仲間からパーティを追い出された僕は、外れスキル「発光」を進化させ、全てを超える ~始まりの光《Evoluto The First》~

さぼてん
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20 変貌 マグニス・ラース

公開日時: 2021年6月25日(金) 18:50
文字数:1,757

「おやおや、意外だね。あれに惑わされないとは」虚空に浮かぶビジョンを見つめながら、私はつぶやいた。

人の心の光を信じる――何とも美しい文句だが、故に気に食わない。

君にはもっと、思い悩んでもらわなければ。

そうだ。なら、こうしよう――

私はおもむろに立ち上がり、指を鳴らす。

 

「フフフ……さぁ、どうする?ハジメ君」

 

 

「オオオッ、テアッ!」

1撃、また1撃。確実な手ごたえとともに、次々に攻撃を加えるジェネス。以前手も足も出せずにいたことが嘘のような姿だった。

 

「いいぞ、押してる!」

それを遠巻きに見ていたルージュらもまた、彼の勇姿に活気づいていた――

 

「フン……」

ただ、一人を除いては。彼は鼻を小さく鳴らし肩を剣で軽く叩くと、いかにもつまらなさそうにその光景を見つめていた。

「さ、どうしたもんかね」

いまだ残り続けるドーム状のバリアの中にいるのは、彼一人。

回りを見れば、まるで屍人ゾンビのようにそれを叩き続ける村人たちの姿。

マグニスが押されていることは別に大した問題ではない。むしろ、倒してもらわねば意味はない。

ベリルにとっては彼を――ハジメを自身の下へと引きずり込めなかったこと。その一点のみが不満で仕方なかった。

そして直後、そんな彼の不満はさらに増幅することとなる――

 

「ぐっ!?ぐぁ……!」

突如として、村人たちがうめき声を上げた。彼らは揃って胸を抑え、地面にうずくまり始める。

 

(これは……どうなってやがる)

自身にとっても想定外の出来事に困惑するベリル。だが、これだけでは終わらない。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁーー!」

村人のうちの一人が天を仰ぎ、声を上げた。その瞳は血の色の如く紅く、妖しく光り輝いている。

その体は数秒も経たぬうちに光の帯へと変わり、天へと昇ると――

 

「!?」

マグニスの胸の中心で光る発光体へと吸収された。そして次々と同じことが起こり、村人のすべてが取り込まれた時、変化が起きた。

 

「グルル……ギャオオォォォ――ッ!」

5本の指は鋭利な爪を備えた三本の指へと変わり、背には巨大な翼。

揺らめく炎はそのままに、流線形に伸びた頭部と発達した胴とを結ぶ、太く長い首。

そして巨大化した全身の重量を支えるべくたくましく発達した脚部――

まさしく『竜神』と呼ぶに相応しい姿と化したマグニスの姿が、そこにはあった――

 

その光景を見ていたハジメもまた、驚愕の色を隠せずにいた。そしてその動揺は、隙を生み――

「がっ!?」

巨大な腕が、がしりとジェネスを握りしめた。

「くそっ……!この!」

抜け出そうともがく彼の姿を、赤い瞳がのぞき込む。その視線から、増幅された怒りと憎悪の念を感じるハジメ。

 

「このヤロ、そいつを離しやがれ!」

彼の危機に、見ているばかりではいられなくなったルージュが飛び出し、火球を放つ。

しかし、そんな攻撃が通じるはずもなく。

歯を食いしばり、諦めることなく攻撃を加え続ける彼女。

そんな彼女を鬱陶しく感じたのか。マグニスの視線が地上を向く。そして怪物はその口を開き――

 

「ルージューーッ!」

刹那。彼女を放たれた火炎が襲った。それは彼女を覆って尚地を焦がして直進し、木々を焼き尽くす。

照り返した炎が昼間のように空を照らし、煙が立ち込める。

 

「そんな……」脱力感がハジメを襲う。

またも大事なものを守れなかった絶望に、彼の心が染まろうとした、その時。

 

 

 

「ヌゥアアアッ!」

 

ベリルの叫びが、黒煙の空に轟いた――!

炎を裂き、黒き斬撃が宙を舞う。それはまっすぐにマグニスの元へと突き進み、

「グガッ!」直撃。軽く呻きを上げ、締め付けが弱まる。すかさず脱出し、距離をとるハジメ。

彼が地上を見やると、

 

「ったく、俺まで巻き込みやがって」

刀を振り抜いた姿勢のベリル、そして――

 

「……」

その後ろに立ち尽くす、ルージュの姿。

 

「お前、何で」

「あ?……ああ、いたのか」

ベリルはチラリとルージュを見やると興味無さげに返し、ハジメのほうを向く。

 

「邪魔が入った……また会おう、じゃあな♪」

そして口の端をにやりと上げ、影のように姿を消してしまった。

 

「ベリル……」

ルージュの無事に安堵する思いと、ベリルの行動に疑問を覚える思い。その二つが同時に去来し、複雑に混ざり合うままにつぶやくハジメ。

しかし、今は考えている場合ではない。

今やるべきことは、目の前のあれを止めることだと首を振り、向き直った――

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