機械仕掛けの魔術師

The end of the illusion
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Ψ4・マキナ二人

公開日時: 2021年1月19日(火) 17:52
更新日時: 2021年1月31日(日) 22:07
文字数:3,108

「ところで、君はエシカの連絡船れんらくせんに忍び込んでこの大陸に来たのか?」

「はい、そうです」

 ミイスケの質問にすぐさまアービーは頷いた。


 連絡船とは、単独のマキナなどが移動に使うためにあるらしい、定期的に特定の管理エリアと管理外エリアとを往復している、無人船。


「その方法はセキュリティの問題上、管理外エリアに一度出たらもう使えない。ホンコンには正規のルートで行く。とにかく向こうに着いたら、現場におれを案内してくれ」


 アービーはまた無言で頷いた。


「ラキ」

「あっ」

「ラキ?」


 ミイスケの呼びかけで、張り付いていた天井から、いつも通りにうまく着地する。はずが、まるでつまづいて落ちて来たように、着地失敗するラキメル。


「何かちょっとさ、調子が悪いみたい」

 そんな事初めてなのに、あまり深刻でもなさそうなラキメル。


「マキナ」

「知ってるんだな」

「ただの噂だと思ってました」

「それはそうか」


 アービーの反応は、まあ当然だろうとミイスケは思う。


「じゃあミイスケさんは、機術師?」

「そうゆう事になる、一気に心強くなったろう」

 そしてニヤリとするミイスケに、またアービーはぶんぶんと首を縦に振った。


「でもラキ、お前、本当に大丈夫?」

「大丈夫じゃないわ」


 ラキメルに優無も言わせず、同じように天井から、ただし綺麗に落ちて来て、しっかり着地もするアリアーゼ。


「ラキメル、原因はわからないけど、あなたは今ちょっとおかしいわ、自分が一番よくわかっているでしょう」

「そうだけど」

 アリアーゼの言葉に対して、珍しく軽口も反論もなしに、大人しくするラキメルに、ミイスケも、本当に彼は調子が悪いのだと実感する。


「もしもこれが本当にゴーストの事件なら、今のあなたは足手まといにすらなりえるわ」

「わかったよ、今回はぼくが留守番してる、でも本当に気をつけてよ」


 しかし実はわかってなどいなかった。

 ラキメルは密かにミイスケの服に発信器をつけていた。

 もちろんミイスケたちを追跡するためである。


 そんな事はつゆ知らず、アービーが自分たちの家のドアをノックしてから数時間後には、ミイスケとアリアーゼは、彼を連れて、キョートの港を訪れた。


ーー


 キョートの港から、ミイスケたちが乗った移動船いどうせんが出発してから六時間ほど、アービーは用意された部屋で寝ていている。

 そしてミイスケはアリアーゼと一緒に船のデッキに出て、静かに海を眺めていた。


 移動船とは、連絡船と違い、人の運搬を目的としていて、搭乗者は基本的に料金代わりとして燃料を足さなければ、乗れないようになっている船。



「ミイスケ、何考えてる?」

「アリアーゼと二人きりなのは久しぶりだなって」


 普通、機術師も魔術師も、そのどちらでもない人も、マキナの事は一機二機と数えるが、ミイスケは彼らを一人二人と数える。これは機術師の中でも、なかなか変わっている事。


「嘘ね、ゴーストの事でしょ、それとジュウクとスグリ」

「ほんと敵わないな、アリアーゼには」


 本当に敵わないと、素直にそう思う。

 昔から、それこそミイスケが覚えている限りの中での、一番古い時期から、すでにそうだった。アリアーゼはいつも、ミイスケの喜びも悲しみも、迷いも不安も、心の中にしまい込んでいるはずの全てを的確に突いてくる。


「ゴーストに対して、本当に全然まったく憎しみはないの?」

 アリアーゼのその問いに、ミイスケはすぐには答えられなかった。


 ゴースト。

 自分の父や姉のような存在を、家族を奪った張本人。

 そして自分を殺しはしなかった連続殺人鬼。


「少し、だけだと思う」

 考えた末の結論。

 確かに憎しみが無いわけでは決してない。

 そうゆう事ではない。


「そっかそっか」

 後はそれだけで、アリアーゼがそれ以上、何も聞いてこない事が、ミイスケは嬉しかった。アリアーゼの優しさを強く感じた。


ーー


 それから移動船がホンコンの港に着くと、ミイスケたちは管理エリアへ入るための、セキュリティの審査を済ませて、船を後にした。

 管理外エリアである、トーキョーやキョートとは違い、黒い建物などもなく、とても綺麗で、戦争の面影などまるで感じられないような、綺麗な街。

 


