孝介は真夜の異変を察知したようで、ロードスターを清水PAに停めた。
駐車スペースにエンジンを止めた直後、
「すまん、真夜。屋根はくっ付けておくべきだったな」
と、孝介はやや慌てながらソフトトップを広げた。
真夜は「ううん」と首を横に振りつつ、ジャケットの内ポケットからスマホを取り出す。それを握り締めながら、
「故郷の友達が大変なことになってるの」
そう告げた。
もちろん、その「友達」がスマホに連絡をよこしてきたかのような仕草はハッタリだ。自分の本当の出自は、魔王軍の侵攻が始まるまで孝介に伝えるつもりはない。だからこそ、リディアとは遠隔疎通魔術ではなくこの世界の通信手段であるスマホのメッセンジャーアプリでやり取りしているように見せている。
しかし、そのリディアが窮状を訴えているということは事実である。
「状況はよく分からないけれど……かなり深刻というか、切羽詰まってるみたいで。だからといって、私がすぐに行くわけにもいかないから……」
「お前のダチってなぁ、犯罪にでも巻き込まれたのか?」
「そんなところね」
真夜は大きく溜め息をつき、
「楽なことじゃないわ。遠くの世界にいながら、故郷の仲間とやり取りをするというのは――」
と、言葉を漏らした。それに対して孝介は、
「気持ちはよく分かるぜ」
そう頷いた。
「俺も相撲取り辞めたあとに4年ほどアメリカに行ってたんだ。ちょっとした理由で、ちょっとした縁があってな……。その間にも日本のダチとも連絡取ってたんだが、向こうに何かあった時にすぐ駆けつけてやるってことができねぇ。それは確かに辛いことだな……」
「コウはそういう時、どうするの?」
真夜にそう質問された孝介は、
「“どうする”の問題ですらねぇさ。こっちから手を出せないんだからよ。だから、ダチを信じてやるしかねぇのさ」
「友達を信じる……?」
「俺のダチなんだから、大抵のこたぁテメェだけで乗り越えられるだろと考えるんだ。それだけの能力のない奴は、最初から俺のダチにはなってない。そういう方向性で思案すれば、まあ少しは気が楽になる」
そう言われた真夜は、闇の地にいるはずのリディアを思い返した。
闇の魔操師に相応しい肢体を魔操服に包み、両手から雷魔術を繰り出すリディアの雄姿。その火力は他の追随を許さないほどで、真夜……いや、ヒルダですらも敵わないほどだ。そんなリディアが、まさか光の地の勇者にやられるなんて――。
コウの言う通りかもしれない。ここはリディアを信じてあげよう。
そして、彼女のために一刻も早く日本の魔物の生態を調査し、闇の地に連れていこう。憎き光の地の勇者を打倒するために!
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