ヒルダは絶句した。
自分より5歳下の闇の魔操師ミアから、リディアの消滅を聞かされたからだ。
「……嘘、でしょ?」
何秒もかけてようやく絞り出した言葉が、それだ。
「嘘じゃないわ、ヒルダ。リディアが例のキシロヌ王国の勇者のパーティーにやられたの」
ミアの返答に、ヒルダは圧し潰されそうになる。
あのリディアが――恐るべき威力の雷を自由自在に操るリディアが、消滅した……?
「消滅」とは、当然ながら「死」を指す。だが通常の死とは違い、消滅は髪の毛1本すら残さない。今まで異世界で調査任務に就いていたヒルダは、今からリディアの亡骸を見ることすらできないのだ。
それじゃあ、あの時のリディアの声は……。
「ヒルダも覚悟したほうがいいわよ」
ふと、ミアはそう話した。
「キシロヌ王国は逆襲に動き出したわ。こちらが占領した土地も少しずつ取り返されてるし、異世界の勇者もいきなり強くなってるし。……もしかしたら、次は私かヒルダが標的かも」
「私たちが……?」
「私もヒルダもリディアも、異世界への“橋”を研究してる魔術師だから。光の地の王たちは、私たちの研究を何が何でも阻止する気よ。特にヒルダ、あなたは実際に異世界へ行ける“橋”を持ってるから、狙われる可能性は高いと思って間違いないわ。光の地の連中は、“橋”を自分たちだけのものにする気らしいから――」
「ちょっと待って」
ヒルダはミアの言葉を遮り、
「それはつまり、光の地の魔術師も“橋”の研究をしているということ?」
と、質問した。
「研究……どころじゃないわ。この機会にヒルダの耳にも入れておくけれど、キシロヌ王国所属のパーティーの中に“橋”を作れる者がいるの」
「えっ!?」
「それも、何人かが一緒に渡れるほどの大きさの“橋”をね。……ヒルダ、あなたには悪いけれど“橋”を作る技術は向こうのほうが上よ」
ヒルダはもはや、自分の耳を信用できなくなった。
異世界の人間がこの世界へ転生もしくは転移することは、一種の自然現象として稀にある。が、2つの世界を自由に行き来できるのは、一族に伝わる「橋作り」の魔術を受け継いだヒルダしかいない。そして彼女の魔術は、あくまでも自分ひとりが渡れる程度の「橋」を作るものである。
複数人が渡れる「橋」は、研究こそされているがまだ具現化していないはずだ。それを作り出せる者が、キシロヌ王国所属のパーティーに混ざっている……?
そんなバカな!
「その大きな“橋”を作り出せる魔操師は、一体誰なの?」
「ヒルダも戦ったことあるはずよ。ヒューっていう、あの氷属性と炎属性の魔操師」
「あいつが……!」
ヒルダは眉間に皺を寄せ、
「あの小生意気な魔操師か……!」
怒りに震える声でそう言い放った。
が、この怒りはヒルダ自身の恐怖も多分に混じっている。
次は私かもしれない。もしかしたら私も、リディアのように消滅してしまうかもしれない。そうなったら、二度とコウとは……。
ヒルダは左手薬指の指輪を、右手で軽く撫でた。
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