自律神経出張中

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第3話【お父さん】

公開日時: 2021年10月11日(月) 19:00
文字数:1,684

父と母が離婚し住む地域が変わっので僕は転校することになったのだが、この出来事が僕の性格を変えたのではないかと今では思っている。


引っ越しする前の僕は明るく人気者で、あまり人の目を気にしたりせず、発言や行動に関しても自分がよければいいと思っていた。

宿題もやった記憶が一切なく先生にも怒られていた。お調子者である。


ところがだ、転校した先で1番最初に衝撃を受けたのが皆が宿題をやってきている事だった。

あまりに当たり前のことかもしれないが僕にとっては不思議な光景に映った。

前の学校では宿題をやっていないと教室の後ろや廊下へ立たされたのだが、仲の良い友達はほとんどやってなかった為、笑いながらむしろ誇らしげに教室の後ろに立っていた。あたかも宿題をやっていないのがカッコイイかの如く。


しかしこの学校では宿題をやっていない人が居ない。本当に1人も居ない。

毎朝先生に「宿題忘れた人?」と聞かれ手を挙げる。

それがずっと1人だと分かった途端に急に恥ずかしくなった。明日からはやろう。

これは僕にとって大きな心の変化だった。


そしてもう一つ性格が変わった理由がお父さんの存在である。

お父さんは母の前に3度も離婚してる。理由はそれぞれの事情なので分からないが、とにかく厳しい人。亭主関白。それに加え本当の自分の子どもではないから僕らへの当たりが理不尽なことも多かった。言葉で分からなければ体で覚えさすと直接言われたことがある。バリバリの昭和体育会系だ。


それから家で過ごすときは、いかに怒られないようにするか、機嫌を損ねないようにするかに全神経を使った。

食事の時もなるべく会話にならないように早く食べて2階に上がったり、なんでもないことにオーバーリアクションしてみたり。お使いを頼まれたら喜んで行った。

とにかく色々なことに気を使いすぎてお父さんの前で息をしていたかも分からない。


1番神経をすり減らすのは夜中に尿意を催したときだ。

2階から1階のトイレへ向かうときマジシャンでも絶対音のなる扉を開けなくてはならない。さらに赤ちゃんでも絶対に音のなる古い木造階段を降りなくてはならない。

これにより起きていることがばれると「いつまでおきとんのじゃ」と怒号が響く。

それに対し「いやトイレに来ただけ・・・」なんて言えるはずもない。

だからトイレに行きたくても諦める日が幾度となくあった。


他にも、1階から2階へ向かって「おーい うどん買ってきてくれ」とおつかいを頼むお父さんの声が聞こえてきた。僕は反抗心から寝たふりをした。

すると階段を上る音が聞こえてきて扉が開く。そのまま僕の部屋の窓を開け、借りていたゲーム機(64)、勉強机、教科書、ランドセル、グローブ、釣り竿など大切にしていたものを投げ捨てられた。しかも窓の向こうは歩道と道路。拾いに行った時の大人の視線がとても痛かった。そして色んなものが壊れた。はらわたが煮えくり返った。ここまでするのかと。

本当は直接「やめろや!!」と言いたい。けど言えない。それくらい怖かった。



とにもかくにもお父さん関係のストレスや、周りとの家庭環境の差に日々不満が蓄積されていった。

そしてお父さんの顔色をうかがいながら生活していた僕はいつの間にか人よりも敏感な性格になっていた。


——あの人は今こう考えている。あの人はこう言う事を言おうとしている。

あの人はあの人のこと嫌いだな。あの人は今嘘を言っている。とか

僕は友達に嫌われたかな。あの言い方まずかったな。どう思っているかな。

など普通の人でも思うことはあると思うが、考える時間が長く深いのである。

相手がそこまで思っていないことでも深く深く考えてしまう癖がついていた。

それは10年経っても悩んでいることも多い。


他にも、凄惨な事件のニュースを見ても異常に感情移入してしまったり。

フィクション映画を見てめちゃくちゃに病んでしまったり。

このようなことを誰かに話すわけではないので自分の心の中で閉じ込めておくと時々

不安感に襲われる症状が出てくるよになったり、悪夢を見る様になったのもこの頃からである。


高校を卒業したらこの家を出よう。そう考えていた。


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