機械仕掛けの魔術師

The end of the illusion
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Ψ9・ゴーストとの戦い

公開日時: 2021年6月5日(土) 21:22
更新日時: 2021年6月5日(土) 21:24
文字数:2,997

「実験は実は失敗していたの?」

 成功したと最後の報告にはあるが、人工的な魔術師など聞いた事もないという事実と、その実用性と科学的価値から、そのように推測するアリアーゼ。

「いや、成功した、政府の人間が百人以上関わる大プロジェクトだったが、たった三年で成功した」

「まるであなたも関わった一人のような言い方ね」

 アリアーゼには、もうなんとなくゴーストの事情もわかったような気がしていた。

「あなたが人工的な魔術師?」

 ミイスケの自分なりの推測。

「いえ、その人たちは逃げたわ、一機のマキナの力を借りてね」

「ちょっと待って、それって」


 唐突にフードも仮面も取るゴーストに、アリアーゼは言葉を止め、ミイスケも、これまでゴーストと呼んできた女性を、目を見開いて凝視する。

 ショートヘアーの茶髪、傷ひとつない整った顔立ち。とても数百人も殺してきた大量殺人犯には見えない、とても綺麗な、しかしどこか儚げな雰囲気の女性。それがその時ミイスケが彼女に抱いた印象だった。


「その実験は人を狂気に変えたわ、たくさんの人間、自分たちの友人や家族も平気で利用し犠牲にした」

 そしてまた、毎回そうであるように、突然話を終えて、消えるゴースト。

「アリアーゼ」

「ミイスケ、後で話し合いたい事があるけど」

「うん、大丈夫、今は大統領の元へ行こう」

 気を取り直し、またヘヴの道を進み始めるミイスケたち。

 とにかくゴーストを確認した以上、のんびりとしていられないのは確かだった。

ーー


 時同じくしてミイスケ達の家では、アービーとラキメルが奇妙な時間を過ごしていた。

「パッパラパー、ピピピピピ」

 今や一時間おきくらいにラキメルは狂っていた。

 ミイスケに綱で縛られたために、遠くに行く事こそないが、まったくどうしたものかと、アービーはもう途方に暮れていた。

「バーン」

 そして数回ジャンプして、それは治まったようだった。


「またおかしくなってた?」

「うん、狂ってた」

 正気に戻ったラキメルに即答するアービー。

「大丈夫?」

「大丈夫じゃないかも」

 今度はアービーにラキメルが即答する。

「いろんな意味でね、誰か来たみたいだ」

「誰かが?」

「武器は持ってないから安心してもいいかもとは思う」

 不安そうなアービーにラキメルはそう告げた。

 そして留守とは思ってくれなかったのか、むしろ留守だと思ったからなのか、誰かはロックのかかっているドアをノックした。

「ん?」

 そこで何かに気づいたようであるラキメル。

「ロックは解除したよ」

 叫ぶラキメルに、アービーはまた彼が正気を失ったのかもと思った。


「ラキメル」

「大丈夫、知り合いだよ」

「知り合い?」

 説明する暇もなく、ロックの解かれたドアは開けられ、アービーとは初対面の、ラキメルとはよく見知った仲の、一人の少女が家に入って来た。

「久しぶりね、ラキ」

「ああ、久しぶりスグリ」

 スグリとラキメル、二人の再会はジュウクが殺されて以来だった。

ーー


「誰だ?」

 ヘヴの最上階。本来なら自分以外足を踏み入れる事すらない、大統領室にあっさりと入って来た何者かと向かい合った大統領、カーデュス。

「お前は、そんな」

 そしてその何者かがゴーストだと確認すると、カーデュスは一瞬にして顔を青ざめる。

「わたしを殺すのか?」

「そうだな」

 ゆっくりとカーデュスに近づくゴースト。

「なぜだ? ゴースト、お前は何なんだ?」

「お前は知っている、カーデュス・エンディーロ」

「わたしはお前など知らないぞ」

 しかしもはやそんな事はどうでもよさそうである、カーデュスはただ恐怖に震え、立ち上がって後ずさり、壁に背中をつけた。

「鉄より硬い心はただ死を招く」

「うわあああ」

 唐突なゴーストの言葉に、彼女の正体に気づいたのか悲鳴を上げるカーデュス。

「そうだよ。兄が、お前たちの説得によく使っていた、古い詩だ」

「違う、わたしは違う、頼む殺さないで」

「どの口が言える?」

 カーデュスの言葉に怒りを露わにし、彼の座っていた椅子と、その前のテーブルをノエルの衝撃波と同じような、しかしより強力な力で吹き飛ばし、カーデュスのすぐ横の壁にぶつけるゴースト。