「この部屋の、この椅子に死んだお爺ちゃんを寝かせてた、僕がここに来た時で、あいつ、ゴーストはすぐに消えて行ったんです。お爺ちゃんは胸と頭に、銃で撃たれた跡が残っていました」


 現場である一軒家に着くと、アービーはすぐに、ミイスケたちに事のあらましを話してくれた。

 そして話を全て真に受けるなら、少なくとも犯行にゴーストが絡んでいる事だけは、もう疑いようがなさそうだった。



「でもどう捜査しようか?」

 いざ現場に来ると、ある意味予想通りだったのだが、特に手掛かりらしき物もなく、早くも途方にくれるミイスケ。

 だが、すぐにそれどころでもなくなった。


「ミイスケ、誰か来たわ」

「アービー、隠れて」


 突然のミイスケたちの変わり身の速さに、危機を察したのか、言われてすぐ、押し入れに隠れたアービー。

同時にアリアーゼも天井に飛び、張り付く。


「誰だ?」

 家のドアを開けた、茶髪に白衣の男に、ミイスケはすぐさま問いかける。

「ぼくはノエルだ、機術師くん」


 一瞬ドキリとするミイスケ。

 同時に、もう隠れる必要もないだろうので、天井から落ちてくるアリアーゼ。


「おれの事を知ってるの?」

 とにかくそれを尋ねるミイスケ。

「いや、ぼくは君と初対面だし、君の名前も知らないよ。まあ教えてくれると、呼ぶ時とか助かるね」

「俺はミイスケ」

 おどけた感じのノエルに、警戒心はまったく緩めずに、名前は名乗っておく。


「そうか、よろしくミイスケ」

「うっ」

 唐突に放たれた原因不明の衝撃波で飛ばされ、壁にぶつけられるミイスケ。

「ミイスケ」

 普段の彼女からは考えられないような、大声で叫ぶアリアーゼ。


 ミイスケは何もしていなかった訳ではない。ノエルがどんな攻撃をしてきても対応出来るよう、すでにアリアーゼが発生させられる五つのシールドの内、四つを同時使用していた。その上で吹き飛ばされたのだ。

 光子などのエネルギー粒子を吸収し、無力化する《闇壁アンヘキ》。

 単純に向かって来る力を反対の圧力で止める《大気壁タイキヘキ》。

 金属などの物質を停止させる《磁気壁》。

 そしてあらゆる慣性系そのものを強引に反転させてしまう事で、まさに攻撃を反射させてしまう《反転空ハンテンクー》の四つ。

 そのどれもを突破出来る攻撃など、ミイスケもアリアーゼも知らない。


「無駄な攻撃は辞めた方が利口だよ。君たち、機術師の弱点は、そのどんな攻撃も必ずマキナから放たれる事さ。注意を払っておけば、かわす事は容易だよ。つまりそれはぼくを怒らせるだけって事だ」

「目的は、何だ?」


 背中の痛みをこらえながら、いつの間にかノエルのすぐ後ろに迫っていた、ラキメルの攻撃の照準を合わせるミイスケ。


「君のその、アリアーゼとかいうマキナをもらおうか」

「アリアーゼを?」


 それほど意外でもなかった。確かに狙われる理由としては一番ありそうである。マキナは機術師でなくとも、興味関心を引く対象として、もしかしたら武器としてもこの上ない。


「残念ながら、あなたなんかについて行くくらいなら、自己破壊を選ぶわ」

「それが出来ない事は知ってる。そして君たちの選択肢は、戦うか戦わないかでも、拒否するか従うかでもない、従うか無理やり連れて行かれるかだ」

 そして特に警戒する様子もなくアリアーゼに手を伸ばすノエル。


「お前は選択肢がないけどな」

「ぐっ」


 さすがに不意をつかれたのか、後ろからの突然のラキメルの《電界》によるショック攻撃に、あっさり意識を奪われ、その場に倒れたノエル。


「やられる以外ね」

 してやったりという感じで、気絶したノエルの隣にて、嬉しそうに軽く飛び跳ねるラキメル。

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