地面に落ちたスケルトンの頭は、呆然と見つめる彼等を馬鹿にしたようにカタカタと音を立てて笑っている。それと同時に、スケルトンのHPゲージが再び減少を始めた。
「くそっ! 自切するなんて聞いてないぞ!?」
「くぅ~、なによこいつ。デビッドと同じくらい腹立つ~!」
そう悔しそうに歯を食いしばっているエリエに、デイビッドは「それはどういう意味だ?」と怒りを含んだ声で問い掛けると、エリエはぷいっとそっぽを向いた。
「皆、戻って。また復活するわよ!」
エミルにそう言われ、一斉にスケルトンから手を放し。即座に離脱した4人はエミル達の側に戻ってきた。
「……でも、捕まえてもこれじゃ、どうしようもないよ。どうするの? エミル姉……」
エリエは困惑した様子で情けない声を上げると、考え込んでいるエミルの顔を見た。
不安そうな顔をする彼女に、エミルは「必ず打開策はあるはずよ」と難しい顔をしながら告げた。
それを見た星も同じように考えを巡らす。
(何度も復活する敵。倒せないなら、他に何か……)
星は今までの出来事を思い出し、思考をフル回転させる。その時、ふと星の視界の中に、戦闘で破壊された骨が宙を舞うのが飛び込んできた。
半分に折れても破壊しても再生する骨の中に混じって、ダメージが全く回復していない部位があることに気付く。
(――骨……人の体で1つしかない大事な骨は……あっ!)
地面に転がる骨を見て、何かを思いついた星が横にいたエミルにかがむように頼むと、ひそひそと耳打ちする。
それを聞いたエミルは力強く頷くと「やってみる価値はありそうね……」と呟き、皆に向かって大声で叫んだ。
「皆。スケルトンの頭を狙って! そしたら復活しても動きを止められるかもしれないわ!!」
彼女の言葉を聞いた全員が、何かに気付いた様にはっとして不敵な笑みを浮かべると力強く『了解』と返事をした。
その後、皆生き生きとした表情でスケルトン達に向かっていく。
「どうせ狙うんなら粉々に粉砕してやるわ~」
サラザはそう言って復活途中のスケルトンの頭をバーベルで吹き飛ばすと、地面に転がった頭を再びバーベルで攻撃し粉砕した。
すると、頭を粉々に飛ばされたスケルトンがきらきらと光りに変わっていく。それは紛れもなく、敵を撃破した時に発生するエフェクトだった。
「やった! 星ちゃんのお手柄ね!」
エミルはそれを見て嬉しそうに星の頭を撫でる。
星は褒められ「そんな事ないです」と照れくさそうに笑みを浮かべながらも、満更でもない様子で頬を赤く染めている。
頭を破壊すればスケルトンを撃破できると解れば、高レベルプレイヤーのエミル達の敵ではない。
皆それぞれに溜まっていた鬱憤を吐き出すかのように、砕け飛んだスケルトンのから頭部だけを破壊していく。
エミル達はあっという間にスケルトンを撃破すると、先を固く閉ざしていた重そうな鉄の扉が音を立てて開く。それを見たエリエは、緊張の糸が切れたのか地面に腰を下ろした。
「はぁ~。もうだめ! ちょっと休憩させて……」
「確かに、さっきのはさすがの儂も少し堪えたな……」
今まで涼しい顔をして戦っていたマスターも、エリエに続きその場にゆっくりと腰を下ろす。まあ、彼の場合は本当に言っているのか怪しいところはあるが……。
それを見たカレンも「師匠がそうするなら」とマスターの隣に腰を下ろした。
「そうね……これだけ連戦だと、次もどうなるか分からないし。ヒールストーンは温存した方がいいから無難ね。今回のダメージは自然回復に頼った方がいいわね」
エミルはそういうと松明を差したままのストーンドラゴンだけ残し。背中に剣を纏っているドラゴンの方は召喚を解除する。
その様子を見ていた星は、どことなくドラゴンのことをエミルに尋ねた。
「あの、エミルさん。さっきのドラゴンさんは、なんていう名前なんですか?」
「――えっ? ああ、あの子はソードアーマードラゴンよ。昔、少しだけイベントであったダンジョンにしか出現しないドラゴンで、武器を無限に装備できるのが利点ね! アイテムで持ちきれない物はあの子に装備してもらって持ち歩いてるのよ。武器はバッグの中を圧迫するから、必要ない装備意外はあの子に持ってもらってるわ」
「なるほどー」
エミルはストーンドラゴンの頭を撫でながら微笑んでいる。
星は納得したように相槌を打つと、その会話を聞いていたエリエがにこにこしながら話しかけてきた。
「ふふっ、星。あのドラゴンはね。エミル姉のとっておきなんだよ?」
「とっておき……ですか?」
星は首を傾げると「そうなの!」とエリエは自慢げに人差し指を立ててた。
「私が最後にあのドラゴンを使ってるエミル姉を見たのは、リントヴルムをゲットする時かな? リントを捕まえる時は壮絶だったもんね~。いろんな意味で……」
「……いろんな?」
含みを持たせた彼女の口振りに、話を聞いていた星が不思議そうに首を傾げた。すると、エリエは悪戯な笑みを浮かべ。
「そうなの! エミル姉なんて、リントの気を逸らすために自分の鎧を岩に着せてね。なんと――」
「――ちょっと! エリー。それ以上はだめぇー!!」
エリエが何かを口にしようとした直後、エミルは顔を真っ赤に染めて慌ててその口を手で塞ぐ。
星は話を途中で切られ、少し気持ちがもやもやしながらもそれ以上は聞き返そうとはしなかった。