「大統領、伏せて」

 ミイスケの叫びに、倒れるようにカーデュスは伏せた。

「ミイスケ」

 アリアーゼの光砲を消えてかわし、ミイスケの隣に現れるゴースト。

「この世界は変えさせない」

 すぐにゴーストの方へとアリアーゼを向け、また《光砲》を放つミイスケ。

 しかしそれははゴーストに当たる寸前で屈折し、カーデュスのもたれかかっているのとは別の壁に穴を開けた。そしてとっさに今度は《偽弾》を放つミイスケ。


「あっ?」

 ミイスケたちにとってもかなり意外な展開だった。防弾装備か魔術かは知らないが、弾丸は弾かれながらもゴーストにちゃんと当たった。

「ゴースト?」

 攻撃を辞めるミイスケ。


「今のはわたしを止める唯一のチャンスだった。攻撃を辞めるなんて甘いな」

 そしてゴーストはミイスケを、シールドを発生させる暇も与えず、壁へとぶつけた。

「ミイスケ」

「大丈夫」

 痛みをこらえ、アリアーゼにも答え、《風足》で、ゴーストの後ろへと素早く回り込むミイスケ。

「いっ」

 またあまりにも意外な攻撃だった。

 ゴーストはミイスケたちの攻撃よりも早く、自身の足で後ろのミイスケの足をひっかけ、こかしたのである。しかし地にはつかず、また風足で一旦部屋の隅の角に着くミイスケたち。

「ゴーストは?」

 ミイスケは部屋を見回すが、とっさにいるはずのゴーストを発見出来なかった。

「上よ」

 アリアーゼの言葉にハッとして、回転し、上から降って来たゴーストを返り討ちにしようとするミイスケ。だが、すでにそれは遅く、ゴーストの上からの手のひらの突きで、ミイスケたちは地に叩きつけられる。

「いっ」

「ミイスケ」

「大丈夫、まだ大丈夫」

 痛みで意識を失いかけるも、アリアーゼの言葉で立ち上がるミイスケ。


「大した信頼関係だ、今のは完全に意識を奪ったと思ったのに」

「残念だけど二人ならお前にだって勝ってやる」

「それだけはない、お前達がどれだけ頑張ろうと、わたしとは力も経験も違いすぎる」

 確かに勝てるというのは強がりでしかない。

 初めて真正面からゴーストと戦い、ミイスケもアリアーゼも正直その強さに一番驚いていた。まるで勝てる気がしなかった。

「それにミイスケ、このまま戦いを続ければ、お前でも死ぬかもしれないぞ。アリアーゼ、お前は大事なパートナーを失う事になる。あなたたちと直接関係はない、こんな男のためにな」

 相変わらず壁際で震えるカーデュスを指差し、ミイスケとアリアーゼそれぞれに告げるゴースト。

「言っただろ、世界は変えさせない。エシカは平和を人にくれた、それを裏切るなんておれは嫌だ。それにアリアーゼは、とても優しくて、とても、とても」

「ミイスケ」

「彼女といれるなら、おれはお前よりも強くなるんだ」

 自然と、ミイスケは精一杯に叫んでいた。

「本当に大した信頼だ。ねえ、カーデュス」

 再び臨戦態勢になるミイスケたちを気にも止めず、カーデュスに振り返るゴースト。

「この子たちに感謝する事ね」

 そう告げて消え去るゴースト。


「おい、なんで今攻撃しなかった、絶好の機会だったろ」

 さっきまでぶるぶる震えていたとは思えないほど、かなり偉そうなカーデュス。

 どうやら彼は、ミイスケたちもヘヴのセキュリティだと思っているらしい。


「長居は無用みたいね」

「ああ」

 そしてミイスケたちもヘヴを抜け出し、家へと帰って行った。

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