オンライン・メモリーズ

~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~
北条氏成
北条氏成

一難去ってまた一難3

公開日時: 2020年9月27日(日) 00:01
文字数:4,101

 エミルに勢いだけで連れて来られた感じが否めない星にとって、この時間は退屈以外の何ものでもない。

 頭の上のレイニールと話をしようにも、ハンバーガー屋の件を未だに引きずっているのか、レイニールはツンとした態度を崩す様子もなく。 星がレイニールの方を見上げると、顔を逸らす有り様だ――。


「……はぁ~」


 大きなため息をつくと、どうしようもない状況に、星はその場に項垂れている。


 そんな星の様子に気付く様子もなく2人は話を続けた。


「時間が決まらないなら、少し時間を置いて夕方くらいがいいんじゃないかしら。エリーも今すぐにって感じでもないでしょ?」

「……うん、それがいいかも。でも、それまでは何をして時間を潰すの?」


 不思議そうにそう尋ねるエリエに、エミルはにっこりと微笑むと「ならちょっと付きあって」とエリエと星の手を強引に引いて歩き出した。


 3人は街から出ると、少し離れた場所にある【アシフ高原】へとやってきた。

 草が生い茂りどこまでも続く野原――そこには牛や馬、羊の姿をしたモンスターがあちらこちらに見ることができる。


 実際に実在する大きさよりだいぶ大きくが、それはモンスターということで納得するしかないだろう。

 なにやらやる気に満ち満ちた表情でいるエミルに対し、2人はどうしてここに連れて来られたのか分からず、困惑した表情でお互いの顔を見合っている。


「さて、それじゃー。晩御飯の食材とふとんの材料を集めるわよ!」

「「……えっ?」」


 エミルのその言葉に、2人はただただきょとんとしてその場に立ち尽くしている。


 全く状況を読み込めていない2人とは対照的に、エミルはアイテムの中から徐に巻物を取り出すとソードアーマードラゴンを召喚した。

 召喚されたドラゴンは「グオオオオッ!!」と雄叫びを上げると、その無数の剣が生えた背中から、一本のクレイモアが空中に向かって撃ち出された。


 エミルはそれを掴むと、呆気に取られて立ち尽くしている2人に叫ぶ。


「ほら、2人とも何をぼんやりしているの? 時間もあまりないんだから早く武器を抜きなさい!」

「「は、はい!」」


 2人はエミルに急かされるように剣を抜いた。


 互いに剣を握りながらも、そのエミルのテンションの高さにたじろぐばかりだ――。


「さて、何から狩ろうかしら」


 剣を担いでやる気満々の様子で辺りを見渡しているエミルに、エリエが恐る恐る声を掛ける。


「――あのさ、エミル姉。食材って別に街で買えば良いんじゃないかな?」

「……わ、私もエリエさんに賛成です。ダンジョンから出たばかりですし……」


 エリエのその意見に賛同するように、星も小さく呟く。

 本音を言えば2人共、普段の数倍高いテンションのエミルに恐怖にも似た感情があったのは確かだ。


 出来る限り早めに、この場所からもエミルからも開放されたいという思いが一致したのだろう。

 しかしエミルは、コマンドを操作してその言葉を華麗にスルーすると、2人ににっこりと微笑んだ。


「さあ、始めよっか!」

「「は、はい……」」


 その満面の笑みにこれ以上言っても無駄なのを悟ったのか、2人は諦めたように小さく返事をした。その後、エミルは何かを見つけたのか急に走り出す。


 星とエリエもその後を渋々追いかけると、しばらくして高原の中にうごめく黒い集団を見つけた。


「へぇ~。あれはブルアバイソンね」

「ブルアバイソン?」


 星が聞き返すとエミルではなく、エリエがその問に答えた。


 「星もモディールバイソンは知ってるでしょ?」

「モディールバイソン? ってなんでしたっけ……?」

「もう忘れちゃったの!? はぁ~。しかたないなぁ……」


 星がまた首を傾げると、エリエはにやりと笑みを浮かべ星のお腹をさすった。

 その手を見た後、星が不思議そうにエリエの顔を見つめた。すると、ニヤリと笑ったエリエが告げる。


「前に私と一緒に美味しく頂いた牛さんだよ。思い出さないと、化けて出てくるかもよ~? 牛さんの祟りは怖いぞ~」

「ひっ! えっ?」


 星はその言葉で全てを思い出したのか、怯えながら慌ててお腹を押さえた。


 エリエは悪戯な笑みを浮かべながら。


「あははっ! 大丈夫。データだし化けて出たりしないって!」


 っと大きな声で笑うと、エミルの大きな声が響いた。


「エリーうるさい! 逃げちゃうでしょ! 静かにして!!」

「あっ……うん。ごめんなさい」


 突然。鬼のような剣幕で怒られたエリエは、しゅんとして体を小さくまとめる。


「よしよし……大丈夫ですか?」


 落ち込んでいるエリエの頭を星が優しく撫でると「ありがと~。星は優しいなぁ~」と抱き付き、エリエも星の頭を撫で返した。


「それでね。モディールバイソンは牛肉が一番美味しいの。ブルアバイソンも美味しいんだけど、ちょっと筋が多いから必然的に煮込み料理とかになるんだよね~」「へぇ~。そうなんですね」


