結局、容量一杯まで写真を撮られ続け、執事の小林がきて諫めるまで写真を撮るのを止めなかった。
呆れ顔でエミルのシスコンぶりを店主も奥の通路から覗いていたエプロン姿の女性2人も少し引いているように感じた。
制服の代金を支払い。商品を受け取って、それを車のトランクの中に入れると、星とエミルは車の中へと乗り込んだ。
店を後にして車で家に戻る最中、写真を撮ることに熱中しすぎて反省していたエミルを横目に見ながら、星がふと言葉を発した。
「――エミルさんは、私がいじめられてたのを知ってたんですね……」
「…………ごめんなさい。転校の手続きの時に不審に思って、星ちゃんの事を少し調べさせてもらったの。同じクラスの親切なお子様に一万円を渡したら快く教えてくれたわ」
「一万円……」
星は小学生に賄賂を渡して自分の情報を聞き出すエミルに引いているのか、その表情は引き攣っていた。
まあ、普通にお金で買収するのですら犯罪になりそうなものだが、相手が小学生だとなお悪質なのは間違いないだろう。
エミルは星の目を見つめながら、真剣な面持ちで告げる。
「星ちゃんが学校に行きたくないなら、無理して行かなくてもいい。家庭教師を雇っても私が勉強を教えてもいいわ。もう普通の家庭じゃないんだし、学校で集団生活を学ぶ必要もない。学校なんて、集団生活を身に付ける場なんて言われてるけど、結局は思い出作りなんだし。それに社会に出てから何の役にも立たないくだらないものなんだから」
そんなエミルの言葉を聞いた星は、彼女の学校に対する価値観を垣間見た気がした。
だが、星にはエミルの言っている言葉を理解できなかった。エミルがどうであれ、星には学校で勉強するしか立派な大人になれる方法はない。
テストで良い点数を取り、中学、高校、大学と進学することが全てであり、星にできる唯一のことでもある。だからこそ、星には学校に行かないと言う選択がそもそもなかった。
真剣な顔をしているエミルに、星が微笑みながら言った。
「いえ、学校には行きます。大丈夫です。今度の学校には、私の知ってる子はいませんから」
「そうかもしれないけど……」
そう告げた星の決意に満ちた顔を見ても、エミルは不安そうに呟き表情を曇らせている。
そんな彼女に星は笑顔を浮かべ。
「心配しないで下さい。あの時の私は1人でしたけど、今はエミルさんもいます。それにせっかく買って貰った制服を着てみたいですから」
その星の言葉の直後、エミルの脳裏には亡くなった妹の病室のクローゼットに入ったままになっていたセーラー服が過ぎっていた。
亡き妹の岬はもう制服を着ることはできないが、星は制服を着ることができる。夢にまで見た制服を着て一緒に登校できるという欲望には逆らえない。まあ、星が行く予定の学校は自分の父親が多額の寄付を行っている父親の高校時代の同級生が経営する私立のお嬢様学校。
前に星が通っていた公立の小学校とは違って教師の質も高い。それになにより、星がいじめにあったら自分が解決すればいいと考えエミルは首を縦に振って星の意見を尊重した。
頷いたエミルに星も嬉しそうに表情を明るくして「ありがとうございます」とお礼を言った。今の星には、ただ自分を家族として迎えてくれたエミルと彼女の父親に立派な人間になって恩返しすることしか考えていなかった。
その目的の為に、どうしても学校に行って勉強する必要があったのだ――。
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