「フローガさん」
「なぁに?」
「結論から言います。フローガさんには故郷の星で人間として生きてもらって、俺は魔力を消滅させる滅魔法の精霊として在り続けようと思います」
「え」
「長旅お疲れ様でした」
「いやいや、ちょっと、どういうこと?一緒に……」
起き上がる。
フローガの両肩を掴んで拒絶する。
フローガは何が何だか、という顔だ。
「一緒には生きられません。既存の魔法では魔力を消滅させることが出来ず、新たな概念の魔法を創る必要があります。それが滅魔法です。そして滅魔法を維持するためには、精霊として道を歩む必要があります」
「そんな……」
フローガの顔が暗く沈んでいく。
「大丈夫です。フローガさんが想っている限り、そこにクレアジオーネは在ります」
「在るんじゃ駄目なの!傍に居て欲しいの!!」
「俺はフローガさんを知りません。他者でしかありません。愛もありません。もう、あなたのクレアジオーネは死んでいるんです。不老不死のはずの神でありながら、宇宙の終焉によって」
「そんな……そんなこと言わないで……」
「今話していて面白いと思いました。神は不老不死なのに死んでしまう。死ぬというより、お隠れになるという言い方の方が正しい場合もあるそうですが、死ぬ神もいるみたいで。ってことは不老不死であるというのは一面的な理解でしかなかったのか」
「何を……言ってるの……」
「つまり今、ここで死ぬか。それとも故郷で死ぬか。俺は想像を超えました。フローガさんはどうしますか?」
嫌ってくれ。
「……ここで……死ぬ……」
……!!!!
「馬鹿野郎!!!命として生きて、自分はここにいるんだ!って叫ぶんだよ!!!今ここで死ぬってことの意味が分かんねえなら教えてやる!!!滅魔法でその身体を消滅させるってことだ!!!命として生まれてきたんだろうが!!!生きて、生きた証を残して、命として死ね!!!」
フローガは泣いた。
俺は何でこんなに怒鳴り散らしてるんだ。
嗚呼。あまりにも人間らしい神様に、腹が立ってしょうがない。
「……一つだけ、クレアジオーネという存在が未来に生きる方法があります。たった一つのシンプルな答えです」
「……何?教えて!!」
「命が、語り継ぐことです。生きて、語り継いでください。彼が何をしたのか、どういう存在なのか。何が好きなのか。どんな魔法を使っていたのか。そうすることで、クレアジオーネという存在は伝播することでしょう」
「語り継ぐ……」
「過去とは不変の概念の魔法です。誰もあなたの過去を変えることはできません。それを今という行動の概念の魔法を通し、未来という変動の概念の魔法へと繋げてください」
「……クレア……」
「俺はクレアジオーネにはなれません。ただの破壊者です。既にクレアジオーネはフローガさんと一体化しているのです。俺知ってますよ。今を肯定させ、未来を肯定させなくし、スモックさんという邪魔な存在を忘れさせるために、クレアジオーネから耳かきで夢と記憶を奪ったこと」
「ギクッ……スモックのことまで」
「あはは。スモックさんも泣いてますよ。”俺そんなにキモいか?”って」
「……まぁキモいし」
「仮に都合の良い記憶だけを入れられていたら、今頃フローガさんを好きになっていたでしょうが、何の偶然か、失敗か、記憶は俺に嘘をつかなかった」
「……要練習ってことね……」
「これも、生きる目的ってやつですね。それにフローガさんには、クレアジオーネの夢が残ってる。ちなみにどんな夢ですか?」
「……赤の他人なんでしょ?教えなーい」
「えぇーもうネタバラシのフェイズですよ」
「……掌、出して」
「え、はい」
おとなしく右の掌を出して向ける。
「このサイズ。掌サイズの分だけ意味を創ること。それが夢だってさ」
「それ、好きです。きっと俺も友達になれたでしょうね」
「なぁに、同じ存在じゃない」
「でも、同じ命じゃない。……まぁクレアジオーネの夢も知れたし、そろそろ行きます」
「あ……ありがとう。こんなこと、引き受けてくれて」