 自慢げに話すエリエの話を聞きながら、エミルの方を見ていた星が口を開いた。


「それにしても、エミルさん。なんだか真剣ですね」

「そういえば。今日はいつにも増して迫力があるというか、ピリピリしてるね……」

「なにかあったんでしょうか……」


 いつもと違うエミルの様子に小声で話すと、2人は顔を見合わせて首を傾げる。

 確かにエミルがこれほど神経質になっているのも珍しい。おそらく、彼女を駆り立てるなにか重要な出来事があったのだろう。


 それががしゃどくろを倒したことが理由なのか、何かは分からないものの、少なくとも星とエリエ絡みではないことは決定している。


 普通に考えて、何かサプライズを考えているならその本人に準備を手伝わせるわけがないからだ。


「ほら。2人とも行くわよー!!」


  エミルは2人に微笑むと「頑張れば美味しい料理が食べれるわよ~」と自信たっぷりに言うと、両手に持った剣を構えブルアバイソンの群れに飛び込んでいった。


「……って、エミル姉料理できないじゃん」

「……そうですね」


 2人はエミルに聞こえない様に言うと、お互いに思い出すところがあるのか、憂鬱な気持ちになりながらその後に続く。


 結局それから数時間にわたり、大きな牛を黙々と狩り続けた。


 星も頑張ったが、殆ど頭上のレイニールの指示のもとで逃げ回っていた記憶しかない。


「はぁ……はぁ……もう。動けない……」

「はぁ、はぁ……もう私も無理~」


 星とエリエは汗だくになりながらその場に力無く座り込むと、空を見上げて弱音を吐いた。

 2人のそんな様子を見ていたエミルは腰に手を当てると、呆れた様子でため息をつく2人と違い、エミルは汗1つかかずに涼しい顔で立っている。


「はぁ~。星ちゃんはともかくエリーはもっとシャキッとしなさい! そんな事じゃデイビッドに嫌われるわよ?」

「うえ~、エミル姉厳しい。それに、こんなにたくさん肉集めてどうするのさ!?」


 エリエは自分達の後ろに山積みにされた肉の山を指差した。


 エミルはにこっと微笑むと「後で分かるわよ」っと言ってコマンドを操作し、アイテムバッグを取り出すと、その肉をその中へと移していく。


 アイテムバッグとは持ちきれなくなったアイテムなどを簡易的に入れるアイテムのことで、食材などの生産系のアイテムを大量に持ち運ぶ際に、所有アイテム内を圧迫しない為の道具の事である。だが、それほど珍しいものではない。普段からお菓子作りが趣味のエリエも回復アイテムを持たずに、このアイテムバッグと調理済みのお菓子でインベントリがパンパンになっている為だ――。


「それにどうしてエミル姉はそんなにごきげんなの? そのモチベーションの高さはちょっと変だよ?」

「ふふふっ。さっきメッセージが残っててね。今日の夜にイシェが来るのよ。だから食材をたくさん集めておかないとでしょ?」

「ほんとに!? わーい! なら今日はイシェルさんの手料理が食べられるの!?」


 エリエは両手を上げて喜んでいる。その様子を見ていた星は、ただただ理解できずに首を傾げていた。


 そんな星に気が付いたのかエミルが口を開く。


「ああ、星ちゃんはイシェを知らなかったわね。イシェルは私の現実での友達なのよ」

「……そうなんですか?」

「そう。イシェルさんは料理は凄く上手でね。きっと美味しい物を作ってくれるよ?」


 星はそれを聞いて少しほっとした顔を見せる。


 おそらく。星はエミルが料理を作らないという事実を聞いて安心したのか、胸に手を当て「ふぅ~」と息を吐いた。


「……なんだか星ちゃん嬉しそうね」


 その様子を見たエミルが耳元で不満そうな声を上げる。

 それを聞いた星はビクッと驚き身を強張らせると、慌てて両手を振って否定する。


 3人は街の入り口に戻ると、エミルの元にメッセージが届いた。


「――グッドタイミングね! デイビッドからよ。準備ができたからエリーを呼んできてほしいって」「場所は!?」「街の時計台の前で待ってるみたいよ?」

「分かった。すぐに行くって伝えておいて!」


 エリエはそう告げると、足早に時計台の方向へと歩き出した。

 何だかんだで、エリエもデイビッドのことを気にしているのだろう。それを見たエミルは微笑みを浮かべている。


「……あの時の……時計台……」


 だが、星は『時計台』という言葉を聞いて、表情を曇らせている。

 それもそのはずだ。星にとってあの時計台での出来事は、つい昨日のことのように思い起こせるほど鮮明に覚えていた。何故ならあの場所は、この悪夢のような現状を突き付けられた場所だったから……。


「もう、エリーったら。行きましょうか、星ちゃん」

「………」

「……星ちゃん?」


 エミルが星の手を引いて歩き出そうとすると、星は無言のまま場所に留まっている。


 すると、歩みを止めた星が徐にエミルの顔を見上げ、ぎこちなく微笑んだ。


「エミルさん。私、ちょっと疲れちゃったみたいで……先にお城の方に戻っていていいですか?」

「えっ? そうね。疲れちゃったわよね。ならデザートドラゴンを出しましょうか?」


 エミルは星の様子から何かを悟ったのか、星に向かって優しく微笑む。


 星はその申し出に、少し間を開けて口を開く。


「いえ、レイニールもいるので大丈夫です」


 星はエミルの手を放して背を向けると、ゆっくりと歩き出す。


 エミルはそんな星の後ろ姿を無言のまま見送ると、エリエの後を追いかけた。 

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