機械仕掛けの魔術師

The end of the illusion
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Ψ3・訪ねてきた少年

公開日時: 2021年1月15日(金) 23:12
更新日時: 2021年1月31日(日) 22:03
文字数:2,884

 ジュウクに比べて、ミイスケの人としての能力はそんなに高くないだろう。彼は特に、頭の回転が早い訳でも、知識が豊富な訳でも、勘が鋭い訳でもない。それほど体力がある訳でもないし、いざという時の護身術なども身につけてなどいない。

 ただ彼は機術師であり、より昔の、ジュウクにはいなかった強力な助手がいる。それはもちろん、マキナであるラキメルとアリアーゼである。



「来ると思ってた」


 キョートの街のとある館。

 ある共用施設で強盗を働いた男を、小さな部屋に誘き出す事に成功したミイスケ。


「誰だ?」

「俺はこの街の一人自警団さ。名前はミイスケ」

「自警団だと」


 男に観念した様子はなかったが、当然であろう。

 彼は銃を持っていて、どう見ても、その場にはひ弱そうな少年がぽつんと立っているだけだ。実は天井にラキメルが張り付いていたのだが、男は気づいていない。


(「ミイスケ」)


 男が何かするより前に危険を感知したラキメルは、それをミイスケの伝達神経に直接、電波を飛ばす事で伝える。それは《コエ》という機能である。


 そしてミイスケはすぐさま、ラキメルから高電圧を発生させ、それによって発生した電流による刺激によって、愚かな男は気絶した。

 電流の発生は、《電界デンカイ》という機能。出力は最低にしていたが、それでも普通の人間一人の意識を奪うのに、その威力は充分すぎる。



 キョートのような地域に法は存在しない。誰かへの罰を与えるのは、警察でも何でもない誰かである。ただし、管理エリアと呼ばれる、エシカのセキュリティマシンが管理する地区に行き、それに引き渡す事は出来る。


 エシカとは、戦前から地球の至るところに存在している、地区ごとの管理マシン全てと繋がっているらしい、謎のマザーコンピューターである。どこかに存在するはずであるが、誰もそれがどこにあるのかを知らない。

 単なる噂で、実は存在しないと考えている人も多い。しかしミイスケは、アリアーゼとラキメルが、それからの、特異な経路を介する電波を受信出来るので、存在は確信している。


 そのエシカに動かされているという、管理エリアのセキュリティマシンは、もはや今の時代の警察である。

 そしてそんな訳で、キョートのように、セキュリティマシンのない非管理エリア地域と、管理エリアでは、治安が歴然の差だ。


 だからこそ、ミイスケのような、戦闘が得意で、それを仕事とする者は、基本、管理外エリアで生きている。小さな事件すら滅多にない管理地域では、誰も人間のガードなど頼りにしないから。仮に何かあったとしても、真っ先に頼るのはセキュリティマシンでいい。


 だが確かに、無法地帯である管理外エリアでは、ミイスケのような者は必要であろう。実際に彼は、二機のマキナの力を借りて、悪党をこらしめ、虐げられる者たちをよく守っている。

 自警団として、その名声も、探偵ジュウクがそうであったように、地域によってはそれなりに知れ渡ってもいた。

 ただし、彼が機術師である事はあまり知られていない。それは別に隠しているという訳ではなく、単に人前でその能力を披露する機会があまりないから。


ーー


「お帰りなさいミイスケ、ラキメル」

 家に帰って来たミイスケとラキメルを出迎えるアリアーゼ。


 アリアーゼは、どちらかというと外出が嫌いで、自警団などにも興味がない。一方ラキメルは、むしろ室内にじっとしているのが嫌いで、自警団にも非常に興味があり、その活動を楽しんでいる。

 そこで、必然的にミイスケは、自分の本来のパートナーではないラキメルとよく仕事をし、アリアーゼはいつも留守番している。機術師はマキナなら別に誰でも操作可能で、十分にその機能を発揮出来るので、それで特に問題はなかった。


