20歳になった時、僕はずっと胸に秘めていたことを実行した。
それは実父へ会いに行くことだった。
とはいえ父が、あれからどのような生活を送っていたのかは全く分からない。
だがそれは本当にたまたまの出来事だった。
高校生の時、試合をする為に行った相手の高校付近に着いた時だ。
周りを見渡すと走馬灯の様に頭の中を思い出が一気に駆け巡った。
「この場所絶対に来たことがある。祖母の家の近くだ。」
そう感じたのはある公園の滑り台を見たからだ。
特殊な段々畑のような形の滑り台で、ずっと遊んでいた記憶があった。
それからプライベートの時間でその周辺をウロウロとし、祖母の家を探した。
そして5.6回ほど訪れた時、ようやく見つけた。
そこはクワガタが玄関前に飛んでくるほどの山の中で、その家は子どもの頃に見た時より小さく見えた。
だが見つけたときはインターホンを鳴らす勇気がなかった。
それから幾年を重ねて、ようやく決心がついた。
「大人になった自分を見てもらおう」
僕はインターホンを鳴らした。
「はい」
「僕だけど覚えていますか?」
カメラ付きのインターホンだったので祖母からは僕が見える。
返事がない。
インターホンが切れる音もない。
すると玄関を「ガシャン!」と雑に開け、スリッパを履いた祖母が全速力で走ってきた。
抱きしめられた。
祖母は大泣きしていた。
僕も泣いた。
「大きくなったねぇ。顔をみればすぐに分かったわよ」
あとは何を言っているのか聞き取られなかった。
それは祖母が泣きながら話しているからなのか、僕が泣いているからなのかは思い出せない。
少し落ち着くと祖母は家にあげてくれた。
そして大好きだった手料理も振舞ってくれた。
とても美味しかった。
すると祖母がタンスの中からアルバムや、画用紙を出してきた。
アルバムには前の家にいた時の写真が全て残っていた。
父が処分せずに実家に移していたらしい。
とっても懐かしかった。
画用紙にはお絵描きがしてあった。
メガネやウサギを描いて祖父に採点してもらっていた。
この採点方式のお絵描きが当時の僕はとても楽しかったのを思い出した。
昼頃に来たのに辺りは暗くなっていた。
「次に来るときは前もって連絡ちょうだい。お父さんも呼ぶから。」
「分かった。また来るね。今日はありがとう。」
そう言って祖母の家を後にした。
それから祖母に会うまでにそう遠くはなかった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!