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ジャワカレー澤田
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35 今日は控えめに150kg

公開日時: 2022年7月4日(月) 21:00
文字数:1,096

 孝介は知り合いの女子プロレスラー、マックス流子とフィットネスクラブに来ていた。


 この2人は月に1度か2度、共にウェイトトレーニングをする「筋トレ仲間」である。


 孝介はベンチプレス台でバーベルを調整している。バーが20kg、プレートが130kg。今日はとりあえず合計150kgでやってみることにした。


「おいおい関取、あんた仮にも前頭まで行ったんだろ? 随分控え目だな」


「はっ! 引退してから何年経ってると思ってんだ」


 そう言い合いながら、孝介はベンチプレス台に仰向けになる。


 バーに両手をかけて大きく溜め息をつき、もう一度息を吸う。バーを握ってそれを持ち上げながら、息を吐く。そのあとは呼吸のリズムに従ってバーベルの上下運動を1往復、そして「はっ!」と気合を入れてもう1往復。


 計2回のリフトアップで、孝介はバーベルを置いた。


「やっぱり衰えたな、関取」


「うっせぇや! その代わり柔軟性は若い頃とあまり変わってねぇぜ」


「私にもやらせろ」


 流子は孝介をベンチプレス台からどかせ、彼の代わりに横たわる。


「ちょっと待ってろ。30kgばっか減らしてやるからよ」


「バカか! 余計なことするな。関取はそこで見てろ」


「無理すんじゃねぇぞ、マックス。あんた確か47歳だろ? 俺より5つ上の姉さんが、俺と同じ重さってのは……」


「いいから黙ってろ!」


 流子は肺を精一杯広げて息を吸い、


「たあっ!」


 と、150kgのバーベルを一気に持ち上げた。


 これだけならまだ問題ないかもしれないが、肝心なのはこのあとだ。流子はバーベルをゆっくり下ろし、胸につく位置まで持っていく。


「上げられるか、マックス?」


 孝介は流子の頭の位置に立ち、限界を迎えた場合に備えていつでも補助に入れるようにしている。が、流子はそれに抗うかのように、


「ふんっ!」


 と声を上げ、バーベルを持ち上げてしまった。


 さらに流子は、


「もう1回だ!」


 などと孝介に告げ、本当に2回目の上下運動に入ってしまった。


「お、おい! 無理するな!」


 孝介はそう返すが、この時点で既にバーベルは再降下中。バーが流子の胸部に接近し、やがて接触してしまった。その瞬間、


「うおりゃあぁぁぁっ!」


 掛け声一閃、流子は腕力と背筋力を総動員して150kgの鉄の塊を押し上げた。


 両腕の肘がピンと伸びる位置まで達したのを見届け、流子はようやくバーベルをラックに戻す。もちろん、孝介の補助には一切頼っていない。


「よっしゃ! どうだ関取、あんたと同じだけやったぞ!」


「……40半ばで無茶は禁物だぞ」


「負け惜しみ言うんじゃねぇ!」


 流子はベンチプレス台から立ち上がり、


「次はゴッチ式トレーニングやるぞ。関取も付き合え!」


 と、孝介に言いつけた。

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