バグプログラム
暗闇で声がきこえた。
声色からして男三人のものだった。もしかしたらその言葉を聴いた時期はそれぞれ大きく異なるかもしれない。
だがまるで文字を刻まれたプログラムのように一字一句彼らがなにを言っていたか記憶に焼きついている。
「こんなおぞましい……ものにする必要があったのでしょうか」
「これこそが今までの人間のうけるべき罰なのだ」
「植物は生存政略のためにあらゆる適応をみせる。彼らは植物という区分けをされているがDNAに構成された生物の一種だ。そして人間もまた生物であるならば苦境に立たされたとしても才力を発揮し生の未来を掴み取るはずである。……忘れるな。君が殺すべき男の名は――」
CASE26
拠点は、湧き水が出るところのちかくをえらんだ。
資源は無限ではないことを昔の自分に言っても理解しようともしなかっただろう。あれだけスーパーやいたるところに放置されていた飲み水たちは、だれかが持ち去ったのかいつのまにかまるごとなくなっていた。
昼間、湧き場のある近くの小さな山のなかへと向かう。
この雑木林の山道は昔はもっと整備されていたのだろうが、今では草や木が生え放題になっていて人には歩きづらい。錆び気味のナタを振り回し、それらをかき分けながら坂を進んだ。
山のなかは静かで、案外鳥の声さえもきこえてこない。自分の足がじゃりや石を踏みしめるかわいた音がもっとも際立っている。
草は町中で見ることができるようなものとそこまで変わりはないように見え、木に関してはやはり独特で野生を感じさせる形状のものが多い。太い木に巻き付いたツタが気持ち悪く、なるべく見ないようにした。
ふと左の耳から、どこか近くで小石が崩れるガラッというような聞こえ緊張が走る。反射的にそちらのほうを見てナタを握りしめたが、木々のあいだにはなにも見えない。どこまでも似たようなクヌギが動かずにずっとならんでいるだけである。
熊が出るようなところではない。が、人の管理がなくなったいま北のほうから降りてきていても不自然はない。
熊か。あるいは違う、俺が憎んでいて、かつ怖がっているものと、どちらが出てきてほしくないか。たとえるならそれは、人間ではない人間。一瞬立ち止まってそんなことを想起する。
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