CASE5
ホールへともどり、実影は運搬用の袋から物資をとりだす。
確認のためあたりに広げて並べる。施設に留まっていた人間がまわりに集まってきた。
「なんや、こんだけかい。ちょいと拝借」
例の金髪男の堀井がすばやい手つきで物品をさわろうとする。実影がその手をはたいた。
「勝手にもっていくな」
堀井は舌打ちをしてにらみつけてくる。実影は疲れていて相手にしない。
こうして物資をながめると満田、あの眼鏡の男は冷静だったなと思う。ペンチなど武器になりそうなものも中には入っていた。これだけあればもしどこかからバグがここに侵入しても戦える人が増える、そう実影は思った。
すぐ後ろでは、今回救出した生存者たちを元々ここにいた人たちが温かく歓迎していた。そのひとり、制服のエプロンをつけているおそらくあの店の従業員だったのであろうおばさんが、実影に近づいてきて一礼する。
「助けてくれて、本当にありがとう。もうどうなることかと……」
「いえ」
誰かを助けられたこと自体はよかったが、その結果感染者の命を犠牲にしていることに少し複雑な気持ちはある。残っていた人たちも生存者を見て喜んでいたが、どこかカラ元気である。事態が好転したわけではない。
実影は袋から自分で詰めたナイフと非常用のビスケットだけを手にとる。倉庫にあった食料と水もあわせて持ちだし、雪良と一緒に廊下の椅子に腰かけて簡素な食事をはじめた。
レトルトのカレー味のおかゆのようなものを食べたが、これがなかなかおいしかった。続けてビスケットをかじると甘みが口の中に広がる。食をとると、今度は水もうまく感じる。なんてことのない非常食に、生きていることを実感するほど、実影は感情を揺さぶられた。
「これって……モンスター、みたいだよね」
雪良はぼそりとつぶやく。あまり食欲がないのか、呑み込まずに少量の食を延々と噛んでいる。
「モンスター?」
「うん。お母さんがそういう映画とか好きで」
「エイリアンを倒すゲームなら俺もよくやってた。じっさいは、敵を相手にするのは……大変だけどな」
空気が重苦しかった。廊下には他にも人がいるのにまるで会話も、あるいは息遣いすらも聞こえてこなかった。
外出組が帰ってきたとき、避難民たちも行く前にいたメンバーの一人がいなくなっていることには気づいただろう。だが誰もなにも言わない、そして聞かなかった。その気力すら失っていた。
丁寧に防災倉庫には歯ブラシも用意されていた。雪良と実影は寝る準備を整えてから、あまり喋らずに身を寄せ合って眠気がくるのを待った。
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