7人は地べたに座って雑談などをして休息を取り体力とHPを回復させると、スケルトンを倒したことで開いた扉を進み始めた。
扉の向こうは、最初に降りてきたような狭く薄暗い階段がどこまでも地下へと続いている。
星はまた階段を進むのかと、小さくため息を漏らしながらも歩み始めた。
それからしばらく階段を進んで行くと、また広い空間の部屋に辿り着く。その時、エリエが大きなため息を漏らす。
「はぁ~。またなの? もう嫌なんだけど……次はなに? 骸骨の次はゾンビでも出るの?」
「さすがにそれはないとは思うけど――って、エリー? あまり文句ばかり言わないの。星ちゃんだって文句1つ言わないで付いてきてるのよ?」
エミルは星を引き合いに出してエリエをたしなめると、エリエは不機嫌そうに目を細めながら星の顔を見つめた。
星はその企みげなエリエの表情に、嫌な予感を感じながらそっと視線を逸らす。
「……星だって本当は嫌がってるよね?」
「……えっ? いえ、そんなことは――」
「――嫌がってる。よね!」
エリエは星が話すのを途中で遮るように、さっきより強めに尋ねた。
星はその威圧感に押され、小さく頷くと愛想笑いを浮かべる。
満足そうににやっと笑うとエリエが「ほら、星だってうんざりだって」と言うと、その一部始終を見ていたエミルは少し呆れた様子で「はいはい」と軽く流した。
3人がそんなやりとりをしていると、前を行くマスターが声を上げた。
「ボスの部屋の門が見えたぞ。皆、心せい!」
それを聞いた途端。エリエとエミルの表情がさっきまでとは違い緊張感を持った面持ちへと変わっていた。
(やっぱり。この人達は凄いなー)
そんな2人の表情を見て、星は素直に関心する。
星が部屋の奥へと進んで行くと、マスターの言葉通り大きな錆びた鉄製の門が目の前に現れた。
両端には大きな骸骨の石像が2体。門を支えるような格好でそびえ立っている。
門の中心にも更に巨大な金色の骸骨の装飾があしらわれ、巨大な顎を大きく開いていた。
星にはそれがまるで自分達を食べようとしているように見え、何とも言えない恐怖と胸騒ぎを感じる。
(ここ……なんか、凄く嫌な感じがする……この事を、エミルさんに伝えないと……)
星は心の中がざわめく感覚に襲われた、こういう時はいつも必ずと言っていいほど何か良くないことが起こる前触れである。
前のヤマタノオロチの部屋でも感じたが、今はそれを遥かに凌ぐほどに胸がざわついてしかたがない。
このことを伝えようと、横に居るエミルの手を引っ張る。
エミルが浮かない顔で手を引く星に気が付く。
今まで見たことがないほど青ざめた星の様子に、エミルは慌てて膝を折ると星の耳元で話し掛けた。
「――どうしたの? 星ちゃん、顔色が悪いわよ。どこか具合でも悪いの?」
心配そうに小首を傾げるエミルに、星が勇気を出して告げる。
「あの……なんか、凄く――凄く嫌な感じがします」
「……嫌な感じって、どんな?」
「分からないですけど……とにかく、この中に入ったらダメな感じがします!」
それを聞いて無言のまま頷くと、今にも扉を開けようとしているマスターを呼び止める。
「マスター。星ちゃんが少し調子悪そうなの。だから、まだボス部屋に入るのを待ってもらえないかしら」
「なんだ。そうなのか?」
マスターは星の顔を見つめると、顔面蒼白な彼女の顔に「確かに、無理して今直ぐに入る必要もなかろう」と頷き、カレンにテントを張るように指示した。
だが、その言葉に従順なカレンが珍しく反論してきた。
「師匠。どうしてですか!? 子供1人のためにわざわざ歩みを止めなくても!」
っとカレンは不満そうな顔をしながら、マスターの顔を見る。
珍しく噛み付いてきた弟子のその鋭い視線を受け、マスターは口元に笑みを浮かべた。
「……カレン。お前は仲間というものを分かっておらんな」
「仲間? 俺と師匠の2人でなら、例えどんな敵が出てきても余裕です。俺達に仲間なんて……特に弱い人間は必要ない!」
カレンは蔑むような目で星を横目で睨みつけると、そう言葉を吐き捨てた。
彼女の突き刺すような視線に、星は反論もせずに小さく背中を丸める。
「うぅ……」
っと星は何も言い返せずに俯く。
本当は何か言い返したかったが、その言葉が見つからない。
事実。カレンは星よりもレベルも戦闘技術も高い――。
先程のスケルトンとの戦闘でも、他のメンバーと見劣りする部分は1つもなかった。
それを聞いたマスターは無言のまま、大きなため息を漏らすと「少し頭を冷やしてこい」とカレンの肩を軽く叩いた。
カレンは彼にそう言われ、更に不機嫌そうな顔になり「師匠は変わってしまった……」と小さな声で呟き、イライラしながら星の横を通りすぎていった。
その時、星の耳元で小さな声でボソボソと何かを呟き、足早に階段の方へと歩いていく。
星はその言葉を聞いて、明らかに落ち込んだ表情でがっくりと肩を落として項垂れる。
その様子を見たエリエが声を荒げた。
「ちょっと! あんた今、星に何か言ったでしょ!!」
カレンは「ふんっ!」とそっぽを向きながら、その場を去っていく。
顔を真っ赤にしながら、カレンを追いかけようとするエリエの前に、星が両手を広げて立ち塞がった。
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