ーー


 ある日の朝。


「ミイスケ、誰か来たわよ」

 家のドアの前に誰かが来たのを感知し、寝ていたミイスケを起こすアリアーゼ。


「う、うん、どんな人」

「多分子供ね、十歳前後くらいかし、ら」

 アリアーゼの答とほぼ同時に響く、控えめなノックの音。


「子供?」

 奇妙に思いながらも、立ち上がりドアのロックを解くミイスケ。

「入っていいよ」

 ミイスケが言うと、ドアを開き、家に入って来た、アリアーゼの言った通り十歳前後くらいに見える男の子。


「君は?」とミイスケ。

「あの、ジュウクさん?」

「あ、いや」

 男の子が口にした思わぬ名前に、一瞬戸惑うミイスケ。

「あの」

「いや、まずお互い自己紹介しておこう、詳しい話はそれから、おれはミイスケ」

「ぼくはアービー。ホンコンから来ました、親はでもアメリカ人です」

「ホンコン?」


 それはまた信じられないような情報であった。


「何でそんな所から?」

「あの、ここはジュウクさんの家なんでしょう?」

「いや、違うんだよ。もう」


 とりあえずもう、さっさと言ってしまった方がいいだろう。


「彼は死んだんだ。もう四年も前にな。俺は彼の息子だけど、探偵業は継いでない」

「死ん、だ」

「ああ、だからここはもう、彼の家でもない」

 ミイスケはそう言うしかなかった。それが事実なのだから。


「何か、依頼があったのか?」

「お爺ちゃんが、殺されて」

「殺された? ホンコンで?」


 それこそまさに衝撃的な話であった。

 ホンコンは管理エリアなのだ。 

 ホンコンで殺人? 管理マシンたちの厳重なセキュリティに守られる地域で。


「カグって人が、ここを頼るといいって」


 カグ、その名にはミイスケも覚えがあった。ジュウクがまだ生きていて、ゴーストを追っていた頃。ゴーストの手がかりを握ってるかもと彼が考えていて、よく話を聞きに行っていた科学者の老人シグの、助手。


 ジュウクが死ぬ何週間か前、

 トーキョーよりはキョートにずっと近い、オオサカという地域で暮らしていたシグとカグは、初めて自分たちの方からジュウクを訪ねてきて、三通ほどの手紙を手渡していた。

 手紙の内容も、それがその後どう扱われたのかもミイスケは知らない。

 手紙に関して、スグリは何度か聞いていたが、教えてもらえている様子はなかった。

 とにかくその時。シグとカグの二人は、手紙を渡した後、研究のために、遠くホンコンに行くかも、と言っていたのもミイスケは覚えている。

 結局ゴーストとも何も関係なさそうだったのであるが。


「あの、ぼく」

 今や目に涙を浮かべていたアービー。

「ジュウクはもういないし、おれは探偵なんかじゃない」


 でもそれがなんだ。自分にはまだアリアーゼも、ラキメルもいる。それに目の前の男の子の叔父を殺したのは明らかに……


「でもおれはジュウクの息子で、彼のやり方はずっと側で見てきた」

 決心し、ミイスケは拳を強く握りしめる。

「だから力になれると思う。ジュウクに持ってきた君の依頼。よければおれが代わりに受けるよ」


 アービーは何も言わずに頷き、しかし明らかに、安心した様子を見せた。


「よし」

 頷きを肯定の意味に受け取り、ミイスケはあらためて尋ねた。

「ホンコンはエシカの管理エリアだ、誰も彼もが殺人なんて出来はしない。君のお爺ちゃんを殺した奴は何者だ?」


 正直もう答はわかっていたが聞かずには、確認せずにはいられなかった。

 どうせ答など一つしかないのに。


「ゴースト」


 そう、まったく予想通りの人物だった。

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