洗車したてのNAロードスターが、朝風の残る常磐自動車道を110km/hで突っ切る。
天候は雲ひとつない晴れ……と表現すれば嘘になるが、それでも見事な青空が細切れの雲をまといながらも端々まで広がっている。ロードスターのソフトトップは開放状態。孝介と真夜に、優しい日光が降り注ぐ。
「あぁ……今日は素晴らしい日ね。いつもこのくらいの日和であればいいんだけれど」
「おまけに今は平日だからな。道も空いてらぁな」
2人の機嫌も、青空と同等にどこまでも晴れ渡っている。
今日目指すのは茨城県笠間市にある愛宕山。ここは即ち岩間山である。寅吉が天狗修行をした場所だ。いや、真夜の仮説ではこの愛宕山に別の異世界への「橋」がある。寅吉は「橋」を渡って異世界転移した可能性が高い、というわけだ。
このあたり、徹底的に調査しなければならない。
が、それはそれとして真夜には気になることがひとつある。常磐道の風になびいている自身の頭髪だ。
「……ねぇ、コウ」
「ん?」
「よく考えたら、私もう3ヶ月も美容院行ってないわ。髪、結構伸びてる」
「予約取って土日にでも行きゃいいさね」
「コウは長い髪のほうが好き?」
「……突然どうした?」
「私ね、この際だから思いっ切り切ろうかとも考えてるの。肩のあたりまでか、それ以上に短く」
真夜の髪型は10代の頃からずっと通しているものだ。背中の中央まで届く長髪。若い頃はこれを自慢することもあった。が、それを改めようかと衝動的に考えてしまった。
髪型さえ変えれば、あの勇者のパーティーに狙われることはないかもしれない……とも思案している。ミアは「例のパーティーが異世界でヒルダを探している」と言ったが、ならば多少でも容姿を変えれば、向こうは私に気づかないのではないか?
もちろん、実際はいくら髪型を変えたところでキシロヌ王国が送り込んだパーティーは真夜の現在位置を特定できるだろう。なぜなら、真夜は魔操師故に魔力を持っているから。魔操師が魔操師を探す時、手がかりになるのは相手の魔力だ。
だから真夜は、日本の警察に頭が上がらない。もしもキシロヌ王国の刺客に襲撃されたら、スマホで110番を呼び出してしまおうと決めている。真夜の目から見ても、日本の治安維持能力は絶賛すべきレベルだ。孝介とこうして旅ができるのも、良好な治安状況の賜物である。
「……髪の毛が長いと、やっぱりいろいろと不便なのかもしれないわ」
「なら、一度バッサリやってみるのもいいんじゃねぇか」
「コウはどっちが好き? 長い髪か、短い髪か」
「そんなのは、お前ぇ――」
孝介は唇を吊り上げる笑顔を見せ、
「どんな頭にしたところで真夜は真夜だからな、好きにすりゃいいさね」
と、返した。
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