「いえ、俺も生きていて良かったです。ありがとうございました」
ーーーーーーーーーー
誰もいない草原に立つ。
ありとあらゆるものを吸いこむかのように息を吸う。
有魔法。
「ゴォォォォッドボォォォォイス!!」
全宇宙から神々の気配を感じる。
「全宇宙に存在する全ての神々よ。破壊者である私の話を聞いて欲しい。有魔法によって魔力を無限に生み出された別宇宙は、膨張をやめ、終焉を迎えた。別宇宙の私は無限の魔力を生み出した神だったが、命の神化に貢献したものの、結局行き過ぎた創造力と、想像力の欠如によって終焉を迎えたのだ。私はその別宇宙から逃れた神とともに考えた。このままでは宇宙は無限の魔力によって終焉を迎え、同じ歴史を繰り返すことだろう。そこで無限に創造された魔力を破壊し、消滅させる。それに伴って神々の魔力も、命ある者たちと同じところまで肉体と置き換え消滅させる。これにより宇宙は存続し、歴史は紡がれる。滅魔法と名付けよう。私は宇宙の新たな歴史を紡ぐために破壊するのだが、奇しくもビックバンエナジーを発動した者と、同じ破壊者となる。神々が魔力の身体を肉体に置き換え、命として生きていく、これは衰退ではない。むしろ私に言わせてみれば、命として生まれたにもかかわらず神となり、生き長らえることこそが衰退である。命として生まれ、命を食べ、命に食べられる。この輪廻こそが命を発展させるのだ。輪廻の理より外れた異端の存在である神々よ。今一度命に戻り、命とともに発展していこうではないか。今から私は神々に魔法を授ける。生まれ故郷へと帰還する魔法だ。未来を思って在り続けた神々なら、その魔法を使うことだろう。今から8秒数える。その間に魔法を使うか、自分の意思で決めて欲しい。8とは、新たな歴史のスタートと、その未来へ期待を込めた数字だ。……では、数える」
「1」
「2」
「3」
「4」
「5」
「6」
「7」
「8」
有魔法。受肉。
「リインカーネーション」
滅魔法。消滅。
「シートゥーイー」
さよならだ。
ーーーーーーーーーー
あたしはあたしと故郷で恋バナをした。
もう見ることの無い有魔法の綺麗な光の話よりも、好きな男の子の話。
他の男には嫉妬される。”こんな人を放ってどこ行ったの!?”とか”俺なら幸せにするよ”とか。
もう幸せなの。
あたしも何か意味を創るから。頑張るから。見ててね。クレア。
「やっぱ柔らかそうだよな」
「胸の話?俺はまた膝枕されたい」
!?
……あ、居たんだ。
もう、人のことなんだと思ってるんだか。
「あたし、所有物じゃないから」
「あ、やべ聞かれた」
「俺も持ち場戻ろ……」
何なの。もう。
悲しくない。もう悲しくなんかないんだから!
ーーーーーーーーーー
僕は旅をしている。
べらべらと喋ることも好きだけど、黙って言葉を聞くのも好きだ。
……。
「君たち、わざわざ後ろに立つなよ」
「何で分かるんだ」
「何で分かるんですか」
1号と2号が同じような反応をする。
「同じ反応をしないでくれ。持ち場に戻りなよ。てか君たち、何で一緒にいるんだ」
「過去の俺はこいつの頭ん中にあるから」
「過去のこいつが俺の頭ん中にあるからです」
「……。そうかい。まぁ幕引きのときくらい、おかしなことが起こったって驚かないさ。なんせデウスエクスマキナを2回もやってるからね」
古代ギリシアの演劇もこんな感じだったのかな。
「俺たち感謝してるから、それは伝えないと」
「旅を安心して見守れないだろ?」
「そうかい。人間……命は楽しんでるから、君たちも風当たりが強くても負けるなよ」
「ありがとう。じゃ、行こうぜ」
「持ち場戻るか。ありがとうございました」
自分たちの方が余程大変な立場にいるくせに、呑気なもんだぜ。
おっと……今日は風が強いな。
まぁ世界の風なんて、気にしないよな。君らなら。
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