【13万字完結】結婚相手は魔王の尖兵! 異世界の凶悪敵女魔操師、偵察という名目で旦那さんと日本国内旅行&食い道楽

異世界と日本を行ったり来たりしながら、調査旅行で伝説の魔物を発見せよ!
ジャワカレー澤田
ジャワカレー澤田

「橋」の管理人

34 次は私が狙われる……?

公開日時: 2022年7月4日(月) 18:00
文字数:1,208

 ヒルダは絶句した。


 自分より5歳下の闇の魔操師ミアから、リディアの消滅を聞かされたからだ。


「……嘘、でしょ?」


 何秒もかけてようやく絞り出した言葉が、それだ。


「嘘じゃないわ、ヒルダ。リディアが例のキシロヌ王国の勇者のパーティーにやられたの」


 ミアの返答に、ヒルダは圧し潰されそうになる。


 あのリディアが――恐るべき威力の雷を自由自在に操るリディアが、消滅した……?


「消滅」とは、当然ながら「死」を指す。だが通常の死とは違い、消滅は髪の毛1本すら残さない。今まで異世界で調査任務に就いていたヒルダは、今からリディアの亡骸を見ることすらできないのだ。


 それじゃあ、あの時のリディアの声は……。


「ヒルダも覚悟したほうがいいわよ」


 ふと、ミアはそう話した。


「キシロヌ王国は逆襲に動き出したわ。こちらが占領した土地も少しずつ取り返されてるし、異世界の勇者もいきなり強くなってるし。……もしかしたら、次は私かヒルダが標的かも」


「私たちが……?」


「私もヒルダもリディアも、異世界への“橋”を研究してる魔術師だから。光の地の王たちは、私たちの研究を何が何でも阻止する気よ。特にヒルダ、あなたは実際に異世界へ行ける“橋”を持ってるから、狙われる可能性は高いと思って間違いないわ。光の地の連中は、“橋”を自分たちだけのものにする気らしいから――」


「ちょっと待って」


 ヒルダはミアの言葉を遮り、


「それはつまり、光の地の魔術師も“橋”の研究をしているということ?」


 と、質問した。


「研究……どころじゃないわ。この機会にヒルダの耳にも入れておくけれど、キシロヌ王国所属のパーティーの中に“橋”を作れる者がいるの」


「えっ!?」


「それも、何人かが一緒に渡れるほどの大きさの“橋”をね。……ヒルダ、あなたには悪いけれど“橋”を作る技術は向こうのほうが上よ」


 ヒルダはもはや、自分の耳を信用できなくなった。


 異世界の人間がこの世界へ転生もしくは転移することは、一種の自然現象として稀にある。が、2つの世界を自由に行き来できるのは、一族に伝わる「橋作り」の魔術を受け継いだヒルダしかいない。そして彼女の魔術は、あくまでも自分ひとりが渡れる程度の「橋」を作るものである。


 複数人が渡れる「橋」は、研究こそされているがまだ具現化していないはずだ。それを作り出せる者が、キシロヌ王国所属のパーティーに混ざっている……?


 そんなバカな!


「その大きな“橋”を作り出せる魔操師は、一体誰なの?」


「ヒルダも戦ったことあるはずよ。ヒューっていう、あの氷属性と炎属性の魔操師」


「あいつが……!」


 ヒルダは眉間に皺を寄せ、


「あの小生意気な魔操師か……!」


 怒りに震える声でそう言い放った。


 が、この怒りはヒルダ自身の恐怖も多分に混じっている。


 次は私かもしれない。もしかしたら私も、リディアのように消滅してしまうかもしれない。そうなったら、二度とコウとは……。


 ヒルダは左手薬指の指輪を、右手で軽く撫でた。

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