あなたに、キスのその先を。

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管理係の中本さん(1)

公開日時: 2021年2月20日(土) 08:03
文字数:1,056

都市計画課には私たちがいる公園緑地係のほかに、管理係、まちづくり推進係、道路整備推進係、計画係があって、各々に係長と部下が数名ずつ配置されている。各係の係長の上に二名の課長補佐、その上に課長がいらっしゃるという構図らしい。


 私のような臨時職員は、公園緑地係のほかには道路整備推進係に若い男性の方が配属されているのみだった。

(彼が同年代の女性だったら話しやすかったのに。残念……)

 塚田つかださんに連れられて、あちこちの係で挨拶を済ませながら、この課には私のような臨職りんしょくに同性が居ないと知って少しガッカリする。


「本来ならこういう案内は課長がするんだけどね、藤原ふじわらさんのことは僕に一任されているから……ごめんね」


 塚田さんが、課長へ私を紹介してくださった直後、何故か申し訳なさそうにそう言って頭を下げた。


申し訳ないのは私のほうだ。

 それは、父や健二けんじさんのお父様から塚田つかださんへじきじきに何らかの申し入れがあったということだと思うから。

 きっと、私がそれだけ頼りないと思われている証拠に違いない。


「あの、私のほうこそ何だかすみません……」

 ここに入ってきたのだって、自分の実力ではなく、いわゆるコネだ。お父様はくわしくは言って下さらなかったけれど、多分、議員をなさっている神崎かんざきさん――健二さんのお父様――のお力添えに違いない。


 組織の中に入ってからも、人の手をわずらわせるような扱いしかされない私って何だろう。……本当に情けなかった。


 そう思いながらしゅん……として謝った私に、塚田さんが「一旦席にもどりましょうか」と言って挨拶回りを中断する。


 まだ、計画係と管理係に行けていないのに……。


 そう思うと、自分の不甲斐ふがいなさが悔しくてたまらなかった。


自分たちの係の島に着くと、塚田つかださんは私を彼の席のすぐ近くにある、綺麗に片付けられた机に導いた。

「ここが藤原ふじわらさんのデスクです。自由に使ってくださいね」

 周りのデスクには物が所狭しと積み上げられていて、天板てんばんがほとんど見えなかった。けれど、私にあてがわれたデスクの上だけは何も載っていなくて。

 キョロキョロと周りのデスクと見比べていたら、塚田さんに苦笑される。


「……突貫とっかん工事でそこだけ片付けたの、バレちゃいましたか?」

 頭をかきながらへらりと照れくさそうに笑う彼に、ドクンッと心臓が跳ね上がる。


(ダメ、これ以上好きになってしまったら後戻りできなくなっちゃう……)


 不意に彼が見せる笑顔がまぶしくて、胸が苦しくなる。

 私は自分が落ち込んでいたことを忘れてしまうくらい、彼の笑顔に引き込まれている自分に気が付いて怖くなった。

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