている見知らぬ男に、なんとも言えない恐怖を感じた。それは彼の体から滲み出る何かを感じた、動物の本能的な勘としか言いようがない。
(この人は怒らせてはいけない……)
直感的にそう感じた星が俯き加減に数歩後退ると、突然廊下側から何者かの駆けて来る音が聞こえてきた。
次の瞬間。ドアが突然勢い良く開き、そこから中学生位の男の子が飛び込んできた。
「ちょっと兄貴! どうして僕は姉さん達と一緒に帰れないのさ!」
「おう、やっと来たか小虎。遅いぞ!」
視線だけを向けたメルディウスに、小虎はだだをこねるように更に言葉をぶつける。
「姉さんが『メルディウスが小虎が居ないと寂しいと言っていましたので、不服だとは思いますけど。小虎はこのままここに残って下さい』て言ってたんだけど! 兄貴ももういい歳なんだから、そろそろ1人で行動できるようにしなよ! そんな人が同じギルドで、しかもギルドマスターなんて僕も恥ずかしいよ!!」
「はぁ!? 誰が寂しいだってー!!」
瞳に微かな涙を浮かべてビシッと指差しながら言い放つ小虎の方に、大きなドタドタと足音を立てて走っていくと、小虎の後ろに回り込んで首の辺りを腕で締め上げる。
小虎はジタバタしながら必死の抵抗を見せ「だって、ほんとのことじゃないか~」と叫ぶ。
そこにタイミングがいいのか悪いのか、部屋に備え付けられている浴室の脱衣所からバスタオルを体に巻き付けたミレイニが飛び出てきた。
目の前で羽交い締めにされている小虎と、ピタッとミレイニの目が合った。
「あははははっ! なにしてるんだし! 超かっこ悪いしー」
指差しながら大笑いしている。
自分はバスタオル一枚という格好で、よくもまあ人を貶せるとは思うが、それは彼女の見たものに、そのままツッコミを入れるという条件反射的な行動なのだろう。
すると、小虎が顔を真っ赤にしてメルディウスの腕を振り解いて部屋の外へと飛び出していってしまう。
「うわああああああああああ~っ!」
突如飛び出していった小虎を見てミレイニが首を傾げていると、その後ろにエリエが目を引き攣らせむっとしながら立っていた。
突然ビクリと体を震わせ、圧倒的な威圧感にミレイニが恐る恐る振り返る。
「――ミレイニ。どうして着替えてから出てこないの!」
後ろに立っていたエリエはしっかりと服を着ていて、そのことから着替えている最中にミレイニが勝手に飛び出していったことが推測できる。
腕を組んだまま立ち尽くしているエリエに、ミレイニが慌てふためきながら。
「い、いや……何と言うか……わ、忘れてたし……」
「……忘れてたって? 忘れてたじゃないでしょ!!」
顔を引き攣らせているミレイニの頬を、エリエが思い切り引っ張った。
「――ほら、ごめんなさいは?」
「ほえんなあい、ほえんなあい~」
瞳に涙を滲ませながら痛みから逃れようと手足をバタバタ動かしているミレイニと、その頬を引っ張っているエリエに向かってエミルが尋ねた。
「そう言えば、エリーとミレイニちゃんはどうしてお風呂に入ってたの? 昨日は入らなかったの?」
その言葉を聞いたエリエは、呆れながらミレイニの頬から手を放した。
真っ赤になった頬を撫でているミレイニを余所に、困った顔をしたエリエがエミルに叫ぶ。
「聞いてよエミル姉! この子ったら、私の横で寝てたはずなのに朝起きたらいなくて、探してたらなにしてたと思う?」
顔が付きそうになるほど予想以上に詰め寄ってくるエリエに、エミルは苦笑いしながら「なにをしてたの?」と聞き返す。
すると、エリエが口を尖らせながらミレイニの方を一瞬見遣って大きなため息とともに頭を押さえる。
呆れ顔のエリエとは対照的にミレイニは普段と変わらず「なんだし?」と不思議そうに首を傾げた。
「はぁ……私はこの子がこんなに馬鹿だと思わなかったよ……」
「なにがあったの?」
その問い掛けにエリエは徐に口を開くと、事の次第を説明し始めた。
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