【13万字完結】結婚相手は魔王の尖兵! 異世界の凶悪敵女魔操師、偵察という名目で旦那さんと日本国内旅行&食い道楽

異世界と日本を行ったり来たりしながら、調査旅行で伝説の魔物を発見せよ!
ジャワカレー澤田
ジャワカレー澤田

29 リディアの声が聞こえる

公開日時: 2022年7月3日(日) 17:00
文字数:1,043

 マリナーブルーがよく映える孝介のNAロードスターは、いつも通り東名高速を快走する。


 例によって足柄SAでソフトクリーム休憩を取ったあと、ロードスターは御殿場JCTから新東名高速へ入った。真夜は少し驚いた。孝介が新東名高速を選ぶことは、滅多にないからだ。


「この道はからっ風が強くて、あまり好きじゃねぇんだがな……」


 そうぼやきながら、孝介はソフトトップを開放した状態のロードスターを130km/hで走らせる。


 確かに北風が強い。真夜の長い黒髪が、南側つまり助手席側のドアの外になびいてしまう。その度に真夜は髪を両手で押さえ、どうにかひとつにまとめようとする。それを何度か繰り返したあと、真夜は孝介の気持ちを僅かながら察することができた。


 これなら海側の道路をゆっくり走ったほうが楽しいかも。


 なら、どうして今日の孝介は新東名高速を選んだのか?


「史料の閲覧を電話予約したからよ。急がねぇと!」


 孝介は強風の中でそう告げた。


 史料? 閲覧? 電話予約? それはどういうこと? 河童を見に行くんじゃないの?


 真夜は孝介にいろいろ質問しようとしたが、からっ風がそれを妨げてしまう。まったく、どうしてこの男はこんな時に屋根を折り畳むのよ!


 そんな妻を横目に、夫はアクセルをより強く踏み込んだ。


 東名高速の120km/h区間を、ロードスターは140km/h超でかっ飛ばす。髪の毛を両手で押さえていた真夜は、やがて諦めて風の思うままにさせた。せめてゴムかシュシュでもあればいいのだが、こういう時に限って持っていない。


 真夜は己の髪の毛が目に入らないよう、まぶたを閉じた。


 その時、


「ヒルダ……ヒルダ!」


 真夜……いや、ヒルダを呼ぶ声が聞こえた。


 これはもちろん、間近にいる人間が話しかけてきたものではない。脳内に直接伝道する声だ。そしてこの声の主は、闇の魔操師リディアであることはすぐに分かった。


 ヒルダは目を閉じたまま、


「リディア? リディアなの? どこにいるの?」


 と、返答した。口は一切動かさない。胸の中でそう念じるのだ。


「ヒルダ、助けて! 何も見えない……何も…… 怖い……!」


「ちょっと、どうしたの!? リディア? リディア!」


 リディアの窮地を察したヒルダは、


「落ち着いて、リディア。戦闘の最中なんでしょう? 誰と戦ってるの?」


 そう質問するが、リディアの声は途絶えてしまった。


「リディア? 答えて、リディア! どうしたの、ねぇ!?」


 ヒルダは何度も何度もそう問いかけたが、リディアが声を発することは二度となかった。


 一体どういうこと?


 何が起こっているの?

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