【13万字完結】結婚相手は魔王の尖兵! 異世界の凶悪敵女魔操師、偵察という名目で旦那さんと日本国内旅行&食い道楽

異世界と日本を行ったり来たりしながら、調査旅行で伝説の魔物を発見せよ!
ジャワカレー澤田
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54 天狗の住処へ

公開日時: 2022年7月9日(土) 20:00
文字数:971

 茨城県笠間市に所在する愛宕神社。その名の通り愛宕山に鎮座し、火防即ち「火災除けの神社」としても知られている。


 だがそれ以上に、ここ愛宕神社は「十三天狗」の住処として有名だ。


 松島夫妻にとって幸いなことに、愛宕神社前には駐車場が設けられている。ここは山の上だが、徒歩で斜面を登る必要がないということだ。


「ここが天狗の住む神社ね?」


「ああ、寅吉が天狗修行をした場所だ。上野のあの神社からここまで、天狗の背に乗って毎日往復してたってぇところさ」


「ついに来たわね――」


 真夜は覚悟を決めるように深く溜め息をついた。若干緊張している。何しろここには、まだ見ぬ異世界へつながる「橋」があるのかもしれないのだから。


 *****


 決して大きくはないがどっしりとした印象の木造の社殿。その中を窺うと、大きな赤い天狗の面が飾られているのが確認できた。


 太く長い鼻を持った日本の魔物、天狗。


 知能は極めて高く、人間をも凌駕するほど。しかも高速で空を駆ける飛行能力を持ち、様々な魔術を使いこなし、他の魔物を操ることもできる。天狗という魔物は恐ろしくオールマイティな性質で、敵に回せば極めて厄介だ。ここは戦うよりも、何かしらの方法で籠絡して味方につけたほうがいいのではないか。真夜は天狗の面を見上げながら、そのようなことを思案した。


 すると、


「真夜、こっちに来いよ」


 賽銭箱の前に立つ孝介が、真夜に呼びかけた。


「何?」


「神様に俺たちがここに来たことを報告するぞ。お前も手を合わせろ」


 そう言われた真夜は、


「神様? ここにいるのは魔物じゃないの?」


「バカヤロ! ここには神様がいるんだよ。……いや、天狗も神様も変わりねぇや」


「どういうこと?」


「とにかくこっちに来い!」


 孝介はまるで引っ張るように、真夜を自身の傍らに移動させた。


 小さな財布から1,000円札を抜き、賽銭箱に押し入れる。孝介の大きな両手は、2度大きな柏手を打った。目をつむり、軽く俯いて立ったまま瞑想を始める。真夜も渋々とそれに倣った。


「……どうしてこんなことしなきゃならないの?」


 真夜の不満げな言葉に、


「自然を尊ぶためだ」


 孝介は目を閉じたまま、そう返した。


「日本人は基本的に自然信仰だ。山の自然がなけりゃ、俺たちは生きていられない」


「そうなの?」


「周りをよく見てみな」


 そう言われた真夜は、目を開けて自身の周囲の光景に視線を移した。

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