孝介が帰ってこない。夜11時を回っても、一向に戻ってくる様子がない。電話をしてもまったく出てこない。
痺れを切らした真夜は、ショートガードル1枚だけの姿になってふて寝することにした。コウのことなんか、もう知らない!
寝室の照明を消し、ダブルベッドに潜り込む。そのまま真夜は目を閉じ、夢の世界へ無理やり移動しようと試みた。
ところがその最中に、玄関のドアの開閉音が鳴り響く。ようやく孝介が帰ってきたようだ。が、出迎えになど行ってやらない。あの男は私を怒らせたのだ。当分は口を聞いてやるものか!
「真夜、もう寝ちまったのか?」
孝介は寝室にそう話しかけたが、真夜はもちろん返答しない。もう勝手にしなさい! 私はコウのことなんて知らないんだから!
「真夜、お前ぇ具合でも悪いのか?」
「……」
「……ああ、そうかいそうかい」
孝介は「寂しがり屋のスケめ!」と悪態をつき、寝室を離れた。
しばらくして洗面所のドアの開閉音が響く。孝介が入浴を始めたようだ。シャワーの音が、真夜のふて寝を容赦なく妨害する。ああもう、うるさい!
そこから数分程度で、再び孝介が寝室に舞い戻った。
「いよっこいしょっと」
裸体の孝介は、いつも通り真夜の右隣に就く。しかし当の真夜は、孝介に背を向けてしまっている。これは間違いなく拗ねている仕草だ。本来の真夜は、必ず右を向いて就寝する。左向きの孝介と合いになる形で夢を見ることができるのだが、今夜に限っては「絶対にコウを許さない!」という決意がある。
が、そんな真夜の心情などまるで理解していない様子で、
「……今日は友達に会ってきたのさ」
孝介はそうつぶやき、真夜の枕の下に左腕を差し込む。
「その友達ってなぁ、もう10年以上会ってなかったんだがな……。まあ、ちょっとした気紛れで会いたくなっちまってな。伝手を頼って奴さんに会う場を設けたってわけさね」
と、孝介は右腕を真夜の胴体に回した。しかし真夜は返事をしない。心の中では「だから何よ!」と憤慨している。
「楽しかったぜ、割とな。昔のこともいろいろと思い出した。俺の若い頃はどうしようもねぇ出来事のほうが多かったが、それでも楽しい思い出だってあらぁな」
孝介は真夜の下腹部を右手で撫で、
「まあでも、やっぱり今のほうが充実してるかもな。時計の針はどうあがいても戻らねぇってことも分かっちまった。……というわけだ、真夜。明後日出かけるぞ。お前が行きたがってる岩間山だ」
そう告げた。ここで真夜はようやく口を開く。
「明後日?」
「ああ、明後日だ。都合悪いか?」
「そうじゃないけれど、コウはいいのかしらって」
「ん?」
「その日は相撲クラブで教えに行くんじゃなかった?」
「月に1日くらい穴開けたってバチは当たらねぇや。コーチは俺ひとりじゃねぇんだしよ」
「そう」
真夜は孝介の右手を取り、それを自らの股間に移動させた。
太い指が、ショートガードルのクロッチ部分の縫い目をつつく。その度に真夜は細かい吐息を上げる。やがて孝介の左手が、真夜の乳房に差しかかった。
上下の刺激に弄ばれる真夜。しばらくは耐えていたが、それも割と短時間のうちに限界を迎えた。
結局、真夜は右向きで寝ることになる。
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