ある男と女が結婚をし、夫婦となった。
だが、2人に互いへの愛はなかった。
男は代々続く老舗ホテルを経営する家で、後継者となる子が必要であった。
女の家はシングルマザーで、母は深刻な持病を抱えていて、孫を一目見る事を強く望んでいた。
2人はSNSで出合い、互いの目的が一致したため、とんとん拍子で結婚の準備を進めた。
彼らは自分達の両親に互いを紹介し、愛し合う夫婦を演じた。
そして完璧に騙し切った。
と思っていたのだが、男の両親も、女の母親も2人に愛がないことに気づいた。
だが、後継者を望む両親と孫に一目会いたい母親はそれを指摘して、2人の結婚が白紙に戻る事を嫌い、気づかぬふりをしたのだ。
2人は親を完璧に騙せたと思い込み、やがて結婚した。
同じ家に住み、愛の無い行為を日々重ねた。
そして、お互いの目的だった子供を宿すことに成功した。
2人は大いに喜んだ。
互いへの愛は別に無いのだが、自分達の子への愛情は人一倍あった。
互いの親も本当に喜んでくれた。
やがて子が産まれて、彼らは子にも自分達が互いを愛し合う夫婦だと演じて装った。
子供の成長過程に、両親が愛し合う家庭というのは非常に重要なものだと考えたのだ。
それに、子供に何か気づかれて外で言いふらされれば、世間体としても非常に悪くなる。
やがて、子は順調に成長して小学校に入学した。
2人は完璧に子を騙せている。
と思っていたのだが、実は子は両親の間に愛がない事を知っていた。
ずっと一緒に両親といると、段々違和感を感じ始めたのだ。
そして、やがてそれが、両親がお互いを愛していないからだと言う事に気がついた。
しかし、それを両親に話したり、周りに話したりは絶対にしなかった。
子は自分の環境に満足していたのだ。
両親は自分の事を本当に愛してくれているし、常に自分の前では仲の良い夫婦を演じてくれる。
両親の喧嘩など一度も見たことがない。
友達の話を聞いていると、両親の仲が悪いらしく、毎日言い合いばかりで大変らしい。
それを聞いていると、本物じゃなくても、両親が自分の前で仲の良い夫婦であるこの環境は恵まれていると思えたのだ。
それに、友達が家に来たりしたときも、自分の両親を見て本当に羨ましがるのだ。
子はこのままでいいと思えていた。
だが、両親が本当は愛し合っていないことに気づいているのは自分だけだと思っていた。
祖父も祖母もこのことに気づいているとは知る由もなかった。
父や母の実家に行った際は、両親と本当に楽しそうに幸せそうに話していた。
しかし、それは当然だった。
祖父や祖母にしてみれば、孫にその事を勘づかれないよう必死だったのだ。
そして夫婦は、自分達がお互いを愛していない事を両親にも子にも、知られてなどいないと思っている。
知らない方がいい事もあるし、偽物でも幸せな事もある。
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