オンライン・メモリーズ

~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~
北条氏成
北条氏成

新居での生活

公開日時: 2021年11月5日(金) 00:01
文字数:1,719

 家の中に戻ったエミルは星の方を見ると。


「ちょっと遅いけどお風呂に行きましょうか。今日はいっぱい動いたからちゃんと綺麗にしておかないとね」

「え? 別に明日でも……」

「だーめ」


 あまり乗り気じゃない星の言葉をすぐに否定したエミルは星の手を引いてお風呂へと向かった。


 洋風の屋敷の長い廊下を歩いてお風呂場へと向かう中、ふと前を歩くエミルが星に尋ねた。


「お父様は変な人だったでしょう?」

「……いえ、とてもいい人だと思います。私にはお父さんはいませんでしたが……」


 星は少し悲しそうに呟き、エミルは少し申し訳なさそうに「ごめんなさい」と言った。


 お風呂場に着くと、大きな脱衣室で服を脱いで大きな浴室に入った星とエミルはプラスチックの椅子に座って体を洗い始める。

 椅子に座っている星の背中をボディーソープの着いた手で丁寧に洗うエミルが星の小さな体の肌を素手で撫でながらぼそっと呟く。


「星ちゃんあのね。学校の話なんだけど……明日、制服を買いに行きたいの。でも、星ちゃんが嫌ならしばらく学校に行かなくても……」

「いえ、学校に行くのは当たり前の事ですし……いいですよ」


 エミルの言葉に星は少し複雑そうな顔をした。


 それもそうだろう。星の前に通っていた学校ではいじめにあった末、ほぼ強制的に不登校に追いやられるという普通ならば考えられない行動を取られたのだ。


 もちろん。次に通う学校は別だが、星の学校に対しての印象は最悪と言わざるを得ない。しかし、学生である以上は学校へ通うのは当然であり避けられないことだ――。


「そう。それじゃ、星ちゃんもいいって事だし。明日のお昼に制服を見に行きましょうか」

「――制服?」


 彼女の言葉に星は首を傾げた。星にとって学校に制服で行くという概念がそもそもない。


 普通ならば小学校には私服で行くのが基本なのだが、エミルの口からは確かに『制服』という言葉が発せられた。


「制服ですか? でも、私が行くのって小学校ですよね? 小学校は私服じゃないんですか?」


 星が背中を洗っているエミルに尋ねると。


「ああ、公立の学校はそうかもしれないわね。でも、星ちゃんが次に通うのは私立の学校だから専用の制服があるのよ」

「……なるほど」


 その説明を聞いた星は首を傾げながらも前を向いた。


 だが、星には公立の学校と私立の学校の違いが分かってなかった。ただ、変わっている学校なんだろうな。っとしか思っていない。


 体を洗い終え髪を念入りに洗ってもらった後、エミルと一緒に大きな浴槽へと浸かった。浴槽と言っても大理石で作られたそれは大人100人は入れそうな大きさでとても星とエミルの2人で使い切れる広さではない。


 そんな大きな浴槽の真ん中に並んでお湯に浸かりながらエミルが。


「気持ちいいわね。星ちゃん」

「はい。気持ちいいです」


 彼女のその言葉に返事をする星の顔を見たエミルは、星と視線が合うと少し目を逸らす。


 その彼女の様子に星は不思議そうに首を傾げたが、それは次の日になって分かることになる。


 翌日、大き過ぎるキングベッドで目を覚ます。小さな体の星にはキングサイズのベッドは大き過ぎてどうしても慣れない。だが、それでもふかふかなその手触りとマットレスの感覚はまるで雲の上で寝ている様ですごく気に入っていた。


 体を起こして大きく天井に向かって伸びをすると、ベッドの上から降りて部屋を出ようとドアの前に行った時、ドアをノックする音が響いた。


 星がノックされているドアを開くと、驚いた表情のエミルがそこに居た。


「あら、早いわね……」

「おはようございます」


 目を大きく見開きながらそう言ったエミルに、星は軽く頭を下げた。


 部屋から廊下に出た星は扉を閉めて「行きましょう」と言ってゆっくりと歩き出す。


 その後をエミルが歩いていたが、彼女の表情はどこか疲れているような感じがした。よく考えてみると、エミルが星よりも早く起きるのはおかしい。


 何故なら、ゲーム世界にいた時から、彼女が星よりも早く起きていたことは数えるほどしか記憶にない。

彼女の疲れたような表情から察するに、おそらくは昨晩から一睡もしていないのだろう。


 星と一緒に歩いているエミルは何か言いたげな表情で何度か星の方を向くが、その度に星と顔を合わせて視線を逸らす。


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