ぬいぐるみと行く異世界ほのぼの旅行

~かわいい仲間たちに魂が宿った件~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1話 異世界転移と、まるたん

公開日時: 2021年2月22日(月) 02:46
文字数:2,041

「ここはどこ……?」


 ふと気がつくと、私は見知らぬ場所に立っていた。

草原だ。

さわやかな風が吹いている。


 誘拐?

記憶喪失?

夢?

わからない。


「まずは落ち着こう。私の名前はチセ。15歳。日本で生まれ育って……」


 自分の情報を整理していく。

その際に、嫌なことまで思い出してしまった。

私の家族のことだ。


 私の家族は、お父さん、お母さん、それにお兄ちゃんの4人家族だ。

いや、正確に言えば、4人家族”だった”。

数年前のあの事故で、みんないなくなってしまった。


「ここがどこだかわからないけど、なるようになるしかないか」


 お父さん、お母さん、お兄ちゃん。

家族がいなくなってから、私の世界は灰色になっていた。

もうあの世界には、何の未練もない。


 ……。

いや、1つだけ未練があった。

家族がいなくなった私を、支えてくれた存在。

家族に続いて、彼らとも引き離されるなんて。


「そんなの嫌っ!」


 なんとか帰る方法を探さないと。

まずは状況を把握しよう。


 辺りを歩き回り、周囲の様子をうかがう。

見渡す限りの草原だ。

遠くに人里らしき場所がある。

まずはあそこに行ってみるしかないか。


 私は歩き始める。

後になって思い返すと、このときの私には警戒心が足りなかったかもしれない。


「ぐるるぅ……!」


 1匹のオオカミが現れた。

うなり声をあげている。


「ひっ!」


 怖い。

うかつだった。

こんなところに獰猛な野生動物がいるなんて。


 丸腰の私が、オオカミに勝てるわけがない。

私の脚力では、逃げ切ることも難しいだろう。


「ぐるるぅ……!」


 オオカミがうなり声をあげて、ジリジリと距離を詰めてきている。

だれか助けて。

だれか。


「お父さん、お母さん、お兄ちゃん!」


 私はそう叫ぶが、助けは来ない。

当たり前だ。

もうみんなはどこにもいない。

この地球のどこにもいない。


「助けて! まるたん!」


 ポンッ。

まるいぬいぐるみが私の前に現れた。

大きさは30センチくらい。


 見覚えのあるぬいぐるみだ。

彼は、まるたんだ。


 私の大切な家族。

私が幼いころに、両親に買ってもらった。

ずっと大切にしてきた。


 お父さん、お母さん、お兄ちゃんが事故で亡くなってからは、常にいっしょにいた。

いっしょに寝たり、いっしょにテレビを見たり、いっしょにご飯を食べたり。

ときにはお風呂に入ったりもした。


「チセちゃん。げんきだったのだ?」


 まるたんが、しゃべった。

シャベッタアアアアアア!


「え? え、ええ?」


 私は驚きのあまり、まともな反応を返せない。


「おっと。まずはこのオオカミさんをおとなしくさせるのだ」


 まるたんがそう言って、まるで生きているかのように動き出した。

そのままウルフへ突っ込んでいく。


「まるっ! まるるーっ!」


 まるたんがパンチでオオカミを攻撃する。

オオカミは怯み、逃げ去っていった。


「つ、強い……」


 私は目の前の信じがたい光景を受け入れることにする。

まるたんに生命が宿り、私をオオカミから守ってくれたのだ。


 私のかわいい家族。

お父さん、お母さん、お兄ちゃんが亡くなってから私の心を慰めてくれた癒しの存在。


「これで一安心なのだ。チセちゃん、ケガはないのだ?」


「ないよ。だいじょうぶ。ありがとう、まるたん」


 私はまるたんにそう答える。


「……って、普通に会話しちゃってるよ。そりゃ、小さい頃はままごと遊びしたこともあるけどさ」


「僕も詳しいことはわからないけど、ここは前の世界とは違う世界みたいなのだ。魔法が実在するのだ」


「そうなんだ。魔法かー。魔法で、まるたんは動いているんだ?」


 いわゆる異世界か。

にわかには信じがたいが、まるたんが言うのであればそうなのだろう。

こうしてまるたんが動いている以上、説得力もある。


「たぶんそうなのだ。でも、前の世界の記憶もちゃんとあるのだ。チセちゃんと遊んだ思い出も残っているのだ」


「そっか。覚えてくれていてうれしいな」


 私たちの大切な思い出も、失われずに残っているようだ。

私とまるたんの思い出。

それに、お父さん、お母さん、お兄ちゃんとの思い出。

これだけは、色あせない私の宝物だ。


「まずは、この世界でも生きていく方法を考えないといけないのだ」


「そうだね。まずは人里を探そうかな。ほら、あそこに人里みたいなところがあるよ」


「それでいいと思うのだ。それに、この世界にはなんだか懐かしい気配が漂っているのだ。もしかしたら、彼らもこの世界に来ているのかもしれないのだ」


「彼ら?」


「……いや、なんでもないのだ。ぬか喜びさせたら悪いのだ。気にしないでなのだ」


「……? うん、わかったよ」


 よくわからないが、まるたんが気にしないでと言うのであれば、そうしよう。


「さあ、行くのだ。チセちゃんは僕が守るから、安心していいのだ」


「頼りにしてるよ。まるたん」


 私はまるたんとともに、道を歩き出す。

はたして私たちは、この世界を生き抜くことができるのか。

私たちの異世界ライフはまだまだ始まったばかりだ!


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まるたん

たいりょくS

こうげきB

ぼうぎょB

まほうこうげきC

まほうぼうぎょC

すばやさA

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