オンライン・メモリーズ

~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~
北条氏成
北条氏成

新しい学校生活3

公開日時: 2022年1月29日(土) 22:20
文字数:2,919

 教卓の横に2人で並ぶと、生徒達の視線は彼女達に集中する。


「それじゃ、黒板に名前を書いて自己紹介をお願いできますか?」

「「はい」」

 返事をしてそれぞれ黒板に自分の名前を書く。


 先に書き終わった白髪に青い瞳の女の子が振り返って自己紹介をする。


「僕は犬神つかさです。趣味は寝ること。特技はスポーツ全部! 休み時間に一緒にドッジボールとかして皆で仲良く遊べたら嬉しいです!」


 自己紹介を終えたつかさは笑顔で頭を下げると、生徒達から盛大な拍手が巻き起こる。

そして星の番がきて……。


「私の名前は伊勢星です。この学校には勉強しにきましたので、友達とかはいりません。だから、私に話しかけるのはやめて下さい」


 そう言って頭を下げる星に、教室内は静まり返って生徒達からも動揺が見られる。


 それにはさすがに若い男性教師も驚き目を丸くしていたが、すぐに我に返って口を開いた。


「学校に来る目的は人それぞれですから、伊勢さんの意見も別におかしい事ではありません。それに学生の本分は勉強ですからね。さすがは伊勢家の御令嬢です」


 その直後、一瞬教室内がざわめきそのざわめきが拍手へと変わった。


 若い男性教師もほっとした様子で息を漏らした。


「じゃー、犬神さんは前の席。伊勢さんは後ろの席にお願いします。お二人が席に着いたら授業を始めましょう」


 それぞれ少し離れた席に座ると、鞄の中から教科書を取り出して机に広げる。それを確認して若い男性教師が「それじゃー授業を始めます」の掛け声と共に教室の後ろのドアから3人の別の教師達が入ってくる。


 後から入ってきた教師達は授業の間、手を上げた生徒の勉強を見ている。

 授業が終わると、すぐに教科書をカバンにしまって教室を出た。つかさが何か言いたげだったが、友達をいらない宣言した星の代わりに、つかさの周りには多くの生徒達が集まっていた。


 教室から出た星は図書室に向かって歩き出した。図書室は4階にあり、3階が教室になっている星は階段を上ればすぐだ。


 上の階に着いた星は図書室の文字を見つけて中に入った。図書室の中は大きな学園からしたら小さいと感じるが、他の学校の図書室と同じくらいの大きさはある。


 そして、多くの特別教室がある為、図書室を学園内に作るならこれが限界と言える大きさなのだろう。

 だが、これは学園内に作るならということで――もちろん。学園の敷地内に別の図書館が併設されている。そちらの方は5階建てで様々な専門書など置かれている。しかも、参考書などは毎年入れ替えられ、古いものは10年周期で廃棄されるほどだ。


 星が図書室に入ると、2人の監視している教師とその教師達が座っているカウンターの前には6台のタッチ式の機械が置かれていた。

 テーブルの数はさほど多くないところを見ると、この場で本を読むというよりは借りて読むのがメインらしい……。


 教室に入った星はたくさんの本が置かれた本棚を見て、堅くなっていた表情を和らげる。

 テーブルの先にある本棚の方へと吸い込まれるように歩いて行く。本棚に置かれている本を手に取ってホッとした息を吐いた。


「はぁ~、慣れないことはするものじゃないなぁ……」


 星は少し悲しそうな顔をしながら手に取った本の角を撫でてそう呟く。


 人に好かれようと振る舞ってきた星にとって、人に嫌われるように振る舞うのは相当難しいことなのだ。


 新しい環境に、自分が今まで体験したことのない他人の対応――担任の教師だけでも前の学校ではあからさまに無視され続けてきた。それがいまじゃ、自分を持ち上げようとしている……その様子は媚びへつらっているようにまで感じる。いや、現に媚びへつらっているのだ。それも、自分ではなく自分の新しい名前に…………。


 それは無視されていた頃と同じで、自分という存在を否定されているようにまで感じるほど。


(……結局。どこに行っても私が変わる事はできない。だから、壊してしまうくらいなら何もないままでいい。また学校に通える……こんな私を家族にしてくれたお姉様やお父様の為に、勉強して立派な人になるんだ。そしたらきっと、いつか私を認めてくれるから……)


 心の中でそう呟いた星は本を持って空いている椅子を探してそこに腰掛けて本を広げる。

 本を読むことに夢中になっていた星はチャイムが鳴って我に返ると、本を本棚に戻して教室へ戻った。


 先生の言葉をしっかり聞いて教科書を読んで、黒板に書かれた文字をノートに書き写していると、すぐに休み時間になる。授業の終わりを告げるチャイムと共に教科書を閉じると再び図書室へ向かう。その繰り返しをしていると、いつの間にかお昼になっていた……。


 普通の小学生なら給食の時間を心待ちにしているのだが、星には喜ばしいことではない。何故なら、給食の時間だけは他の生徒と対面して食べなければならないからだ。


 配膳係などはなく、手の空いている教師達が給食の入った箱を持ってくると、前の席から順番に給食を取っていく。

 普通の学校の給食と違うのは、1人分がお弁当の様に分けられているのと、近くの生徒同士で席をくっつけたりせずに前を見たままで食事をすることだ。


 全員が給食を机に置いたのを確認して「いただきます」を言うと、私語をせずに黙々と食事をしている。

 食べ終えると、各自で「ごちそうさま」を言って、給食が入っていた容器を箱の中に戻して昼休みに入っている。校庭に遊びに行く者もいれば、友達が食べ終わるのを待つ者もいる。

 星も食事を終えると食べ終えた容器を箱に戻してまた図書室に向かう。せっかく長い昼休みの間に星は少し遠くにある図書館に行こうとしていた。

 学園の敷地内は想像以上に広く移動用に小型のカートがあるくらいだ。専属の運転手が行きたいところまで運転してくれる。


 星もそのカートを利用して図書館まで行くと、カートから降りて運転手のおじさんにお礼を言って降りた。


 昼休みに図書館を利用する人も多いのか、星と同じ制服を着た初等部の生徒と中等部、高等部の生徒も多く利用している。


 大きな図書館を見上げて呆気にとられている星の横を次々に通り過ぎていく。


 星も図書館には行ったことがあるが、これほど大きな図書館は見たことがない……。

 だが、休み時間のうちに校舎に戻らなければならず時間も限られている。図書館に入ると、1階には喫茶店やレンタルビデオショップなども入っている。


 館内の案内図を見る限り、2階からは本と勉強スペースや休憩用のソファーなどが置かれているようだ――。


 とりあえず。星の好きなファンタジー系の本がたくさん置いてあるであろう児童書のコーナーがある3階に向かった。

 エレベーターで3階に上ると、真っ直ぐ児童書が置かれている本棚の前まできて、その多さに瞳を輝かせる。


 通路を挟んで天井まで積まれた本に星も少し興奮した様子で物色し始めた。

 夢中で興味がある本を片っ端から開いては戻してを繰り返していると、昼休みの終わりが近付いてきていた。戻る時間を考えると、時間もギリギリで気になっていた本を借りる時間はなさそうだ。


 放課後にまた来ることを心に誓って星は校舎へと戻るため敷地内を走るカートに乗って校舎へ戻った。それから放課後になるのを心待ちにしながら授業を受けていた……。

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