【13万字完結】結婚相手は魔王の尖兵! 異世界の凶悪敵女魔操師、偵察という名目で旦那さんと日本国内旅行&食い道楽

異世界と日本を行ったり来たりしながら、調査旅行で伝説の魔物を発見せよ!
ジャワカレー澤田
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65 コウの馬鹿

公開日時: 2022年7月16日(土) 12:00
更新日時: 2022年7月30日(土) 11:45
文字数:1,217

 孝介が帰宅したのは午後9時47分。約束の時刻よりも13分早い。


 これであいつは文句も言わねぇだろ、と孝介は思案した。が、玄関のドアを開けて「おう、約束通り帰ってきてやったぞ!」と呼びかけても、真夜の返事がない。それ以前に、部屋の照明が全てOFFになっている。


「真夜……?」


 孝介は室内をくまなく探す。が、真夜はどこにもいない。リビングにも、台所にも、バスルームにも、孝介の仕事部屋にも、真夜の絵描き部屋にも、寝室にも。


 そういやあいつ、俺が出かける前に「服を買いに行く」とか何とか言って家を出たよな? まだどの服を買うのか、試着室で悩んでるのか? そんなわけあるか!


 そう考えながら孝介は、リビングのソファーの上で30分待った。が、真夜が帰ってくる様子はない。


 スマホのメッセンジャーアプリを見てみる。「真夜」の部分をタップしてみるが、新しいメッセージは入っていないようだった。


 それを確認した孝介は、彼女と通話することにした。


 *****


 長い呼び出し音の末、ようやく真夜が通話ボタンを押したようだ。


 が、「もしもし真夜、今どこにいるんだ?」と孝介が呼びかけても、真夜は無言を貫く。一体どうしたことだ? 孝介はしぶとく、


「真夜、お前今どこほっつき歩いてるんだ?」


 と、呼びかける。


 やがて真夜は、


「……弘子という人は、私よりもいい女なのかしら?」


 そう話した。途端、孝介の心拍数が跳ね上がる。「弘子」という人名が出てきたからだ。


 さらに、


「昔一緒に暮らした女のことは、いつまでも忘れられないのね。……他の女と結婚しても、結局は若い頃愛した女のほうがいいんでしょう?」


 真夜は容赦なく言葉をぶつける。


 どうしてだ。どうしてこいつが、弘子のことを知ってるんだ!?


「……ネットで調べたのか?」


 孝介は咄嗟にそう問いかけたが、


「いいえ、品山さんに相談したの。全部教えてくれたわ。コウが違法賭博を告発したことも、それがなければ他の女と結婚する予定だったということも」


 真夜は徐々に涙声になりながら、


「どうしてそのことを私に隠していたの? それを言ったら私が勘違いを起こすと思ったから?」


 そう問い詰め始めた。


「コウは私を、そこまで浅はかな女だと思ってるの? ……それとも、弘子のことをまだ愛してるから? そうなんでしょう?」


「……そうじゃねぇよ」


「だったら、せめてコウの口から聞かせてほしかった!」


 真夜は孝介を殴るように言い放ち、


「コウの馬鹿……!」


 と、通話を切ってしまった。


 *****


 孝介からのテキストメッセージが相次いでいる。


「お前、今どこにいるんだ?」


「もう一度電話しよう」


「返事くれ」


「話がしたい」


「家に帰ってこい」


 しかし真夜は、その全てを無視している。既読すらつけていない。


 俯きながら涙を拭う真夜の横から、


「ま、あのダメ男にはこれくらいのお灸が必要だから」


 と、声をかけたのは工藤光だ。そして真夜とテーブルを挟んだ正面に、品山親方が座っている。


 ここは都内江東区に所在する品山部屋だ。

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